456『12~3分くらいなら問題ないです。』
「オバさん!
アタシも連れていって!」
「彩佳ちゃん・・。
貴女もラカの声を聞いたでしょう?
魔女と、辛うじて【人土】が呼べるとても細い繋がりです」
「でも・・」
ウィンを取り囲む、三種族。
中でも、【スライム】と化した【人土】達は・・ウィンを覆い被さるように蠢きます。
一瞬、ウィンを捕食する気かと思いましたが・・何やらウィンに触手をのばし、ピカピカと光っており───
【スライム】の体積が減っている?
「や・・山柄さん達は、何をやっているんだ?」
幹太が世話になったらしい自衛隊員が、隣の【人土】の少女に聞きます。
人間と結婚した【人土】などは、相手や子供を見捨てる事は出来ずに残っていますね。
幹太が、そうだから・・でしょうか。
「代表達は小さい『扉』───
いえ・・細い『穴』を開けて、その穴を潜り抜けているんですよ」
「穴?」
「【空の口】の中への『穴』・・【巫女】様へと続く『穴』です」
「よ・・よく分からないが、ソレに俺達は便乗出来ないのか!?」
「む、無理です・・!
もはや『扉』とは言えないほど、歪というか・・」
・・そう。
この『扉』は、かなり歪で・・もはや肉体に物理的な影響を与える程のものであり───魔力体や【スライム】のような存在でなければ潜り抜けられない扉なのです。
人間である彩佳ちゃんが、こんな扉を潜ってしまえば・・死は免れないでしょう。
幹太の彼女 ( では、まだ無いらしいですが ) を、危険にさらす訳にはいきません。
「諦めて下さい。
・・大丈夫、幹太と颯太は私の命に変えても守ります」
幹太から送られてくる魔力の減少などから考えて、おそらくは・・幹太が颯太を命がけで守っているのでしょうから・・。
「でも・・!」
「彩佳、気持ちは分かるけど・・諦めなさいよ」
「奈々・・」
「所詮ワタシ達【人茸】は、四種族なんて言ってみても───三種族の劣化版なの」
彩佳ちゃんが魔力を得てコチラに来る経緯は聞きましたが、かなり特殊だったようで・・さすが幹太の幼馴染み。
類は友を呼ぶ・・と、思ったものです。
「【空の口】が改造した黒キノコと───後はビタちゃんの能力に、幹太から漏れでた魔力をまぜただけ・・ワタシ達のチカラの源は、そんなちっぽけな物なのよ」
「・・・・」
「幹太を・・信じなさい」
「・・ええ」
チカラ無い表情の、彩佳ちゃん。
私もその気持ちは分かりますが・・コレばかりは、どうしようも有りません。
御父さんや父さんも、付いて来たそうですが・・人の限界という物が存在するのですから。
「なら・・せめて───
・・ぐうっ!」
「あっ・・彩佳!?」
「彩佳ちゃん!?」
彩佳ちゃんが、己れの全魔力を振り絞り───一つのキノコを生やし・・私に差しだしてきました。
・・コレ、素手で触って大丈夫なヤツなのでしょうか?
「───せめ・・て・・・・そのキノコを───」
彩佳ちゃん・・。
彩佳ちゃんは、その一言を残して魔力切れにより・・気絶しました。
「・・分かりました。
このキノコは必ず、幹太に」
気絶する彩佳ちゃんを、幹太の仲間達が囲みます。
「・・馬鹿ね、彩佳」
「全くですわ・・。
ワタクシはせめて、三種族として、【人狼の巫女】としての勤めを果たすのみ」
「オレ等は・・みんなを守るッス。
そんで無事を祈るッス。
以前、【空の口】の洗脳を解いた時・・カンタさんに祈りもチカラに成るって教わったッスから」
「・・ふん、傭兵稼業が神頼みなんかしちゃア御仕舞ェよ。
だからコリャあ、御姉チャンを信じるだけだ」
幹太が、秋原家と彩佳ちゃん以外の人間で一番なついている御爺さんが・・ドカッと、やや一団から離れた場所に座ります。
ええ。
神は何もしません。
今、幹太を襲う敵も。
今から、幹太を救う味方も。
みな・・己れの意志を持って進むのですから。
「ラカ」
≪クウ・・いや、アキハラ ソラだったね。
行こう。
こんな、わたしにすらも【巫女】になるような・・頑張り過ぎる子には、手伝いが要る≫
自分を襲った魔女達すら【巫女】に成りたいと言った幹太。
森の民として産まれたのが、幹太だったなら・・私のような失敗はしなかったのでしょうか?
───いえ・・誰であれ、最後に家族や仲間がフォローすれば良いだけの事。
幹太、ウィン。
待っていて下さい。
『ソラ氏。
自分も付いてゆく。
自分も・・『声』が聞こえたから』
「『三者を超えし者』さん・・。
分かりました。
行きましょう、幹太と颯太の下へ」
ナニやら蠢く彩佳ちゃんのキノコをポケットに容れて、私達はウィンの中へ行きます。




