450『大根役者と茶番劇。』
≪まあ・・そんな訳で、確かにまだ屑は居るだろう。
だけど、生き残った人類に罪はない。
わたしの目的は果たした≫
「目的・・」
『ソレ』はラカが、ラカ達魔女が、人間だった頃に受けた恨みを───少なからず、晴らした・・という事だ。
「・・崖下さん、今の地球人類って」
「・・一億も居ないよ。
幾つかの大陸は、動物と【ファフニール】しか居ないしね」
「そりゃ人類の負けだなあ・・」
【ファフニール】撲滅目的で他国に核ミサイルを射ちこもうとするぐらいだ。
恐らくは各国で、責任・被害の擦り付けあいも有ったんだろうし。
≪君達が『あの』ヨランギを倒したように・・わたし達は彼方の戦力を見誤っていた。
・・もし、人類が最初から協力していたなら───負けていたのはわたし達だったろうね≫
日本で【アジ・タハーカ】が出現した時、警察が【人土】の避難を邪魔したし・・「 ヨトーガ、ヤトーガ 」 と叫ぶ連中は、大怪獣相手に自衛隊を出し渋ったし・・。
ラカ達が襲って来た時も、散々俺への悪口を言いながら死んでいったんだろうさ。
≪此方の人類は君達の仲間以外、【空の口】様が洗脳している。
・・だから、わたしの目的は果たされているんだよ≫
「でも・・洗脳で苦しんでいる人もいるんだぞ?
洗脳されて尚、妻に食器を投げつける屑も居たし・・洗脳漏れした屑が、女性を襲うケースもある!」
≪───・・。
・・大いなる目的の為の『小事』だ≫
『小事』。
そう言った、ラカの表情が『鬼』となり・・援軍の自衛隊や【人土】達は、或いは怖れ・・或いは激怒してゆく。
「所詮・・魔女は、魔女か!
悪魔の手先め!!」
「くらえっ!」
【人土】達の魔力吸収を受けたラカを、自衛隊の一人が銃で撃つ。
≪ぐっ・・!?
お、おのれ・・!≫
・・が、ラカは自らが食らった弾丸を撃ったその自衛隊員の足に撃ち返す。
あとは、意に介さないと言わんばかりに・・ラカは、俺の方へと向く。
≪───やはり、魔女と・・君達人間とは相容れないのだな≫
「・・ああ。
この茶番劇を、終わらせよう」
巨岩を持ち上げ、幾つもの凶器を造りあげてゆくラカ。
辺りに・・数えきれない程の、岩製ナイフが浮かぶ。
≪死ね、アキハラ カンタ≫
「消えろ、ラカ!」
先程のヨランギへの弾雨の如く、無数の岩が俺へと降り注ぎ・・ラカも突進してくる。
≪その魔力、貰う!≫
「幹太くん・・!?」
「【巫女】様!」
岩弾は・・俺に届く事はなく、ラカは魔力吸収により───消滅する。
「・・馬鹿が」
援軍から上がる歓声。
俺は程々に応えて、【空の口】への魔力譲渡を再開。
・・ハァ。
「───幹太、有難う御座います」
「母さん、俺は・・」
「分かっています」
母さんが懐かしむように・・呟く。
仲違いのように成ってしまったけど、母さんとラカは『志』を共にした・・仲間だったんだ。
・・寂しいだろう。
「颯太や彩佳ちゃん、此方の【人土】達を見れば・・アナタ達の『魔法使いの目』が、ラカに『真偽以上』の物を見ていると分かりますから」
「・・そう」
魔法使いである【人土】は元から。
俺が【巫女】になった事で、疑似魔法使いになった自衛隊員等達も。
真偽の分かる『魔法使いの目』を得たことで、彼等もラカが嘘を付いていないのは分かっただろう。
・・でも。
善意悪意の分かる『感情レーダー魔法』は持ってないから・・最後、ラカが『善意を抱いて』俺に消された事は分かってないだろう。
俺の感情レーダー魔法を会得している、彩佳やザレに俺に付いてコチラの世界に来た【人土】などは・・ラカの感情に気付いていた。
「日本の大炎上中っていう、半テロ組織のせいかしらね。
ヨランギとの戦いで、せっかく人類が団結して『反・幹太』を消そうって時だったから」
「地球人類の多くを殺した魔女の、その首魁を・・幹太が倒せば、幹太は地球の英雄ですからね」
「興味ないなー」
日本の特番では、【空の口】が【アジ・タハーカ】を送りだしたとなっている。
今回の生中継で、ヨランギが全ての黒幕となりはした。
まあ・・それでも、だ。
【空の口】が魔女を産みだした事を日本人が知っているのかは分からないけど・・俺達が今の【空の口】を復活させる───その邪魔をさせないようとしたのかもな。
「【空の口】が目覚めて・・息子を殺された事への心の傷を、なんとかするっつってたけど・・消えてどうすんだよ」
「彼女は、消滅した訳ではありません」
「そうなんですか、オバさん?」
「魔力体と魂は、限りなく似ていますが・・似て非なる物です。
今の私達が肉体に魂が入っているなら、彼女は魔力体の中に魂が入っています」
「へー・・魔力体だけが死んだって訳ですね」
「地球でヴォイドを操れる奴ならヴォイド体ってのも作れそうだな」
アッチにとっての魔法使いじゃないから、その辺は分かんないけど。
「ラカが・・何のつもりで、あのような事を言ったかは分かりません。
・・ですが、嘘をついていなかったのですから何か有るのでしょう」
「・・そうだね」
ラカは・・『『あの』ヨランギ』と、言った。
『どの』ヨランギなんだろう。
ラカは、【空の口】の中にヨランギが居たのを知っていたのか?
魔女にしてもらい感謝していた【空の口】を裏切ったヨランギの事を。




