449『≪次、何処を攻めるー?≫≪私、其処のネトカフェでググってくるわ≫』
「奴が・・ヨランギの様子が変だゼ?」
≪糞っ、糞っっ、糞ォォっっっ!!≫
ヨランギが両手を突きだし、防御魔法を展開している。
けど・・ヨランギの頬に、一筋の赤い線が走っていた。
一つ。
たった一つだけ。
この砲煙弾雨の中・・ヨランギに与えた傷は、掠り傷がたったの一つだけ。
・・だけど。
「ヨランギの防御を突破した・・!」
「ヨランギにダメージを与えたぞ!」
『───ヨランギとて、チカラは有限。
何時かはチカラ尽きる・・!』
そうだ。
俺には、俺のワガママを聞いてくれる人が・・こんなにも居る。
ヨランギは、仲間を騙し裏切り続けた奴は・・あそこで一人ボッチだ。
≪寄って集って、群れなきゃ何も出来ない卑怯者どもがァァァ!!!≫
「今はオマエを倒すのに、一つになってんだろ。
物質強化、振動吸収、爆発強化」
俺の魔力は、俺の魔法のキャパシティを遥かに上回る。
一つの魔法に込められる魔力は、ごく小さな物なのだ。
ソレでも無理して、一つの魔法に魔力を込めようとすると・・反動が、肉体へと返る。
・・この両腕が、その結果だ。
「・・俺自身の100%は、俺自身で出せない。
俺の100%を、みんなに託す」
みんなの。
銃器へ。
戦車へ。
弓矢へ。
岩石へ。
魔法へ。
技能へ。
俺の魔力を送る。
俺の全力を送る。
「コレが俺の100%だあああああ!」
「幹太くん・・。
地球にはまだまだ、君の敵はいる。
君を排除しようとした者しかり。
政治利用しようと、今回の援軍を出し渋ろうとした者しかり。
だけど、少なくない味方もいる!」
「いくッスよ!
対物ライフル&非爆発型貫通魔法っ!」
「おう、オメェ等!
なんでも良い、あの馬鹿餓鬼にブチ込みやがれェ!」
「奈々。
アタシの100%に、アンタの100%をちょうだい!」
「あ、彩佳の100%・・なんでそんなドス黒いの?
ワタシのキノコ兵・・一瞬で悪魔みたいな見かけに成ったんだけど?」
「【人狼】の皆さま!
ワタクシ達を御守り下さいませ!」
「ザレ様の命令のままに!」
「ピヒタ姉様、みなさん、私達を守って欲しいのです」
「平和になれば、世界食べ歩き旅行に行くわっ!」
「貴方のワガママが、男尊女卑を生み・・カンタさんのワガママが、貴方の野望を打ち砕く・・。
なかなかドラマチックではないかしらぁ~?」
『ヨランギ・・もう休むとイイ。
覇者と聖者には、自分から言っておく』
「・・幹太姉ちゃん!
いっくぞおおおおおおおおおおお!」
≪───く、そ・・・・!
お母・・さ・・ん・・≫
衝撃。
轟音。
ヨランギの防御魔法が破れた。
降り注ぐ、攻撃。
あがる着弾の煙と血飛沫。
ヨランギの・・頭が弾け飛ぶのを、確認した。
「「「撃ち方やめ!」」」
「「「警戒、警戒っ!」」」
魔力・・消滅。
ヴォイドも、無し。
ヨランギは・・死んだ。
「ヨ・・ラン・・ギ・・・・」
「御免なさい、ウィン・・。
貴女の息子は、私達や秋原家のような・・家族や仲間を第一に考える者とは違う───恐ろしい『ナニか』に成ってしまった」
「母さん」
「幹太・・」
銃を構えた自衛隊員と、傭兵団、数人がヨランギの死体の下へ。
更にその外周を膨大な人数で取り囲む。
残りの人間は周囲の警戒、武器や怪我人のチェック。
「妹は、眠りにつきました」
「・・そう」
目の前で、息子を殺されたら・・俺ならどうなんだろう。
家族なのに、秋原家の一員なのに、俺達を信用しない息子。
俺達を裏切る息子。
希代の悪を遺し、振りまく息子。
まあたぶん、未熟な俺だ。
息子が悪くても・・相手を恨むんだろうな。
「でも俺達は、ヨランギに『こう』するしか無かったし・・許して貰えるとは思わないけど、【空の口】の『魔力譲渡』を再開するよ」
「ええ・・御願いします」
ヨランギが、【空の口】から魔力を奪いつつ抜け出た時・・既に【空の口】の意思は、無いも同然だった。
せめて、残酷なシーンだけは見てないと良いな・・というのは、希望的か。
俺の魔力譲渡を受け───少なくとも、表情は和らいでゆく【空の口】。
「心の傷を癒す前と後・・どっちがオマエにとって、幸福なんだろうな・・」
魂の傷は分かんないけど、心の傷は癒えてんのか?
心の傷・・俺達が息子を殺した事は癒されはしないんだろう。
「・・母さん、魂の傷は?」
「・・癒えつつあります。
心の傷は・・どうなんでしょうね。
私も、貴方達が間違った事や危険な事をした時は叱ったりしましたが───」
≪もしもの時は、わたし達が支える≫
「え?」
声のした方へ振り向けば・・そこに居たのは───
「ら、ラカっ!?」
コチラの世界とアチラの世界、屑を皆殺しにし・・魔女だけの世界を作ろうとした───魔女。
「ま・・魔女っ!?
総員、戦闘準備ぃ!」
≪無駄だよ≫
「無駄だと?
今の我等なら、魔力体といえど・・」
≪そうじゃない。
なんなら、わたしを殺そうと構わない。
抵抗しないよ≫
ラカの様子が・・最後に見た時と全然違う。
俺達にとっては数日前だけど、ラカ達魔女にとっては一年以上たっているから・・とも違う。
なんかこう・・角が取れたっていうか、慈母みたいな雰囲気っつうか。
≪わたしの目的は果たされた。
彼方の・・地球侵略は終わったんだ。
今更わたしを殺そうと、コレ以上は誰かが死ぬ事も救われる事も無い。
・・たから無駄だよ≫
「ラカの目的・・」
最初は・・ほんの僅かの男を残して人類を皆殺しに、とか言っていたんだよな。
≪君に負けた後の会話で、わたしは譲渡しただろう?
君の仲間なら生かしても良い。
君の選ぶ人間なら生かしても良い、とね≫
ラカ達の切り札・・劣化街破級の群。
アレを倒した後のやり取りか。
「つってもなあ・・。
まだ半テロ組織とか残っているらしいぞ?」
≪時間の問題だね。
ええっと・・ほら、其処の彼≫
「は?」
ラカが指差す方を見ると───
「で、ディレクターさんっ!?」
「あちゃー・・見つかっちゃいましたか」
ソコには、日本で『対【空の口】特番』を作ったディレクターさんが・・自衛隊の服を着てカメラを向けていた。
この人、俺にナイショで俺の写真集を作ったり・・中々突拍子も無い事をヤる時があるけど・・何しよるんっ!?
「いやあ・・幹太さんの、生の表情が欲しくてコッソリ付いてきてコッソリ撮影してました」
「何やってんの、オッサン!?」
「ちなみに、今の僕は自分で作ったTV局の社長です」
「知らねぇよ!?」
ホンマに何しよるんっ!?
≪今、彼の映像は世界中にライブ発信され・・君の反対勢力は大炎上だよ。
ああ、ネット用語で無い方の意味でね≫
ず・・随分、向こうの言葉に詳しくなり申したでゴワスなあ。
≪まあ・・そんな訳で、確かにまだ屑は居るだろう。
だけど、生き残った人類に罪はない。
わたしの目的は果たした≫




