446『歯ぁ・・磨いたか?』
服の一部が、髪の一部が、皮膚の一部が・・多少焼け焦げてはいるが───
≪ボクは【空の口】の、実の息子・・!
魔力を消し去る【ヴォイド】も持っているのさァ・・・・!!≫
「───ヨランギ・・!」
少しばかり、よたつきは見えるけど・・大したダメージを受けているようには感じられないな。
彩佳が叫ぶ。
「か・・幹太、【オウゾク】よ!
【オウゾク】もヴォイド攻撃と魔法攻撃を同時に使おうとしたけど・・相性が悪くて、同時に使えなかったわ!」
≪・・ふん。
やっぱり、お母さん以外の女は馬鹿ばっかりだね≫
ヨランギが彩佳を鼻で笑う。
「彩佳・・今のヨランギはどうゆう仕組みか分からんけど、二千年前の記憶を『魔女でもないに』有しているんだ」
「・・?
それは分かってるけど・・」
二千年前前の記憶を有する、という事は・・魔法使いのまま、魔女の能力を得たのかもしれない、という事。
取敢ず魔女の能力で、『怖い』というか───『面倒くさい』能力は、『魂だけで活動するチカラ』・・魔力体だ。
魔力体には、魔女といえど全員が成れる訳では無い。
が・・なにより。
フィクションの『幽体離脱』みたいに、自由自在に肉体へと戻れる訳では無いらしい。
言ってみりゃあ肉体の死後、普通なら青い世界へと行く『死者の魂』が・・現世に残ったまま、魔力体として活動・・まあ、地縛霊とか浮遊霊になる能力だよな。
もしくは、転生せずに魂のまま実世界へと現れる能力。
・・コッチは、先祖霊とか背後霊みたいなモンか?
とにかく『成る』にも『成ってから』にも、様々な制限が有るが・・物理 ( 炎や風ふくむ ) 攻撃が効かないという能力がひたすら厄介なのだ。
「だから攻撃には、颯太の魔力吸収パンチを参考に、魔力吸収を上乗せしていたんだけど・・」
「ヴォイドで、防いだんじゃないの?」
「ヴォイドだけなら炎魔法は消せても・・炎によっておきた、無酸素状態までは消せないよ」
「なら、魔力体?」
「ソレにしちゃあ・・僅かとはいえ、ヨランギはダメージを受けている」
「・・え??
どゆコト?」
俺の説明に、ヨランギが 「 クックックッ 」 と笑う。
・・人を、小馬鹿にした笑顔で。
「アイツは・・空間内爆発魔法を消す、『ヴォイド』と・・酸素を用意する『魔法』───同時に、使ったんだ」
「なっ・・!?」
魔力吸収は、トカゲの尻尾切りに用意した魔力に誘発させたんだろう。
・・本当に戦い方が上手い。
彩佳の驚嘆に・・ヨランギが、大声で笑う。
滑稽なモノでも見るような目で、指を差しながら。
≪ハァーッハッハッハッ・・!
中々笑わせて貰った。
コッチの女はあの一瞬で、よくソコまで見抜いたね。
魔女よりは便利な妻に成りそうだ≫
「成らねえよっ!?」
この世界全てにおける、男尊女卑の元凶。
仲間である魔女達への侮辱。
実の母親を、心の奥底では魔力タンクとして程度にしか見ていない。
───こんな屑の妻になんか、誰が成るもんか。
≪ボクは・・ボクこそは。
全世界に唯一人の、両世界の、魔力世界とヴォイド世界の───両方の血肉を持つ存在。
両方のチカラを使える存在・・両世界のゴミ共を支配するに相応しい存在なのさ!≫
あー・・そうゆう事か。
今んとこ異世界へと渡ったのは、魔女と ( たぶん ) 俺達だけ。
魔女が子供を産んだのは、母さんと【空の口】の二人だけ。
母さんと父さんはどっちも地球人。
ヨランギは、つまり・・。
( ・・ん? なんか知り合いの地球人に、酔っぱらってコッチの男を押し倒して妊娠中の人が居たような? )
「とはいえ・・だ」
ヴォイドが有るなら、大概の魔法は効かない。
俺は役立たない。
颯太に任すにしても、ヴォイドと同時に魔法を使える奴相手に一人だと───
≪ふん・・そう、怯えるな。
地獄の後は───このボクの妻になる権利が与えてやるのだから≫
「くっ・・颯太に、異世界物質迎撃魔法!
俺は、高速回転刃で・・」
≪無駄だ!≫
「「わあっ!?」」
一瞬で、俺と颯太に使った魔法が消滅する。
どっちの魔法も、『対ヴォイド用』に作った魔法だというのに・・!?
≪ふん、魔力吸収は一手間も二手間もいるが・・ヴォイドは、魔力に触れた瞬間発動する。
格が違うのだあっ!!≫
更に、俺は自分のチートにかまけて、颯太ほど攻撃に魔力吸収を上乗せする訓練をしてこなかった。
俺のせい・・。
また、俺のせいで・・颯太が、母さんが、彩佳が、ザレが、ビタが、ジキアが、実世界で待つ仲間が、地球の知り合い達が───
「幹太!」
「───はっ・・!?
あ、彩佳・・!?」
「幹太・・また、悪い顔に成っていたわよ。
・・アンタのせいじゃ無いわ」
「彩佳・・」
「そうですわ、御姉様。
まだ、手は有りますわよ」
「ザレ・・」
「あんな奴、ボコボコにして殺るのです!」
「ビタ・・」
「カンタさんを妻にするのは、オ───痛ひ、いひゃいいひゃい!
おひゃーひゃま、いひゃいッフ!?」
「貴方に御義母様と呼ばれる筋合いは『まだ』有りません」
「ジキア・・母さん・・」
皆が、自分達のピンチなのに・・まず俺への気遣いを見せてくれる。
・・有難う。
だけど、だからこそ───
『アキハラ カンタ。
自分達への・・仲間全てへの【巫女】を止めるべきだ』
「『三者を超えし者』・・!?
何を・・何を言いだすんだ!?」
『自分も・・ヨランギがヴォイドを使える事など、知らなかった。
おそらく───他にも幾つか、奥の手が隠されている。
それでも。
ヨランギとて、チカラは有限。
いつか限界がくる』
「なるほど・・そういう事ね。
限界まで持たせるには───」
『───アキハラ カンタが、莫大な人数に莫大な魔力を送るのを止め・・自分優先で戦ったなら・・』
≪『勝てる』・・とでも言いたいのかい、賢者ァ?
ソイツが100%のチカラを発揮したら、このボクに・・英雄ヨランギに勝てるとでも?≫
【オウゾク】も。
今までの敵も。
何とか、このチートで乗りきってきた。
俺の為だけに使えば、あるいは・・。
「・・勝てる」
≪あ?≫
「俺の為だけに・・。
俺のワガママの為だけに・・皆に俺のワガママを押し付ければ───オマエに勝てるっつってんだよ」
「幹太・・アタシ達の事は、気にしないで」
皆が、力強く頷いてくれる。
・・すまない。
≪・・・・・・ぷっ♡
プアーハッハッハ!
な、ならやって見せろよ!?
さっき散々ボクとお母さんの絆を馬鹿にしといて・・イザとなったら途端に仲間を見捨てて得る、そのチッポケなチカラを見せてみろよォ!!!≫
みんな・・ごめん。
「俺の知る、全ての人達!
奈々!
崖下さん達、自衛隊!
地球の全【人土】!
みんな来てくれ!
みんなにチカラを渡すから、みんなで俺を助けてくれ!」
空間に。
≪なっ!?
なあ・・!?≫
『・・・・あ、アキハラカンタ?』
「か、幹太・・アンタねえ」
青い世界の至る空間に。
「きれーい・・♡」
「満天の星空みたいなのです・・!」
『扉』が開く。
「か、幹太・・私達は、『まず』アナタに生き残って・・」
「御義母様・・御姉様に、『まず』とか───あまり順番に意味は有りませんわ」
「そもそも・・そんなん、カンタさんの中に欠片でも存在したなら、とっくの昔にオレ等の誰かが死んでるッスよ」
あちらも、大変だろうに。
こんなにも、俺の呼び掛けに応えてくれた人々が『扉』をくぐり抜けてやって来てくれた。
≪キミは・・キミは、一体何者なんだ!??≫
俺は誰の、『雑魚』だよ。
「・・俺自身の100%は、俺自身で出せない。
俺の100%を、みんなに託す」




