442『チーレム、難聴、ヤレヤレ、悪女弾劾。』
【空の口】の中から、『男』が分離する。
・・雰囲気は、【空の口】に似ているっつうか・・。
「誰だ、オマエ!?」
≪貴様ぁ、誰に向かってそんなクチをきいているのだぁぁぁ・・!
ボクは英雄だぞぉぉぉ!≫
「え、英雄・・?」
嘘は、ついていない。
・・それはつまり───
『───本物の、英雄。
【空の口】の息子、英雄・・ヨランギだ』
『男』が分離した途端・・【空の口】が気を失う。
しかも、分離の際に【空の口】の魔力の大部分が『男』へと移動したようだ。
≪あ・・ぅ・・・・ヨラン・・ギ≫
≪───大丈夫だよ、お母さん≫
・・ヨランギ。
英雄ヨランギ。
二千年前の・・英雄。
・・この、馬鹿坊っちゃん丸出しの男がか?
泥のような意識が・・徐々にハッキリと輪郭を持ってゆくのは分かるけど。
≪ふうぅぅぅ・・・・。
おい、女≫
「・・あ?
お、俺の事か・・?」
≪喜べ。
ボクの目に適ったキミは、ボクの妻にしてやろう≫
キモモモモモモオいぃ・・!!
なんだコイツっ!?
マジで気持ち悪いぞっ!??
『よ、ヨランギ?
何を言っている?
貴方は死んだ筈だ。
貴方は魔女では無いのだから・・この青い世界で肉体も無く、そんなに意識を保てるハズが───』
≪───はあ。
賢者、キミは昔からそうだ≫
『は?』
≪キミは昔から自分勝手だ≫
『よ、ヨランギ?』
マジで、何なんだコイツ?
『三者を超えし者』は何も変な事は言っていない。
紛う方無く、コイツは『魔法使い』であって・・『魔女』では無い。
今の俺達みたいに、肉体を持って『青い世界』に来たワケじゃないのに・・ハッキリと意識を持っている。
更に・・【空の口】と分離、【空の口】の魔力を奪ってからは───もっと意識がハッキリとしてきている。
有り得ない。
当然の疑問。
当然の質問を、『三者を超えし者』はしたんだ。
・・だのにコイツは、いきなり『三者を超えし者』を罵倒し始める。
≪ボクが、この哀れな女にボクの愛を恵んでやろうとしたら・・そんなに邪魔をして≫
「邪魔?」
いつ? 誰が?
哀れな女って誰??
≪自分だけが、正しいと思っていて。
自分を、皆が好いていると勘違いて。
自分だけが、このボクの愛を恵んでもらえると勘違いしている≫
「こ、コイツ・・」
≪ボクの妻に相応しい、品性を持つべきだぞ?≫
キモいキモい、マジキモい。
『三者を超えし者』の質問を、俺へのプロポーズの邪魔と捉えたのか?
どういう思考回路しているんだ・・??
【人土】代表の一人、田坂もキモかったけど・・桁が違う。
「『婚約破棄ものの悪役令嬢』みたいな事を言われてるけど・・コイツ、マジで言ってるのかしら?」
『よ、ヨランギは・・・・。
・・確かに女好き。
次から次へと、美女・美少女をパーティーに入れていた』
彩佳の質問に、言い淀む『三者を超えし者』。
そういや以前、ヨランギの事を『チーレム転生者では?』と、疑った事が有ったなあ。
「ヨランギはアナタ含め、複数の妻を持つそうですが・・序列など無かったのですよね?」
「自分の好みで無くとも、助けるべき女性を助けたのですわね?」
『あ、あれ?
えーっと、ええーっと・・??』
母さんとザレの質問に、言い淀む『三者を超えし者』。
こりゃ完璧に助ける人間を、美人かどうかで選んでんな。
その事その物に文句はない。
俺達は【空の口】の洗脳を解くのを、男尊女卑の『被害者』か『加害者』かで決めた。
ソレと何ら変わりない。
だから、その事その物に文句はない。
ただ・・ソレを自覚しているか、いないか、という話だ。
『善意』でヤっているか『悪意』でヤっているか、という話だ。
「アンタさあ・・こんなのが良かったの?」
「『三者を超えし者』さん、【人土村】で人気あったよぅ?」
『あ・・あの───』
≪キミ達≫
ヨランギが、『三者を超えし者』に語りかける俺達を呼び止める。
呼び止めた時の表情は、渋い顔。
その後は 「 仕方無いなあ 」 っつう・・ヤレヤレ顔。
≪このボクに免じて、あまり賢者を苛めないでやってくれ≫
どのクチが言ってんだ。
≪・・そうだな。
キミ達ならボクの救世に相応しいし、お嫁さんに成る権利を上げよう≫
「「「「「「キモおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉいっ!」」」」」」
マジなんなん!?
皆して『三者を超えし者』に対し、ヨランギの悪口を言っていたのを聞いてなかったのか!?
だから止めたんじゃなかったのか!?
『三者を超えし者』は、流石にヨランギが超異常者だと気付いたか・・頭の上に、疑問符を沢山浮かべている。
目ぇ、覚ませ。
『恋は盲目』だとか『痘痕も笑窪』なんて意味の言葉はいっぱい有るが・・二千年近く、一度も死なずにさ迷うウチに『ヨランギ』を、『ヨランギと自分達』を客観的に見られるように成ったっぽい。
「お、御義母様?
御義母様はヨランギの性格などを、ご存じなのですか?」
「い、いえ・・。
妹が【空の口】である事も、ヨランギの事も・・私が『秋原 昊』に成る直前に聞いたので・・正直、皆さんと同程度の知識しか有りません」
「『三者を超えし者』さんの悪口を言っている間も、私達にプロポーズした時も・・ずぅーっと『善意』なのですぅぅ」
「こ、怖いよォ・・理太郎くん・・」
皆も引いている。
プロポーズにしても・・『善意』と言いつつ、「 ごみ捨て場 」 から 「 拾ってあげた 」 といった意志が見え隠れする。
完全に俺達を見下しているのだ。
「ヨランギ」
≪気安いぞ。
・・だが、まともな教育をうけていない妻となる者を包むボクの寛容を感謝するんだな。
・・話せ≫
「───お前は、何で【空の口】の中の青い世界に居た?」
≪ふん、まあ此処まで来れた褒美に教えてあげよう。
・・母さんの為さ≫
「【空の口】の為?」
一々、芝居がかったリアクションで語るヨランギ。
ガロスとか、自分に酔った感じの奴は今までにも何人か見てきたけど・・コイツは格別だ。
酔ってるっつうか、溺れるっつうか。




