441『馬鹿坊っちゃん。』
「【空の口】の中に・・誰か、別人が居るっ!」
「ウィンの『中』に・・!?
か、幹太・・それはどういう意味ですか!?」
「『青い世界』の中の『青い世界』───
【空の口】の中の世界へ、誰かに先回りされたんだよ!」
「そんな・・!
ウィンの中へは、通常の『青い世界』と違って『扉魔法』でヒョイヒョイ行ける場所では有りません!!」
母さんは、やや半狂乱気味に捲し立てる。
それだけ最強存在たる【空の口】の中は、強固な『壁』に守られているんだろう。
だけど・・分かるぞ!
『本能』で動く【空の口】の中の───明確な『意志』を持って動く『存在』を!
「誰なんだ、オマエ───
・・・・・・・・うひゃっ!?」
「か、幹太!?」
「カンタさん!?
どうしたんスかっ!?」
お・・俺の『魔力譲渡』の『流れ』に逆流してきて・・『誰か』の『感情』とかが・・・・!
「あっ・・あ、ああ・・あっ・・ふああっ!?」
「幹太!?
幹太、大丈夫なのですか!?」
「ちょっ・・幹太!?」
みん・・な・・・が・なん・・か・・・言って・・くる・・・・けど・・・あ、頭が・・真っ白に───
「ひあ・・ぁ・・・・!?」
「・・ゴクッ。
じ、ジキアさん・・御姉様の『コレ』って・・!」
「そ、そうッスね・・ザレさん。
『コレ』は・・!」
母・・さ・・・・助───
「あ、アナタ達は見てはイケません!?」
「ぶぅー・・。
幹太姉ちゃんを離せぇ!」
───ぅ・・あ・・・・。
「・・仕方有りません。
ビタさん、ザレさん、颯太も!
【三種族の巫女】としてのチカラを使って下さい!」
「分かったのです!
カンタお姉さん!」
「御姉様に対し、なんて羨ま・・破廉恥な事を!」
「僕は【巫女】の予備だけど・・幹太姉ちゃんの為に頑張るぞ!」
「今まで幹太達が、【空の口】の洗脳パスを断ち斬る時・・アタシ達だって微力ながら手伝ってきたんだから!」
「そうッスよ!
カンタさんに、そんな顔させて良いのはオレだけ・・ハイ、御免なさいッス・・」
≪──────・・っっ!≫
───あ・・あ?
・・ああ?
お、俺は・・?
「・・み、みんな?
ああ・・なんとか、脱出できた・・。
みんな、有難う。
でも、頭がクラクラするなあ・・俺に何が起こったんだ??」
「私も父さんと毎晩───いえ、何でも有りませんが、とにかく幹太は息を整えて!」
母さんの、謎の前置きは置いといて・・。
ザレと初めて会った時、トラウマに囚われたザレを大人しくさせる為に魔力吸収をした時・・ザレの感情が逆流してきた事が有った。
あの時の感覚に限りなく近いが・・ザレの感情は、ザレの意識に関係なく俺の中へ逆流してきたのに対し───
【空の口】の『中の奴』は、意図的に俺へ感情を送りこんできたぞっ!?
「流れこんできた感情は・・独善的な善意!
俺達みたいに、『開き直って』洗脳するんじゃなくて・・本気で自分が正しいと思っているし、相手が喜ぶと思いこんでいる───そんな感情だ!」
≪・・『思いこんで』ってのは、無礼じゃないかね?
キミぃぃぃぃ・・?
今キミはこのボクに触れ、喜びに満ち満ちている筈だぁぁぁ・・!≫
「・・あ?」
ま、マジキショイぞコイツ!?
【空の口】の中から・・明らかに【空の口】の声とは別人の声・・『男』の声がする。
『こ・・この声・・まさか───』
「『三者を超えし者』さん?」
『男』の声がした途端・・『三者を超えし者』が、慌てはじめる。
「こ・・この声に心当たりが有りますの!?」
≪ソッチのキミぃぃぃ・・。
このボクの声を知らぬとはぁぁ、無礼であるぞぉぉぉ・・!≫
「・・いや、知らねえッスよ」
全くだ。
だけどジキアが声掛けした、その一瞬で・・声が激昂の物へと変わる。
≪下賤な男如きが、このボクに話かけるなあぁぁぁ・・!!≫
なんだコイツ・・!?
見える魔力量は、俺や【空の口】クラスなのに・・なんかやたら、俗っぽいっつうか・・。
≪んんん・・?
懐かしいなあぁ、賢者ぁぁぁ・・!≫
『・・やはり貴方か』
≪気安いぞぉぉぉ・・!≫
【空の口】の中から、『男』が分離する。
・・雰囲気は、【空の口】に似ているっつうか・・。
「誰だ、オマエ!?」
≪貴様ぁ、誰に向かってそんなクチをきいているのだぁぁぁ・・!
ボクは英雄だぞぉぉぉ!≫
「え、英雄・・?」
嘘は、ついていない。
・・それはつまり───
『───本物の、英雄。
【空の口】の息子、英雄・・ヨランギだ』




