439『「あ、アンタ達・・その時、素足だったのよね」「喩え話だ、喩え」』
「ココは、犬ゴリラに襲われた場所───俺と颯太が転移してきた場所、だ」
ザワつく物はある。
けど、ちょい嫌な思い出・・って程度だな。
ソレこそ・・異世界に来て記念すべき旅の第一歩目で、犬ゴリラのウ○コを踏んだようなモン程度だ。
「大丈夫・・なのね?」
「ああ。
0・・とは言わんけど、充分許容範囲内だよ」
「御姉様が・・御姉様が、アヤカに誑し込まれてますわ~ ( 泣 )」
「まあ、ソレが洗脳だからなあ」
「ふふん・・早い者勝ちよっ!」
王族が攻めてきた時、前後不覚になった俺を彩佳が『癒してくれた』から・・今の俺がいる。
中には、自分のチカラだけでトラウマを乗り越えなきゃ成長できない・・って言う人も居るだろうけどさ。
こんなモン、唯の毒だ。
解毒できるんなら、さっさと解毒して洗い流した方が良い。
「・・で、母さん?
ココから【空の口】の下へ?」
「ええ」
「日本の秋原家道場から、コッチの世界に来た時は・・最初はココ。
二回目が魔物の森だったんだけどな」
「二回とも、オレが近くに居たッス」
嬉しそうなジキア。
「偶々です。
関係は有りません」
「そ・・そうッスよね」
項垂れるジキア。
「た、確かに一回目は偶々だけど・・二回目は、ジキアとの魔力パスの繋がりを利用したんだからジキアのお陰だよ」
「そうッスよね!」
嬉しそうなジキア。
・・単純ッスね。
まあその辺もジキアの魅力だ。
「まあ良いでしょう。
それよりココで『扉魔法』を使います」
「普通に使って良いの?」
「ええ。
幹太は扉魔法に必要な魔力と制御力は持ちますが・・行き先は指定出来ませんよね」
「『指標』が無いと無理かな」
「なので、指定は私が持ちます。
ソレ以外は幹太に御願いします」
「ん、分かった」
てな訳で、扉魔法開始。
もう三度目だ。
扉その物はチャチャッと簡単に開く。
『いや・・三度目とか、関係ないと思われるが』
「一連の流れを覚えて再現すりゃ良いだけさ」
『貴女だけ・・いや、もう良い』
「・・彼方側も繋がりました。
進みましょう」
◆◆◆
青い世界。
魂の世界。
「アタシやオジさんが初めて異世界へ来た時の道とも、ちょっと雰囲気が違うわね」
「【青い銀星王国世界】・・ともちょっと違うのです」
「そうだな。
異世界転移に通った時のは、もうちょい " 宇宙的 " とでも言うか・・。
今回のはソレで言うなら " 生物的 " とでも言うか」
「強いて言うなら、カンタお姉さんの【巫女化】した風船の中が近いのです」
日本に出現した『街破級【アジ・タハーカ】』の時か。
そん時の事は、未だに思い出せないんだけどな。
『俺の中の魂世界』と『【空の口】の中の魂世界』という共通点はあるな。
『風船・・か』
「ん?
どした、『三者を超えし者』?」
『『元の自分』や【魔王の粘土】に、そんな風船化のような能力は無い。
自分の子孫といった事は関係ないのでは?』
「ようは空飛ぶ形態の【スライム】だろ?」
ザレ達が、『巨狼の群れ』に変身したように。
ビタ達が、『天裂く大樹』に変身したように。
【巫女化】した俺達は、『風船の如き空飛ぶスライム』に変身したのだろう。
山柄さん達が俺を【人土の巫女】に仕立てあげたあの時は、俺の意志は介在していないし、【巫女化】形態については偶々だ。
「【スライム】って空飛ぶのかしら?」
「飛ばないッスよ」
「飛べたら街破級ですわ」
まあ【巫女化】した俺達は、その街破級を即死させた訳だけど。
『───・・。
実は自分も【巫女】関連の世界魔法は、作りはしたが姿は決めていない。
【巫女】のチカラ+アキハラ カンタの魔力・・だとは思うのだが』
「・・幹太の魔力というより、幹太の中の『部屋』が関連しています」
「俺の中の・・『部屋』?」
「ソレは───」
母さんが二の句を告げようとした時、莫大な魔力が辺りに溢れだす。
こんな魔力は。
こんな魔力の持ち主は。
「みんな、俺の後ろに。
こんな馬鹿げた魔力・・魔力汚染とか成りかねない!」
───と、俺が焦っていると・・アレ?
焦ってんの、俺一人?
「いや・・シリアスなトコ悪いんだけどさあ、普段のアンタがこんなモンだから」
「は?」
「確かに幹太クラスの魔力持ちが居るのはビックリだけど・・」
「コレで魔力汚染に成るなら、御姉様が本気になられた時など・・とうの昔に成っているかと」
「カンタさん、初めて自分と同レベルの魔力を見てパニくってるだけッスよ」
「カンタお姉さんは、もっと凄いのです」
「幹太姉ちゃん強いもんね!」
『自分はその高濃度魔力を浴び続けさせられた・・』
・・なんか若干、妖怪か怪談あつかいされている気がする。
あと『三者を超えし者』は、あの時ケンカを売ってきたのはソッチだ。
「───行きましょう。
ココからは本来、ラカ達魔女ですら立ち入れない場所です」
『・・自分も初めて』
颯太と『三者を超えし者』と共に、魔力吸収で周辺魔力濃度を下げつつ先へ進む。
王族はこんなトコまで浸入してきたって事か・・魔力量はともかく、魔法技術は完全に負けだな。
さすが二千年前、魔法欲しさに・・森の民の幼女を襲った一族の子孫だ。
執念が違う。
「んー・・?
なんか魔力に " 流れ " が・・」
「幹太ん中にも、この " 流れ " が有ったわよ」
「その先に、幹太姉ちゃんが居たんだ」
「成る程な」
やがて着いた場所。
そこには───
『魔王』だ、『城破級』だ、『全人類の敵』だ・・などのアダ名など似合わなさそうな『少女』が居た。
≪こんにちは≫
「・・こんにちは。
やっと───会えたな」
二千年間、【空の口】と呼ばれた少女が居た。




