438『「ま、まさかイキナリこんな強力な敵が・・!?」「深く考えすぎ」』
「ザレさん、そちらの道を右にお願いします」
「分かりましたわ、御母様」
「ん?
この道ちょい、ボコついてんなあ。
土魔法で均しちまおう」
「お願いしますわ」
運転席にザレ。
助手席が俺。
窓から手を出してシャラララン。
「・・幹太」
「何、母さん?」
「貴方・・腕を治さないのですか?」
「・・・・」
母さんの言葉に、車内がちょっとだけピリッとした雰囲気になる。
「事情は聞きました。
責任は私に有るのでしょう」
「・・そんな」
「私の失敗で妹が【空の口】になり。
私の短慮で幹太を争いに巻き込み。
私の早計で無力のまま異世界へ送り。
私の無配慮で【レッサーハウンド】に襲われ・・」
「関係ないよ」
沈む母さんに、全くの平常心で語りかける。
「・・確かに、一時期トラウマに捕らわれていたし、その事で腕治さないつもりもちょっとだけ有ったけど・・」
「うん」
颯太と、視線を交わし・・お互いに微笑む。
「男尊女卑とかの屑関連以外───
異世界に来てからずっと楽しかったしね」
「そうだよっ!
ジキアさん達ディッポファミリー傭兵団や、ザレさん達女学園の皆や、ビタちゃん達にも会えたし!」
「ああ!
母さんには感謝しても、恨みなんか一個も無いから」
コレは嘘偽りない真実。
父さんや源太ちゃんに彩佳と会えない寂しさは有ったけど・・二度と会えないなんてコレっぽっちも思っていなかった。
あの転移に・・母さんが絡んでいるのを無意識で感じ取っていたから───ってのは、流石にメルヘンか。
「では何故、腕を?」
「んー・・」
無表情・・に見えるけど、中で泣いてそうな表情の母さん。
彩佳やジキアにザレとビタも、俺の次の言葉を待つ。
特に今のビタは、【アルラウネ】を山ほど吸収し・・俺の腕をほぼ一瞬で癒す植物のチカラを持つゆえに尚更だな。
颯太は・・なんとなく分かっているみたいだ。
『三者を超えし者』は、己の肉体が分離可能な【スライム細胞】の塊であり・・そもそも興味なさそうだ。
「日本へ再転移する直前は治すつもりだったんだけど・・コレが『俺』って感じなのかなあ?」
「あの日・・リャター学園長やゲンタ様が、仰られた『嘘』では無いんですのね?」
「違う、かなあ・・・・うん、違う。
この腕は俺の『罪の証』じゃあ無く、俺の『ライバル』? ───が近いかなあ」
皆がキョトンとする。
まあ、自分でも『何言ってんだか』感はある。
「自分の腕と、競いあうッスか?」
「そんな感じ?
上手く説明出来ないけどさ。
ネガティブ感情は無いよ」
彩佳に振り返り、彩佳の顔を見ると・・「 へっ? 」って顔。
「王族が攻めてきた時、犬ゴリラ相手に前後不覚になって・・彩佳からトラウマを癒す魔力譲渡を受けたのも有るかな」
「幹太・・」
コレには、ジキアとザレが憮然となる。
二人は、自分が俺を癒したかったらしいし。
「私もカンタお姉さんを治したいのです。
・・けど、そういった『モノ』が『チカラ』になる事も有るので、無理に治さない方が良いこともあるのですよ」
「ビタ・・有難う。
治して欲しくなった時は、頼めるか?」
「モチロンなのです!」
ビタの言葉に終始される、と・・みんな分かってくれたようだ。
「うーん・・?」と、納得できない素振りを見せつつ了解はしてくれた。
「・・ビタさん、お願いしますね」
「お任せあれなのです!」
母さんは『魂の』とはいえ、森の民の子孫であり良い子のビタが可愛いようだ。
ボソッと、「 幹太のお嫁さんにはギリ・・ 」 などと、不穏な言葉が聞こえたけど聞こえない。
◆◆◆
「ザレさん、そろそろ止めて下さい」
「了解ですわ、御母様」
【銀星王国首都】の外。目に入る風景の殆んどが平地。
他には極まばらに丘が有るだけで、基本何もない。
「ココ・・か」
「か、カンタさん・・大丈夫ッスか?」
「ああ、さっき言った通りだ。
もう受けとめているさ」
「何処なの、ココ?」
あまりの何も無い風景に、彩佳が首を傾げる。
「ココは、犬ゴリラに襲われた場所───俺と颯太が転移してきた場所、だ」




