433『愛の鼻フック。』
【空の口】のトラウマを癒したい、という母さん。
「はっきり言って、【空の口】の『心』の傷は・・『魂』の傷より深刻です」
「御姉チャンが【空の口の巫女】とやらに成って、だいぶ癒されたンじゃ無ェのかい?」
「嘗ての・・優しさは戻りつつ有ります。
然れど、冷静な思考力は未だ戻りません」
「『優しい』けど『冷静』じゃない・・ッスか?」
「ラカが、言っていましたわね。
『唯、優しいだけだと残酷になる』・・と」
『優しい』と『恐ろしい』は、表裏一体。
残酷さの燃料足りえるもんなあ。
「今の【空の口】は・・請われれば、何でもしかねません」
「千年前のように・・世界滅亡の手伝いもする、という訳ねぇ~?」
千年前の【空の口】はまだ・・仲間への助力、という分別があった。
・・けど今は。
「幸い───か、どうかは分かりませんが、幹太のことを【空の口】は味方として認識しています」
「まあ【巫女】として繋がっていたら、そう成るさねえ」
山柄さんの台詞に・・俺、ではなく、ジキアに皆の視線が集まる。
今んとこ、俺と【空の口】の魔力パスの最大の被害者だからなあ。
「どうしたの、みんな・・?
───ああ、魔女の一人が、ジキアさんに何かを見せつけられ 「ソウタちゃん!?
喉渇いてないッスか、なんか持ってくるッス!」」
「え?
じゃあ・・ミルクが欲しいかな」
「りょーかいッス!」
ジキアは、そそくさと逃げるようにドリンクバーへ。
日本産ドリンクは、ほぼほぼ切れているのでタンクに入っているのはコッチの材料で作られた飲み物。
ミルクも、牛のじゃなくて何かの魔物のヤツ。
俺は匂いがちょいニガテ。
・・話題が逸れた。
「い、【空の口】の心の傷を癒すには・・場合次第で、魂の傷を癒す以上の魔力を必要とするかもしれません」
「御姉チャンの魔力譲渡で、【空の口】の心の傷を癒しきれなかったらよう・・御姉チャンは死んじまうのかい?」
ディッポ団長の台詞に、母さんが首を横にふる。
「ラカ達のように、幹太を殺して魔力を捧げるのが目的では有りません。
幹太に頑張っては貰いますが、死ぬまで魔力を使わせません」
「もし幹太の魔力が足らんかったら、どうなるんかのう?」
「二千年前、千年前の【空の口】より・・もっとタチの悪い【空の口】が出現するでしょう」
父さんが両手を顔の前で組み、クチ元を隠しながら・・深刻な顔で問うてくる。
・・碇○令みたい。
「・・幹太にしか、出来ないのか?
莫大な魔力を持つ女魔法使い───ソレが幹太しか居ないのは分かるが」
「魔女、三種族、男魔法使い、ドレにも出来ません。
───幹太が助かる道は2つです」
母さんの示す道。
【空の口】のトラウマを癒し、【空の口】自ら二度と暴れないようにさせる。
ラカ達の示す道。
死んで、魔力を捧げて・・俺自身は魔女になる。
死に方は問わない。
仮にラカ達を皆殺しにしても・・彼女等はいずれ転生し、永遠に狙われる。
・・何時か、俺が殺されるまで。
ならまだせめて、ラカの言う・・苦しまずに魂を捧げる道の方がマシだ。
「───でも、俺はラカの言いなりには成らない。
母さんの示す道を選ぶ」
「幹太・・」
「ついでに、ラカ達も癒しちゃおう」
「「「は?」」」
今、ラカ達は地球で暴れている。
【空の口】無しで、何時までもは暴れられない。
ヤケになっているってのも有るってんだろうけど・・魔女だけの世界を作りたい一心なんだろうさ。
「俺達があの日、ディッポファミリー傭兵団に助けられ・・傭兵という存在に誇りを持っているように───ラカ達も魔女である事を誇りに思っている。
可哀想な女を魔女にする事を誇りに思っている」
「え、ええ・・でしょうね」
「なら、唯の殺しあいじゃあ決着はつかない。
向こうも洗脳してきたんだし、コッチも洗脳仕返さなきゃ」
皆が呆気顔。
そんな変なこと言ったか?
「幹太を産む前の───
幹太を【空の口】に捧げ、魂の傷を癒そうとしていた頃の私を、殴りたいです」
「母さん?」
「アナタの育て方は間違っていませんでした。
・・アナタの前生が、ちょっと・・物凄く・・上にドが付くほど天然だったので心配していましたが───いとおしい幹太」
「いやあ・・」
彩佳が何か言おうとして・・母さんに鼻をつままれる。
ニッコリ笑う母さんに、彩佳もニッコリ笑う。
仲良し。
「【空の口】の心は、【空の口】の中でしか癒せません。
・・行きましょう、【空の口】の青い世界へ」




