428『イベントの同時進行。』
〔・・・・俺・・だ・・崖下───
・・自・衛隊・・だよ・・〕
「が、崖下さん!?」
無線機が・・日本と繋がった!?
無線機の相手、崖下さんは【アジ・タハーカ】が日本に襲来した時一番はじめに接触した自衛隊員だ。
俺達が彼を助けた縁で、日本に居る間は何かと世話になった。
「な、何で!?」
〔日・・本・居る・・・人土が・・数・前・・・突然・・魔力パ・ス・・強くなっ・・た・・と・・・・〕
「あー・・」
ラカたちの用意した魔物を倒すために・・俺は、【真・人土の巫女】として皆と繋がった。
その結果・・日本に居る【人土】達とも、強く繋がったようだ。
その状態で無線機を使ったから、かは・・どうか分からんけど、日本の無線機と繋がったのか。
「・・御姉チャンの相手、何語で喋ってンだ?」
「この感じ・・リャター学園長?」
「あらあら!?
ノイズが酷いけど・・ニホン語っぽいわねぇ~」
「確か・・『ガケシタさん』とは、ニホンでカンタお姉さんを守っていた人の名前なのですよ!」
ん?
皆には、崖下さんの言葉が翻訳されてないのか。
ザレ・リャター夫人・ビタの日本転移組は、日本語の特徴が何となく分かるらしいな。
・・ってか俺、ずっと翻訳チートに頼っているからこの国の言葉を聞いた事ないんだよな。
( 日本に居た頃の彩佳の感想だと、英語っぽい英語じゃない何か・・らしい。)
「なるほど、味方なんスね」
「カンタお姉さんが " いけめん " だと言ってたのです」
「「イケっ!?」」
正直、俺はイケメンが苦手なので当時何時も一緒に行動するのに・・ちょい疲れてビタに愚痴た事が有ったっけ。
崖下さんはゴッリゴリのマッチョなので、爽やか系ではなく暑苦しい系だけど。
「ニホンっていやあ・・御姉チャン達の故郷か?」
「そ、そうよ。
たぶん斯斯然然の結果、日本の【人土】が無線機近くに居たのか・・無線機魔法が繋がったようね」
「カンタさんはニホン語? で、喋んないんッスか?」
「御姉様の言う " チート " には、翻訳能力が有るそうですわ」
この概念の説明に苦労したなあ・・。
最初はバタバタしていたせいも有って、適当に 「 魔法( みたいなモン )」 って説明していたんだけど・・当時感情レーダー魔法を覚えたザレが 「 翻訳魔法も覚えたい 」 って言い出したんだよ。
「" チート " は、分かりませんが・・私が作った『扉』を潜った者は、改造される仕組みに成っています」
「そ、そうなのか!?
母さん!?」
そ、そうなん!?
母さん!?
「お、オバさん・・。
それってまさか───」
「その『まさか』です」
「な・・何故【レッサーハウンド】に襲われるような改造を!?」
「・・先も言った通り、本来は幹太のみが潜る予定だった『扉』」
ぐわあん!?
日本からの無線も放っとけないけど、後ろで気になる話をしているし・・。
「颯太を守るため『改造』を、更に『改造』した結果・・私は倒れ、二人はほぼ半分に分けざるを得ませんでした」
「二人は半分」
「私の『扉』を掠めて通った御父・・源太さんは、幹太と颯太の残りが『混ざった』ようです」
「残り?」
「・・・・」
『チート』はともかく『女体化』とか皆の前で言えないから・・母さんも『何故、改造したのか?』を、言い淀んでいる。
皆の目が点だよ。
崖下さんの話も・・どんどんノイズが酷くなっているから、しっかりと集中しなきゃ聞こえないし。
「父さんと彩佳ちゃん。
付いてきた【人土】の方々の分は、残ってなかったので残像のような物が入りました」
「ソレが翻訳チートと、オジさんは魔力を見る目なんですね」
「改造は・・されても困るが、残念でもあるかな」
「あ"?」
───ピシッ!
地獄の底から響くような母さんの声。
父さんに殺気を向けている。
・・お、俺の背後で何が起こっているというのか・・!?
よう分からんけど・・母さんにとって父さんが改造されるのは、怒りの対象っぽいな。
「け、けけ結果論だが、もしそうなら私も直接戦えた・・という意味だ。
他意は無い!」
「・・そうですね。
父さんは何かは、まだ知りませんでしたね」
「知らない知らない!!」
父さん、必死だなあ。
母さんも森の民だった頃からの話を聞くに、暴走癖が有るみたいだけど・・父さんも悪いよなあ。
美男子なんだから、自分がモテるって分かるだろうに・・隙が多いせいで、しょっちゅう言いよられていた。
基本全部、誤解だけど隙を作る父さんも悪いと思う。
( まあ夫婦喧嘩の後、すぐラブラブに戻ってたけどな。)
何で分かんないかね?
そりゃ相手も疲れるよ。
・・と、思っていたら、彩佳とザレに痛くツネられる。
何故?
「わたし等、【人土村】から転移した者も翻訳されてるんだけど・・その残像とやらが、かねぇ?」
「山柄さん、でしたか。
アナタ方の中の幹太に反応したか・・或いは───広大な『青い世界』からしてみれば、秋原家と【人土村】の距離など短い距離だったのでは?」
あるいはその両方か。
〔・・で・・・・が・・・・・・〕
「・・・・。
あー、もう!
無線機が聞きとり辛いのも、集中出来ない理由の一つなんだよな」
「【巫女】様、周波数を調整しますか?」
「いえ、日本との通信ですから無線機の問題ではなく・・無線機魔法の問題でしょう」
「では?」
「ほぼ無意識レベルの魔法だったんで、ちょいガチで───
全力・無線機魔法!」
余剰魔力の全てを、コチラに回す。
〔───っと?
聞こえているか?〕
「おおっ!?」
「崖下さん、聞こえます?
出来れば、もう一回最初から話して欲しいんですが」
〔ああ、今度はハッキリ聞こえる。
・・では。
別れてから、もう暫くで二年になるな〕
「も・・もう暫くで二年!?
そっち、一年以上も経ってんですか!?
コッチはまだ数カ月ですよ!?」
〔そ、そうなのか?〕
崖下さんが冗談を言う理由も無いし、まず本当だろう。
「今そっちに、誰か居るんですか?
日本はどう成りました?」
〔この連合軍の基地に、君の直接の知り合いは居ないな〕
「・・はい?」
〔いや、だから・・ココに君の直接の知り合いは居ないな、と。
自分を通して、無線機が繋がったという【人土】は君と面識は無いそうだし───〕
「そうじゃなく・・連合軍?
自衛隊じゃなく?」
「日本じゃ無いのかしら?」
〔ああ・・そうか。
いや、日本だよ。
自衛隊は、今や国際連合軍の一部隊にすぎない〕
「は?」
いやまあ・・俺も今時の若者らしく、憲法がどうたらは興味ない。
ニュースでチラ見した程度。
・・でも、自衛隊は軍じゃないって言い張っていた・・よな?
〔魔女と魔物だよ。
君達が異世界へと旅立って半年後くらいかな。
『ラカ』と名乗る魔女とその仲間の魔女達が現れたんだ。
劣化【ファフニール】を一体だけ連れてね〕
「ラカ!?
ラカがコッチから逃げだしたのは、ついさっきですよ!?」
彩佳や【人土】の人達が、異世界組へ翻訳。
動揺が広がっているな。
母さんは 「 仮説ですが 」 と前置きしつつ、説明してくれる。
「青い世界の無茶苦茶な時間差の計算は、ラカ達に二千年の長が有ります。
その差を利用されましたね」
〔君達が旅立ったあの日・・【空の口】特番の裏で、屑マスコミが酷い報道をし・・国民の多くは情報に踊らされ───悪意が満ち満ちていた〕
「【ファフニール】・・悪意・・あっ!
悪意を糧に産まれる【ファフニールベビー】!?」
ガロスの弟、デロスが【ファフニール】に取り込まれた時・・小さい【ファフニール】───
【ファフニールベビー】を何体も産みだしていた。
〔そういう事だ。
コチラの世界は世界中で【ファフニール】が溢れかえり・・魔女が恨みを持つ国の幾つかは機能していない〕
「そんな・・じゃあ日本は!?」
〔日本は、自衛隊と【人土】の皆さんと、あの日から準備していたからね・・世界でも最も被害が小さい国と言える〕
───まあ、自衛隊が連合軍に改名しなきゃいけないレベルでは有るけどね・・と、崖下さんが自嘲気味に笑う。




