425『虹色になって。』
彩佳の一歳下の妹、海野 奈々。
進学校でトップを競う程、頭が良かった。
・・が。
日本に転移した魔物経由で洗脳能力がある黒キノコに寄生され、色々と倫理観が再構成された結果・・マッドサイエンティストになってしまう。
植物操作能力を持つビタと仲良くなり、黒キノコを違法───ゲフンゲフン。
あー・・・・。
特殊? 改造? により、二種類の黒キノコを作りだした。
一つ目は、彩佳が身に宿した・・普通の人間を疑似魔法使いである【人茸】とするキノコ。
二つ目は、【人茸】と成った彩佳以外、近付く事すら出来ない猛毒のキノコである。
「た・・確かにアタシも【人茸】として、キノコ操作の練習はしてるけどね!?」
「街破級とはいえ・・肉体のある生物である以上、【アジ・タハーカ】にも通用する筈だろ?」
「日本に現れた【アジ・タハーカ】は、元々その手で倒す予定だったね」
日本人組と、日本に転移したザレ・リャター夫人・ビタの三人は 「 ああ、そういえば 」 といった顔。
「とにかく、魔法しか武器が無い俺は【アジ・タハーカ】を抑えるので精一杯だ!」
「・・わ、分かったわ!
アタシはどうしたら良いの!?」
「俺の魔力を使える今の彩佳なら、黒キノコを『遠隔』『高速』『同時複数』操作できる筈だ!」
颯太と源太ちゃんは、俺の魔力を上乗せした身体強化魔法による拳・剣で【ファフニール】&【アジ・タハーカ】を圧倒している。
す、スゲェな。
・・あ、今分身した。
母さんと『三者を超えし者』も、其々の能力で街破級二匹を圧倒している。
後は彩佳達のみ。
「俺が使う『炎』の要領で、『黒キノコ』の指向性面制圧魔法を撃ってくれ」
「えーっと・・うん、幹太の魔法は使えそうだわ。
だけど、ブッツケ本番で狙い打ちには出来ないわよ!?」
「ソコはまあ・・周りの皆に・・」
俺がそう言うと───
・・あらやだ、周りが渋い顔。
「前になァ・・彩佳御姉チャンの練習に付き合ってやった事はあるんだけどよう・・」
「あのキノコに魔物が触れた瞬間・・全身の穴という穴から、ドス黒い血を吹きだして踠き苦しみながら死んでったッス・・。
未だに夢に見るんスよね」
「人を、恐怖が顕現した存在みたいな言い方しないで!?」
「我も見たな。
生けとし生ける全ての生物を殺す茸と、生けとし生ける全ての生物を操る茸・・ソレ等を操るアヤカは───」
「ひっ、人を・・全生物の天敵みたいな言い方ヤメてくれる!?」
ドクツルタケだのカエンタケだのを混ぜた、つってたからなあ・・。
奈々と一緒に黒キノコを作ったビタは「 えっへん! 」 と、誇らしげに胸を張る。
・・うん。
まあ役立つし、良いんだけどさ。
「ちっ、しょうがねェか。
御姉チャンの魔力を受け取っても俺達じゃあ、まだ村破級を相手にしてた頃の感じだしなァ」
「あらあら~。
『何時か、その内に』でなら私達だけで、街破級を倒せそうなのだけどねぇ~」
「通常、3000人を必要とする街破級を二匹も相手どり、この極少人数で倒せる事が異常なのだ」
「ですが、ソレまで御姉様が持つかは分かりませんわ!」
「確かソウタが【コカトリス】を倒した時は───誰か!
魔法使いは、この石に魔力付与を頼・・あ、今の私なら自分で出来るのか!?」
接近戦特化の傭兵団や【人狼】達が剣槍を置き、颯太の技『石蹴り』を放つ。
颯太ほどじゃないけど、サッカーボールでゴールネットを突き破れそうな威力だ。
( 拳銃なみのスピード。)
弓矢部隊は弓の方が持たず、折れかねないようで直接、矢を投げていた。
「我々が魔力付与武器で【ファフニール】と【アジ・タハーカ】を牽制する!
アヤカは動きを止めた奴等を狙え!」
「ええ、分かったわ!」
◆◆◆
【ファフニール】と【ニーズホッグ】と【フレズベルグ】には、ソコソコのダメージを与えた。
だけど、決定打が与えられない。
【アジ・タハーカ】の防御範囲を越える攻撃だと、どうしても『薄く広く』になるからな。
三匹とも縮小版とはいえ・・まだまだ巨大な重量級。
・・致命傷には程遠い。
≪化け物め・・≫
≪ふっ・・ふはははっ!
ま、全くもって馬鹿げた魔力だ≫
多くの魔女が、俺を怪訝そうな目で見る中・・ラカだけが笑う。
≪この人数に、此処まで魔力を配って尚、街破級四匹と拮抗するとはね。
此なら【空の口】様の魂は君一人分で癒せるかもしれないな≫
「【空の口】の全力知らんし」
≪我々が保証するよ。
・・だけど皮肉だね、巨大過ぎる魔力ゆえに本気を出せないとは≫
ラカが、チラリと俺の両腕の包帯を見る。
【巫女化】はしていない。
対【空の口】がどうなるか、分からないからな。
≪君が『三者を超えし者』と呼ぶ彼女も、【魔王の粘土】のチカラを制御できず土砂の巨人として戦っているみたいだけど───≫
≪・・【皆の巫女】とは、同じ理屈か?≫
初めて『三者を超えし者』と出合い、戦いになった時は・・確か国境の村商工ギルド館の一部を巨人化させていたっけ。
≪自らの肉体では耐えきれない出力分を、別の肉体に渡す事で戦力にしていると見たけど≫
「まーな」
ラカの表情が歪んでゆく。
笑う。
笑う。
憎々しげに、顔を歪ませて笑う。
≪全く───
ああ・・本当に全くだよ!
王族から奪った数々の技術・・此が切り札だったのに!
───切り札の・・つもり、だったのに!≫
「あ?」
≪切り札なんか残ってないんだ。
・・もう我々には・・ねえ≫
「き、切り札は初手で使え。
出し惜しみしたから、そうなるんだ」
・・なんだ?
俺が、【空の口】の為に【巫女化】を残しているのとは違い・・コイツ等の敵は俺達のみ。
切り札を残す意味は無い。
周りの皆も、続々と戦いに終止符がうたれてゆく。
「いっけぇ!
超・魔力吸収パーンチ!!」
「止めじゃ!」
『自分達の勝ちだ』
「ラカ・・もう終わりにしましょう」
「臭い臭い臭い!?
アヤカ、貴女のキノコに触れた瞬間・・魔物が有り得ない色になって死にましたわよ!?」
「げほっ、がふっ!?
おいっアヤカ御姉チャン!
このシューシューいってるピンク色の煙、吸って大丈夫なのか!?」
「めっ・・目が臭いッス!」
「ピヒタ姉様が吐いたのです!?」
「し、知らないっての」
≪・・・・≫
ラカの目は、絶望を見ている・・のか?




