416『ひたすら滝に向かって、正拳突きを繰り返すオッサンとか。』
「か・・改造って───」
正直・・俺の記憶にない前世が、女性だったとか魔女だとか『見知らぬ誰かでした』とか言われても───ああそう、としか思わない。
誰しも、前世は有るんだしな。
彩佳だって、前世はドコぞのオッサンだったかもしれな───痛い痛い痛痛痛痛・・ゴメンナサイ。
とにかく、前世云々はどうでも良い。
普通の高校生がある日突然、異世界転移して。
魔物との戦いに巻きこまれて。
でもチートで。
秋原甲冑柔術が役立って。
素晴らしい仲間・恩人と出逢い。
自分でも不思議なくらい、現状を受けいれている。
女体化もそうだ。
・・フィクションに有りがち、っちゃあ有りがちな展開で、とくに深く考えなかったけど───
「そ、昊どの!」
───っと。
山柄さんほか代表の7人に、何時も俺に付いて世話をしてくれている人達・・【人土】が、険しい顔で母さんを、睨む。
・・そう、睨んでいる。
「そ、その・・幹太さんが、【空の口の巫女】とはどういう意味だね?
我等【人土】は。
三種族は・・【空の口】を打ち倒す事こそ、至上命題なんだ!」
「幹太さんは我等が【人土】の主であり、【人土の巫女】様であり・・・・」
「山柄さん・・皆さん・・」
山柄さん達にしたら、母さんは自分達の敵・・【空の口】陣営に映るのかもしれない。
「・・そうですね。
確かに私は、【空の口】の側です」
「幹太さんを、【空の口】による世界滅亡の手先にするつもりだったのかい!?」
「・・・・」
「【空の口】のアレコレは聞いた。
可哀想だ。
だから、何をやっても良い───とは成らないんだよ!」
「・・ですね」
「ソレをアンタは───」
「だから私は『封印』などという、次の千年後に【空の口】が暴れる事の無い世界を幹太と共に作ります」
「「「───っ!?」」」
次の、千年?
【空の口】は、魂だけの存在。
生と死の超越者。
魔女たちの主。
他の魔女達のように、別の肉体に転生し直すのではない・・完全なる同一存在として復活する者。
殺す事は不可能。
そういった存在の筈。
でも、母さんは【人土】の皆をゆっくり見まわして・・微か、ほんの微かにでは有るけど「 フッ 」と微笑む。
「あなた方も、【巫女】と繋がりが有るのなら・・幹太の有り様を、魂で感じとれる筈です」
「と、当然だよ!
家族想いで、仲間を大切にし、我等の旗印として頼もしく───」
「【空の口】も、『当然』なのです」
「は?」
「私が・・神だ信仰だと鳴く獣共に。
人を人と思わぬ盗人共に。
心囚われていたのが・・家族に、幹太に、感化されたように───
【空の口】もまた、変わり・・いえ。
戻りました。」
「戻った?」
「二千年前の戦争は飽くまで、魔法を欲した強盗が『盗んだ品』で『盗まれた側』を殺した・・というだけです」
【空の口】は狂気に囚われ、世界中を襲った・・と、歴史書にはあるけど、狂気の原因は奪われた我が子ヨランギを欲しただけっぽいしな。
「千年前、そして現在は。
男尊女卑で女魔法使いを減らし、【空の口】を弱めて魂を利用したい王族と───
【空の口】のチカラを利用したい者達・・両陣営が【空の口】を利用した戦いなのです」
「利用・・?」
「『三者を超えし者』でしたか。
貴女は薄々、分かっているのでは有りませんか?
・・ソレとも」
自分を睨む【人土】の皆を威圧感だけで圧倒した母さんが、殆んど沈黙を貫いてきた『三者を超えし者』を、視線で射抜く。
『・・自分は、寝ていたかった』
「ですが。
彼方の世界で、理不尽な死を遂げた者が。
此方の世界で、男尊女卑で不遇の扱いを受けた女魔法使いが。
・・彼女等が、世界へ復讐したがった」
『そう。
自分は・・安寧のため、世界を守る側に回ったに過ぎない』
つまり。
「【空の口】を封印しても、止まりません。
【空の口】の復活は。
───世界の戦争を望む者達の復活に過ぎないのですから」




