412『様々な視点⑰』
〔熱っぽくてだるい?
・・昊さん、生理は来てる?〕
「ソレが───
もともと、不順気味ではあったんですが・・」
〔・・無いのね?
風邪薬とか、飲んじゃ駄目よ〕
仁一郎の幼馴染み、美千代さん。
今はとある海外実業家と結婚し、旦那さんの母国へと付いてゆき、二児の母となっている。
物の本に、今の私と似た症状が乗っていたので『先輩』として彼女に話を聞いていたのだ。
「・・やはり、そうなんでしょうか?」
〔アタシはギリギリまで、何も無かったけど・・コッチで知り合った人は、そうだった方が多いわ。
とにかく、早目に病院に行きなさいね?〕
「はい、有難う御座います」
緊張する私に・・電話の向こうで、美千代さんがクスッと笑う。
〔はあ・・あの二人がもう、かあ。
包丁を突きつけられた、あの日・・二人の協力プレイに見惚れて、仁一郎君を諦めてからそんなに経つのねぇ〕
「そんな・・」
正直、恋愛感情は未だよく分からない。
ただ仁一郎と、ほぼ毎晩デートに行くぐらいだ。
( 週に一・二日は御父さんに貸さないと不機嫌になるので、男だけの日、御母さんとの女だけの日以外。)
「夜の協力プレ」
〔・・そーゆーのはイイから〕
その他を二・三、お互いの近況を報告して電話を切る。
・・ふう。
◆◆◆
「仁一郎、御父さん」
「何じゃね、昊。
今日、仁一郎君は儂と遊ぶんじゃぞ」
遊びに行こうしていた二人を呼び止める。
初めて会った日の険はすっかり消えて、悪ガキ二人といった感じだ。
「今日、産婦人科に行ってきました」
「「 ・・えっ? 」」
御母さんは、付き添って貰ったので既に知っている。
何時もの落ち着いた表情で、御茶を飲んでいた。
「妊娠・・していました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え・・・・・・・・・・・・・・・ぇええええええええええええっ!??」
仁一郎は・・時が止まったかの如く、動かない。
息してる?
御父さんは・・オロオロしつつも、仁一郎よりは落ち着いている。
御母さんの時とで二回目だからか。
「・・・・そうかああ」
「仁一郎」
暫くして、やっと動きだした仁一郎が破顔する。
嬉そうだ。
本当に嬉そうだ。
でも、御免なさい───
───みんな、もう少し・・もう少しで魔力を補給出来るから・・!
◆◆◆
「ぐぅうう・・ああっ!!」
「昊! ああ・・昊!」
「頑張るんじゃ!」
「・・・・昊」
「はい、頑張って!
もう直ぐ・・もう直ぐ・・産まれましたよ、秋原さん!
元気な息子さんですよ!」
「はあ・・はあ・・・・。
この子、が・・私と、仁一郎の・・子───」
いとおしい。
いとおしい。
いとおしい。
・・ああ、私の知る言葉ではこの溢れる感情を表現しきれない!
御父さん、御母さん、私を産んでくれて有難う。
仁一郎、私の前に現れてくれて有難う。
私達の子、私の子供になってくれて有難う。
「頑張ったね、頑張ったんだ、昊あああぁぁ・・!」
「さあ、息子さんを抱いてあげて下さい・・お母さん」
「ああ、私の子───」
御母さんに・・似ている?
という事は・・。
「目もとが、昊に似ているな。
鼻も、昊ソックリだ。
口も・・昊似だな。
耳ぐらいは・・昊似か。
・・足の裏!
足の裏ぐらいは、僕に似てないか!?」
「もう・・仁一郎ったら」
「仁一郎君、分かるぞ」
「ホント、男って馬鹿ねぇ」
迚も迚も名残惜しいけど、仁一郎の子でも有る。
仁一郎に我が子を渡す。
「この子の名前を決めたよ。
『幹太』。
『秋原 幹太』だ」
「幹太・・」
「『幹』は『木の中心』、転じて『物事の中心』という意味があるんだ。
人々を支えるという意味、人々にチカラを与える『日』という字も含むしね」
「素晴らしい字だわ」
魔女のみんなの中心になり、【空の口】にチカラを与・・え、て・・・・。
───え?
「後は秋原家の男子として、御父さんから『太』の字を貰い・・昊?
・・どうした?」
「えっ? あ・・ああ」
「そうか、出産直後だし疲れているか。
アレコレはコッチでやるから、君はゆっくり休むといい」
「え・・ええ、有難う」
仁一郎が・・名残惜しそうに幹太を私に渡し、( 御父さんと御母さんが、自分達は!? ・・といった顔をしつつ ) 自分の個室へ戻った後───
医師看護師と共に皆が退室してゆく。
ああ・・私の息子、幹太。
いとおしい。
いとおしい。
いとおしい。
・・いとおしい幹太を、私は。
私は。
私は?
魔女達に、渡す?
魔女達に、渡して・・魔力を譲渡させる?
そんな事をしたら・・幹太が。
私の子供が。
仁一郎との子供が。
・・死ぬ。
死んでしまう。
「何が、魔女になるから・・だ」
魔女になれば・・死を迎えても、記憶が残る。
そんな事に、意味なんて無い。
この子が、幹太が・・死ぬなんて有り得ない・・!
それに・・仁一郎から、子供を奪う事になる。
御父さんと御母さんから、孫を奪う事になる。
この子は、幹太は・・殺させ───
≪あ~あ。
やっぱ、こうなっちゃったか≫
「っ!?」
な、何・・今の声?
耳・・からじゃなく、頭、いや・・心に直接響くような声・・。
≪やっほ~♡
クウお姉ちゃん、元気ぃ?≫
「クウお姉ちゃ───ま、まさかクキ!?」
前生で、私の双子の妹になった娘。
私と同じく魔女として覚醒し、産まれ代わった者。
クキ。
「ど、何処に居るの!?」
≪何処にも居ませ~ん。
この声は、天然のクウお姉ちゃんが『自分の使命に後悔』した時、再生される魔法だから≫
「だ、誰が天然よ」
≪この声を聞いているクウお姉ちゃんを天然と呼ばずとして、誰を呼ぶってのよ≫
「さ、再生っていうわりには返事してるじゃない!?
本当は何処でコッソリ覗いているんでしょ!?」
あの娘ならヤり得る。
≪・・ゴメンね、クウお姉ちゃん。
本当に、『クキ』という存在は消滅したの≫
「・・消滅?」
魔女である私達は、『死』を『消滅』とは言わない。
私が、『クウ』から『昊』に変わったように・・『クキ』から『別の誰か』へ、転生した?
≪転生は転生よ。
だけど・・身も心も、全て≫
「身も・・・・心、も?」
今の私が、森の民から『秋原 昊』という『身』に転生した。
・・『心』は?
『心』は、『森の民である私』のままだ。
≪今のアタシは・・この『音声再生魔法』と『とある魔法』にチカラの全てを捧げ、魔女としてのチカラを失った『クキでは無い誰か』よ≫
「魔法?
失った?
何?
貴女は一体、何を・・貴女は『誰』なの!?」
≪アタシが『誰』かは・・アタシよりクウお姉ちゃんの方が、分かるかもね≫
私?
私が何で、貴女の転生先・・分───
「ま、まさか」
≪・・今、【空の口】さん側の陣営もだいぶゴタついているの≫
「は? い、いきなり何を・・」
≪クウお姉ちゃんに任す、って人も居るんだけど───
クウお姉ちゃんに子供が産まれた瞬間、お姉ちゃん達を殺そうって一派も少なくないの≫
「そんな!?」
≪だからアタシ達派は・・かなり特殊な魔法を作り使う事で、殺す派を抑えているわ≫
「と、特殊な魔法?」
≪三者達が【巫女】とか言う、自分達の魂の封印強化・恒続的な魔力譲渡装置としての劣化魔女を作っていたの≫
「・・ソレは、今の転生前に聞いたわ」
≪ソレを真似て、アタシが【空の口の巫女】として・・魔女同士の魔力反発を起こさないよう、人間として転生するって魔法よ≫
「そんな・・」
≪・・御免なさい、お姉ちゃん。
コレしか、お姉ちゃんの子供を守る方法が無かったの≫
───クキは、悪くない。
クキは青い世界でほぼ完璧に、私の・・今の葛藤後悔を予見していた。
ソレを・・私は、盲目的に───
短慮だった私が馬鹿だったんだ。
≪───と・・ココまでが、【空の口】さん側の事情よ≫
「ココまで、は?」
≪ココからは、アタシ一人の独断。
決行するかどうかは、クウお姉ちゃんに任すわ。
危険度は、寧ろ高いし≫
・・??
クキの・・ド天然が顔を覗かせる時の声。
突拍子もない事を思いついて、私の心臓を破裂させたいんじゃないかと疑いたくなる時の声。
≪クウお姉ちゃんの子供は、今でこそ人間だけど・・将来的にはどの魔女よりも、【空の口】さんよりも強い魔法使いに成りうるわ≫
「魔女二人がかりだものね」
≪そんなクウお姉ちゃんの子供なら、【空の口】さんが作った、『街破級』のシステムすらも乗せられる≫
「【空の口】の街破級・・」
≪奇跡みたいな可能性だけど・・上手く行けば、クウお姉ちゃんの子供も【空の口】さんも───両方助けられるわ≫
「・・・・っ!」
≪重ねて言うけど、危険度の高い奇跡みたいな可能性の話。
本来の・・【空の口】さんに魔力譲渡させて魔女にさせる方が、遥かに安全よ≫
『私に任す一派』とやらのお蔭で、『殺す派』も秋原家の寿命が尽きるまでは、待ってくれるかもしれない。
なら、仁一郎や御父さん御母さんから幹太を奪わなくて済む。
幹太も・・その歳なら、死後に続きが出来るだけ。
【空の口】の復活の助けになる。
「問題は無い・・か。
───でも」
もはや、私はこの世界への復讐心は無い。
屑は相変わらず存在する。
屑は死ねば良い。
でも。
秋原家のみんな。
仁一郎の実家の家族。
美千代さん。
木島さん。
その他、御世話になった人達。
前生までの親だった人達の子孫。
彼等を、【空の口】達一派に殺させる訳にはいかない。




