411『様々な視点⑯』
「少年。
何やら私は、デートとやらに行く事になりました」
「でっ!? どっ!? だっ!?
・・・・スーはースーはー。
・・・・。
デートっ!?
どういう事ですかっ!?
だ、誰とっっ!?」
昨日、御母さんに言われた命令を告げると・・何故か少年は顔面蒼白になり、私に詰めより問いただしてくる。
少年と幼馴染みの少女の方は・・何故かニヤリと笑う。
「貴方とです」
「「 は? 」」
私が御母さんの命令を、より正確に告げると・・二人は暫く固まり───
「えっ!? えええええええええええ!?
・・こっ、ココココココレは一体、何の夢ですかっ!?」
「せ、先生!?
先生は仁一郎君の事を、三角コーナーのヌルヌルより嫌っていたでしょう!?」
「い、いや・・そこまでは嫌っとらんよ?
というか、酷いの・・美千代ちゃん」
二人が絶叫をあげ・・御父さんがウンザリとし・・物陰から御母さんが微笑む。
・・コレを、カオスと呼ぶのだろうか。
◆◆◆
少年の授業終わり。
普段なら彼は胴着から、そのまま着替えて帰るのだけど・・何故かとてもシャワーを浴びたがっていたので借して ( 御母さんも、既に用意していた )、少年のシャワー上がり。
デート出発。
「き・・綺麗です、秋原さん!」
「服は母のチョイスです」
" あいどる " なる、卦体な格好の連中に似た服。
お洒落に興味は無い、とはいえ・・中々と心にダメージを食らう格好だ。
「ふ、服もですけど・・あ、秋原さんも・・綺麗です」
「はあ」
若い頃は、すけば・・ん? とやらを生業にしていたらしい御母さんは、男顔美人。
その顔に似た私は、まあ・・美人なのだろうが───所詮、この肉体は借り物の体。
森の民だった頃の私の顔が、本当の私の顔なのだ。
・・まあ、当時の顔に自信は無いが。
毒にも薬にもならない、派手なだけの花を送りつけられたり・・割りと同年代の男には、嫌がらせを受けていた。
「ど・・何処に行きましょうか?」
「植物関係以外の所へ行け、と、母から命令を受けましたが・・ソレ以外はよく分かりません」
「成る程・・秋原さんは植物が好きなんですよね」
「日本では育てられない植物が多くて残念です」
「では取敢ず、ファミレスに行きましょうか」
二人共、昼食はまだだ。
否定要素は無い。
◆◆◆
「御父さん?」
「ギクッ」
「お出かけですか?」
「う、うむ。
整体の木島んトコへ、行こうかと・・の」
「あら、なら私も行こうかしら。
最近、肩が凝るんですよね」
「・・・・」
「───はあ、娘のデートを盗み見る親が何処に居ますか?」
「わ、分からんぞ。
将来的には遠視カメラなんぞを使うたりして・・」
「御父さん?」
「・・はい」
◆◆◆
夕方。
帰る時間になった。
「ど、どうでしたか?」
「思っていたより、楽しかったです」
「そ・・そうですか!」
前生までは、殺し殺されるだけの人生であり・・『楽しむ』なんてのは、禁忌中の禁忌である。
・・今生は。
自ら進んで楽しみたい、とは思わない。
けれど・・【空の口】の為に子供を産むという目的の為にも、多少は人間関係を円滑にしなければイケないのかもしれな───
『 ぉらあアアアっ! 』
『 きゃあっ! 』
「「 えっ? 」」
年若い女性の悲鳴。
少年と幼馴染みである少女の声だ。
少女の声が、ほぼほぼ真後ろから聞こえ───
『糞ガキ共があああ・・!
人様の人生を台無しにしておいて、何をちちくりあってやがるっ!?』
「じ・・仁一郎君!」
「美千代!
・・お、オマエは!?」
そこには、少女と・・以前、少女に痴漢をしていたオッサンがいた。
オッサンは少女を、背後から腕一本で首を絞め・・頬の辺りに包丁を揺らめかせている。
「オマエ等に、正当な罰を与えるためえぇぇ・・逃げてきてやったたぞおおおォォォォ!」
「だ・・脱走!?」
「護送中だったのでしょうか」
屑が、巨大屑に成長した。
こんなのは、前生でもあった。
やはり屑は皆殺しにすべきなのだ。
数年、牢屋に入れておけば 『 反省するに決まっている 』 という、日本人の考え方は理解できない。
常に懐に忍ばせている、植物の種に魔力を送───
『オマエ・・なんだ、そのモヤはあ!?』
「!?」
屑が・・魔力を見た!?
魔法使い、では無い。
以前・・私が蔦でこの屑を縛った時の残り香が、この屑に馴染んだのか。
全人生の中で、こんなケースは初めてだ。
魔法使いでないからこそ、今まで消費されず残っていたらしい。
ひょっとしたら、身体強化魔法ぐらいは使えたかもしれない。
ソレで逃げだせられたのか?
この屑となら、魔法適切の高い子が産まれるだろうが・・性根は腐りきった屑が産まれる。
問題外だ。
『余計な事をするなよォォ!?
この小娘が、どうなっても良いのかァァァ!?』
「あ、秋原さん」
「ええ、分かっています」
魔力の見えない少年は、私がただ単に動いたとだけ思ったのだろう。
私に大人しくするよう促し、私もソレに従う。
『そっちの男ォ!
オマエだ、オマエとこのガキのせいで俺の人生は狂わされたんだっ!!』
そもそもは、オマエの痴漢行為が原因だろうに・・。
少年が両手をあげ、屑に近付く。
───微かに・・震えている。
ソレはそうだろう。
彼はこの一カ月で、暴力に晒される恐怖という物を嫌という程に御父さんから叩きこまれたのだ。
実力を上げたからこそ分かる、このまま進めば確実に死ぬ現状。
ソレでも幼馴染みの為、勇気を振り絞り───
──────
───ん?
今の感情は何だろう・・?
未知の・・深い深い穴の底、闇の最奥に微か見えたとても恐ろしい感情。
・・でも決して、目を反らせなくなる感情。
少年に対する、この感情は何だろう?
「じ・・仁一郎君・・!」
「大丈夫だ、美千代」
『よォし、そうだ・・そのままゆっくりとコッチへ来い!』
屑が、包丁を仁一郎に向ける。
このままでは、少年が殺されてしまう。
・・・・嫌だ。
足下、地面の下で魔力を操作する。
今までやった事は無いが・・森の民にとって、植物にとって、地下もまた己れのテリトリー。
やって、ヤれない事は無い・・!
『糞ガキ共がァァ・・死ね───
ぇおっ!?』
「仁一郎、今です!」
「えっ!? あっ!?
う・・うん!」
屑の足下の地面が陥没する。
屑が体勢を崩す。
その隙に少年が、右手で包丁を持つ手にダメージを与えると同時に、左手で屑の脇腹へダメージを与える。
屑が包丁を持てなくなった瞬間に、私は少女へと駆け寄り・・屑の腕から少女を引っこ抜く。
引っこ抜いた時の回転エネルギーを使って、屑の首へとハイキック。
屑を気絶させる。
「・・大丈夫ですか?」
「ぁ・・ぅ・・・・」
「少年、彼女を病院へ。
私は警察へ事情を説明しますので」
「えっ!?
ぼ、僕が犯人の対応をするから、秋原さんは美千代を・・」
「私の方が少年より強いのです。
危険人物への対応も心得ています。
・・ソレより彼女は、私より親しい少年が対応すべきです」
「───・・。
分かりました。
・・ほら、美千代たてるか?」
少女に肩を貸し、病院へと連れてゆく少年。
その、二人の後ろ姿に・・ナニやら、チクリとするモノが有る。
───この感情は、何だろう・・。
◆◆◆
「・・おば様、ずるいです。
おば様が昊さんに付けば、あたしなんかが勝てる訳無いじゃないですかあ」
「うふふ、私とて親ですもの。
我が子に対して、依怙贔屓ぐらいしますよ。
・・でも美千代さん?
本来は貴女の方がアドバンテージは大きかったのですからね?」
「ソレは分かってますけどぉ~」
屑の来襲事件から数日後。
御母さんと少女・・美千代さんが、仲良くなった。
理由はよく分からない。
・・会話の内容も、意味がよく分からない。
事件の後、美千代さんと少年はやや疎遠になった。
仲が悪くなった訳ではない。
ただ・・彼女の周りが許さない感じらしい。
犯人は、正体不明の再起不能。
但し前後の経緯から、原因は私と少年の過剰防衛に有り・・と、判断され ( まあ、半分そうなのだが ) た。
法律的な御咎めは、警察の失態、未成年、といった理由により無い。
然れど・・良い所の御嬢様という美千代さんの家族は、少年との付き合いを禁止させた。
・・ので現在美千代さんは、少年と会っているのではなく、歳の離れた友達と会っている。
らしい。
・・だが。
「美千代、大丈夫なのか?」
「さあね。
ソレよりほら、昊さんにちゃんと見て貰わなきゃ!」
「あ・・ああ。
秋───昊さん」
美千代さん自身からも、若干・・少年との距離を感じるようなった。
仲が悪くなった訳では無い。
寧ろ、初めて会った頃より仲良くなっている気がする。
その付き合い方が変化した・・とでも言うのか。
この関係が年月と共に、少しずつ変化し・・様々な出来事を乗り越え───
やがて、私と少年・・いや、仁一郎は結婚した。




