406『様々な視点⑪』
≪まずは警戒を解いてもらうため、我から素性を明かそう≫
そう言う、魔力の塊の女。
隣の、( 今生の )私と同じ顔をした少女を見ると・・表情こそ平然としているが、不自然な汗をかいている。
・・たぶん、私も。
恐らく、この女がその気になったら・・一瞬で私達は殺されるだろう。
それだけの存在感だ。
死、そのものは恐くない。
だけど。
目の前の『コレ』は───恐いというより・・息苦しい。
≪まず、我も君達と同じ魔女だ。
・・天然ではないがね≫
「天然・・じゃあ、ない?」
眼前の女は、何とも言えない表情だ。
哀愁・・とも言い難いが、ソレが一番近いか。
≪とある刑務所に収監された女が、看守達に強姦され・・産まれたのが我だ。
・・産まれた時から、我は奴隷であったよ≫
「・・・・」
「・・・・」
≪生きる事と苦しみは、同義だった≫
似た経験は、有る。
生と苦しみは同義・・というのも、理解は出来る。
≪ある日、体が何処も痛くなかった。
気がつくと其処は一面、青い世界で・・目の前に強大な存在が居たんだ。
あんなに恐ろしかった看守達が・・地べたを這いずる、羽をもがれた羽虫にしか思えないほど強大な存在がね≫
言葉、そのものは・・神を語る連中と同じ。
けど・・居もしない者を無理矢理『信仰』という言葉を連呼する事で信じこもうとする───
自分で、自分に嘘をつく連中とは違う顔。
知り合いを語る顔。
≪ソレが【空の口】様さ。
彼女は君達と同じく、自力で魔女になり・・彼女のチカラで、我は魔女にして頂いたのだよ≫
「魔女にした・・?
あ、アタシ達にも、そんなチカラが有るのかしら?」
≪残念だが、格が違うよ。
・・君達の資質は、我より上だろう。
然れど、今は我の足下にも及ばない≫
それは分かる。
眼前の女の存在感は、圧倒的だ。
そんな彼女よりの上の存在・・。
そして・・そんな存在に、私も成れる・・!
「ど・・!
どうしたら、私も『そう』成れる!?」
「お姉ちゃん・・」
≪そうだな・・上位存在から料理などで魔力を得る手も有るが・・。
・・・・。
君達はまず、我等の拠点である異世界へと行くべきだ≫
「異世界?」
「青い世界かしら?」
其処へなら何度も行った。
何度も何度も何度も。
≪いいや、魔力が空気のように存在する世界が有るのだよ≫
「そんな世界が・・」
≪この世界は、魔力と相性が善くないからね・・君達の発育にも善くないのかもしれない≫
其処に行けば、私も魔王に成れる・・。
「───でも、駄目。
私は・・この世界の人間を殺すと・・妹に、皆に・・誓ったから」
≪我だけでなく・・【空の口】様も、【空の口】様に魔女にして頂いた他の魔女も、その多くがコチラの世界出身だ。
君と同じ想いで・・異世界にて次の千年のため頑張っている≫
「・・せ、千年?」
千年も、頑張らなきゃならない?
千年も、この世界の人間を殺せない?
「そういえば・・アナタの素性は分かったけど、アナタがその異世界からこの世界に来た理由は?」
≪───情けない話だけどね。
我等は負けたのだよ≫
「負けた?
そんな凄い存在が・・!?」
「ま、まさか・・異世界には神が居るとでも!?」
≪神は居ないよ。
此方と同じで、宗教なんてのは権力者の金儲けと人殺しの道具でしかない≫
「なら・・」
眼前の女が、深くタメ息をつき───
≪裏切り・・かな。
【空の口】様に助けられた魔女が、二・・いや、三派に別れたのだよ≫
「【空の口】に助けられたんじゃなかったの?」
≪【空の口】様に助けられたのに、だ。
その中核に、【空の口】様の息子を据えてな≫
「息子?」
家族が・・家族を裏切った?
≪彼方の、とある権力者が【空の口】様のチカラを欲してね。
然れど、【空の口】様は権力者に靡かず・・仕方なく権力者は【空の口】様に子を───ヨランギを作らせたんだ≫
「何処の権力者も、似たようなモンなのね」
≪何処の権力者も、似たモンだよ。
その権力者に育て上げられた【空の口】様に近しいチカラを持ったヨランギと、裏切りの魔女と、権力者軍に、我等は負けた≫
「「・・・・」」
≪【空の口】様は、封印された。
だけど魔女は、死んでも記憶を保持するんだ≫
「ソレは知ってるわ。
アタシ、二回目の人生だし」
「私は・・全部の生を併せれば、たぶん8~90歳ぐらいだし」
≪ほう、まさか40歳の我の方が年下だったとは?≫
彼女の見た目は・・20歳ぐらい?
≪でもまあ、面倒なのでこの口調で行かせてもらうよ≫
「ソレはどうでもイイ」
「アタシはまだ30代だし?」
≪【空の口】様は凡そ千年後、復活為される。
その時の戦力集めに、我のような・・この世界に居ながら魔力を持ち、世界を恨む女を探しているのさ≫
「この世界に居ながら魔力を・・」
≪我も含め、その殆んどが・・魔女になる前に絶望し、心が朽ちるのだよ。
君達や【空の口】様のように、絶望を乗り越えられる者は少ない≫
「そんな乙女達を・・【空の口】は集めているのね」
≪【空の口】様は、な。
【空の口】様は、苦しむ乙女全てを救おうと為されるが・・その挙げ句が、前回の裏切りだ≫
「アナタは?」
≪世界への復讐派。
新たな人生を楽しむ派。
何もせず、眠りたい派。
【空の口】様は魔女全員に、二番目を推奨為されておられるが、まずは地盤を固めてからだ。
世界への復讐派のみ集める≫
「ならアタシは無理かしら。
政治利用された挙げ句、火炙りにされないのなら・・特に不満は無いし」
≪二番目という訳か。
無理強いはしない。
平和になった暁には【空の口】様の望む通り、我等も楽しむ故≫
「【空の口】さんに、興味は有るんだけどね。
お姉ちゃんは?」
「わっ、私は・・・・。
私は、この世界の人間を殺す・・」
≪何なら、手伝おうか?
魔力形態とは言え・・ソレぐらいなら出来る≫
「えっ?」
女は、キョロキョロと何かを探るように視線を動かし・・ピタッと視点を固定する。
その先は・・私達の村。
≪なあに。
保護者を失い、暫くは飢えるだろうが・・『復讐』を糧にするタイプの君なら、直ぐに我を越える魔女になる。
そうすれば、あんな保護者など居なくとも・・≫
そう言って、目の前の女は・・数十の人頭大の岩を宙に浮かせ、ナイフのように尖らせ───
「───駄目ぇっ!」
≪・・っ!
・・どういうつもりかな?≫
気付くと・・私は、岩のナイフを全て叩き落としていた。
今までとは比べ物にならない程、強く、速く、大きな植物で。
「あ? ああ・・?
わ、私・・私は・・」
≪・・・・≫
「・・御免なさい。
お姉ちゃんが本当に許せないのは、『権力者』だとかじゃあなくて・・『家族を守れなかった自分』らしいの。
お姉ちゃんの心の糧は、『復讐』というより───」
≪・・なるほど≫
女が、フワリと浮かぶ。
≪君は、【空の口】様に・・とても、とても良く似ている。
君の思う通りにすると良い≫
「アナタは?」
≪再び、別の土地で『世界に復讐したい』乙女を探すよ≫
「あっ───」
女が、遠ざかって・・。
≪・・・・。
出来れば、君達とは敵になりたく無いな。
厳密に言えば、裏切ったという魔女達も・・別陣営に別れはしたが、憎みあっている訳では無いしね≫
「取敢ず、そのうちソチラに行って見ますね」
≪・・ああ。
待っているよ≫
そして、女は・・何処かへと、去って行った。




