403『秋原家。』
「【人土】は何時でも実世界へ帰る儀式を始められるよ、幹太さん」
「今までのデータが揃ってますから。
我等、代表の7人だけで『扉』は開けます」
「分かりました」
◆◆◆
「・・どうだ?
『三者を超えし者』・・?」
『片鱗も見えない』
本来なら、【空の口】が顕現する時間に近づいた・・が。
【空の口】顕現の予兆が、未だ見えない。
『【空の口】への『魂に着けた傷』の程度が分からない。
故に、いつ顕現するかが分からない』
「厄介だなあ」
王族が【空の口】の魂に『ちょっかい』を出さなければ・・王族戦の後、この【青い銀星王国世界】から脱出する時間が取れなかった。
ので、王族と【空の口】との連戦予定だったのだ。
『然りとて、封印と言えるほど深い傷でも無い』
【オウゾク】になった王族も、その補佐に来た王族も・・みんなトンチンカンというか、ツメが甘かったらしい。
中途半端な傷だけ付けて ( 中途半端な傷『しか』付けられないとも言う。) 倒した気になっていたしな。
「あまり良くないぞ、コレ・・。
何時顕現するか、何時顕現するか・・って続くのは、皆のストレスが半端ない」
「そうよね。
どうせ来るなら、さっさと来いってのよ」
「消耗もあるしなァ。
この人数だしよ」
持久戦になった時・・互いに睨みあうだけで、あらゆる物が消費されてゆく。
肉体的・精神的な疲労に、食糧や水もそうだな。
「横○版・三国志で魏延とかが、焦ってさっさと攻めようって言ってたイメージ有るけど・・気持ちは分かるわー」
「傭兵をやっていると、そう言いたくなるシーンは山ほどある。
悩む問題だ」
『さっさと攻める・・か』
「『三者を超えし者』?」
思案顔の『三者を超えし者』。
暫くして・・顔をコッチに向ける。
『やや、賭になるが───
王族が、【空の口】の魂を削るために使った道を・・自分達も使う手はある』
「リスクは?」
『一つ目は、『地球』と『異世界』を繋ぐ『扉』を作った貴女達ならともかく・・『王族の作った道』が信用ならない』
「あー・・下種のやる事なんだし、リスク丸投げとか在りそうよね」
『二つ目は、復活直前の【空の口】が危険』
「復活後の方が、危険なんじゃ・・?」
『魂の治療とは、言うなれば『崩壊と再生』を繰り返す・・魔力の嵐』
「嵐・・」
『防御力は著しく下がっているだろうが・・攻撃力は逆に上がっている』
「ソレって・・」
『メガ○テ直前の爆○岩』
「「あー・・」」
一撃で倒せる保証が無いなら、ヤバいよな。
『自分とチート組ならともかく・・』
「俺ァ勘弁だぜェ、御姉チャン。
流石に『対、村破級』如きの領分を超えちまわァ」
「『対、街破級』とて同じだ」
「考え方次第では、過去最強の【空の口】と戦うって事よねぇ~?」
百戦錬磨の偉大な先達は、全員NGか。
彼等の助力無く、俺達だけで勝てる相手じゃ無いのは百も承知。
「分かりました。
このまま、【空の口】復活を待ちましょう」
「消耗はどうするのよ?
・・いっそ、実世界へ帰る?」
「本来、時間が無いから仕方なくコッチで【空の口】と戦う予定だった訳だしなあ」
無駄な時間が出来たのは、帰るチャンスっちゃあチャンスなんだけど。
『実世界で戦うメリットは、最初より増えた』
「貴族と都民・・か」
『そう。
彼等をコッチに置き去りにしたまま、実世界で復活させれば・・【空の口】は貴族を糧に出来なくなる』
イコール、【空の口】は・・傷は癒えたけど腹ペコ状態で戦う事になる。
「都民が、戦闘の余波に巻き込まれる事も無くなるし」
「さすがに、そういうレベルよね」
下種男共は・・どうなろうと、正直知ったこっちゃない。
けど、女性達が巻き込まれるのは避けたいよなあ。
「生き残った女性達には、父さんとか・・素晴らしい男達から種を貰えば───うぶっ!?」
「幹太?
父さんを何だと思っているんだい?」
父さんが、何故か俺のクチを塞ぐ。
目が恐い。
「あーえうああ、おあうえんえーおあいえあええうえお?」
「馴れてないっ!
人聞きの悪い事を言うなっ!?
父さんは母さん一筋だ!」
「「「そうですよ、カンタ先生」」」
「君達!?」
「「「旦那様は未だ清い体です」」」
「違っ・・いや、意味あい的には違わな───ああもうっ!?」
父さんがメ○パニを食らってる・・。
・・まあ彼女達からしたら、トンでもない数のライバルが出来るのか。
騎士団等は、一連のやり取りを見て・・ナニやら困惑顔。
家族が増える事って、素晴らしい事じゃない?
「ならディッ」
・・凄い睨まれた。
ほぼ全員から 「 この話は終わり 」 という、謎の圧力を受けたので終わる。
・・ちぇ。
『初めて会った時───
自分は、自分から派生した者に興味が薄い云々の話をしたが・・貴女の『ソレ』は、『ソレ』で違う気がする』
「幹太の『アレ』は、かなり『アレ』だから」
どんなアレ?
「はあ・・まあ良いや。
じゃあ、実世界へ帰るかって話だけど」
「実世界で【空の口】と戦うデメリットは───
【実銀星王国】がメチャクチャになる事だろうなァ・・」
「戦闘のシワ寄せが、戦後復興へと行くって事ですか」
「おう。
まあどうせ下種な男共は【人茸《強制肉体労働力》】に、すンだろ?」
「魔法使いも参加しますけどね」
地面を掘らずに、地盤工事が出来たり・・魔法使いの真価って、戦闘よか復興にこそある気がするし。
「一応、確認だけど・・既に実世界の方で【空の口】が復活してるとかは、無いわよね?
或いは地球の方で復活してるとか」
『如何に【空の口】といえど、空間の歪みの無いトコロで顕現は出来ない。
アキハラカンタの周辺以外、有りえない』
「何か、俺が歪んでるって言われているみたいでヤダ」
まあ───
魔王の下まで、長い冒険の旅が始ま・・らないのなら良いか。
「戦後の【銀星王国】は、ガロスに任す部分がメチャクチャ多いと思う。
首都が無くなるのと、都民が死ぬのと・・」
「当然、首都が無くなる方が圧倒的にマシだ。
【ジート村】や【人土村】からの援助があれば、都民はどうとでもなる」
皆も、凡そ似た意見。
・・ってな訳で、実世界───
無人の【銀星王国】を決戦の地へとする事となった。
◆◆◆
「では山柄さん、始めて下さい」
「了解だよ、幹太さん」
山柄さん達【人土】の代表7人が扉魔法の準備を終え、周囲に人々が集まる。
場所は、最後に洗脳解除した騎士団達の詰所がある運動場。
「ココは天も地も・・何もかもが不自然に青いから、別世界だというのは本能で理解できるが───」
「世界と世界を移動する・・か」
「幼い頃から父や兄弟達の魔法を見ていた我等でも、にわかには信じ難い」
コッチで仲間入りした騎士団達は、異世界転移が・・概念から理解しづらいみたいだな。
ま、実際に体験したら分かるだろう。
「悪魔召喚プ○グラムみたいね」
「魔法と科学の融合って意味ではな」
「 今までのデータが揃っている 」 という言葉通り、ナニやらいろんな機械が出てきた。
機械と、ソレを繋ぐコード類で出来た『魔方陣』って感じ。
「最初・・日本でこの魔法を使う時に、こうしたかったんだけど」
「彩佳が山柄さんの会社で働いていた頃か」
「ええ。
あの時はまだデータが足りなくて、断念したのよ」
金目当てのマスゴミやら、
ヨトーガヤトーガとしか言わない政府やら、
面子を潰された警察やら、
魔法や『街破級【アジ・タハーカ】』に興味を持った諸外国やら。
いろんな組織が注目する中、一発成功する手段しか取れなかったしな。
「『扉』、開きます!」
何度目かの光景。
強い光の塊。
───『扉』。
ソレが強くなり・・運動場いっぱいへと拡がってゆく。
≪捕まえたぁ!≫
「・・っ!?」
辺りが扉魔法の光・・魔力でいっぱいになった瞬間、何らかの魔法的干渉を受ける。
辺りが魔力でいっぱい・・言い換えれば、魔法使いとしては濃霧に囚われたような視界不良───そこを、突かれた。
「幹太姉ちゃん!?」
俺の真横に居た、颯太ですら反応出来なかった───という事は、空気も震わせずにココまで・・生き物じゃ、無い?
「逃げろ、みんな!」
「そんな・・幹太!?」
「大丈夫、俺一人でも扉を開けてみせるから!」
≪そんな隙は与えなぁい≫
防壁魔法も、異世界物質迎撃魔法も、防爆衣魔法も、スリ抜けてくる。
ただ、俺の中へ───
「魔力吸収です、幹太」
・・っ!?
この声・・いや、今は!
「魔力吸収!」
≪ぎうっ!
・・な、何故、アナタが・・!?
裏切───≫
この感触・・日本から異世界へ二回目の転移をする際に、颯太にとり憑いた『魔力体』か。
ソレより・・声の方。
皆が、凝視していた。
俺に縁が深ければ深いほど、強く。
・・彩佳と秋原家の人間は、特別強く。
「お・・御姉様が、もう一人?」
「こりゃあ・・」
「お・・お、オバばばば・・」
女体化し、ちょいポッチャリ気味になった俺を痩せさせた感じ───
いわゆる男顔の・・良く言えばキリッとした、悪く言えばキツい系美人・・俺似の女性。
「か、母さん・・」
ソコには・・事故で死んだ筈の母さんが立っていた。




