399『耳を塞いで貰えなかった人はSUNチェック。』
「何方様でしょうか?」
「かっ、かか・・幹太、メイドさんよっ!?
メイド喫茶みたい!」
「お城です」
城の外、王区には人の気配が全く無かったので・・どうなのか───と思ったけど、城の中には人が居た。
どうやら、庭師や警備員とかは城の中で待機していたようだな。
「あ、あのー・・?」
城に侵入した俺達の前に表れた女性が、興奮する彩佳に戸惑いつつ対応してくれる。
洗脳された街人と同じく、慌てはしても警戒はしていない。
ガロスが対応して女性は去ってゆき、彩佳が 「 メイドが・・ 」 と、こぼす。
・・なんかオッサン臭いぞ。
「俺、メイド属性ないからなあ・・。
メイドとかハウスキーパーとか家政婦とか・・作業内容によって名称が変わったりするんじゃなかったっけ?」
「この国では料理人も庭師も、使用人の女はメイドだ。
男はボーイだぞ」
料理人メイド、庭師メイド、掃除メイド・・なんか日本( の一部の文化 )的だなあ。
面倒なので統一したんだとか。
『ニホンのメイドは、ミニスカートで剣を振ったり銃を撃ったりする戦闘メイドがいる』
「何が有った、ニホンっ!?」
何もねぃよ。
日本の( 一部以外の )文化を誤解させる事を言うな。
「基本的には日本にメイドは居ないよ」
「いや・・まあ、うん。
居ないってことぁ無いんだろうけど」
どうしてもね。
日本人( の一部 )は、ね。
メイドと聞くとね。
「ソレよか・・この城に、どんな部屋が有んのかなあ?」
「どんな、とは?」
「民は洗脳し、敵国は存在しない・・。
内政も外交も、王族の仕事らしい仕事って無いだろ?」
「働く必要が無い・・つまり政務室みたいな部屋が必要ない・・って事ね?」
見栄っ張りみたいだし、部屋数は多いんだろうけどさ。
「ソレでも、玄関だのダンスホールだので魔女を監禁してはいないだろうけど」
「寝室にも・・置かねェだろうゼ」
「悪巧みするなら、地下室ってのは御約束かしら」
「うーん・・」
等々・・話しつつ手分けして探していると三階隅、妙な魔力溜まりがある部屋を発見。
気づいた『三者を超えし者』が、多少コケそうになりつつ、部屋の中央へと歩みよる。
≪・・ああ、君か≫
≪・・生きていたのね≫
『・・・・。
ヨランギと───貴女達のお陰だ』
この部屋を、一番近い表現に例えるなら・・死体安置所ってヤツか?
十人以上の・・木乃伊、骸骨、といった死体が部屋中に転がっている。
防腐処理をしている死体もあるな。
≪ヨランギの子等の呼び掛けに、つい反応したら・・この『世界』に閉じ込められたんだよ≫
≪ココはまるで、ベッドサイズの寝所ね≫
その部屋の中心に、その二人は寝ていた。
昔、子供の頃・・体を冷やした犬から全身の血を抜き、再び血を入れ、人工的な冬眠を再現する───
そんな、TV番組を見たことがあるが・・『成功した』とかそんなのは関係なく恐怖した事を思いだす。
『寝所・・?
この部屋・・いや、その体がか?』
≪ヨランギの子は、街破級を作りたかったようだね。
手下としての、【空の口】用ではない自分達用の街破級だよ≫
『その過程で産まれたのが、この【銀星王国世界】だ・・と』
≪彼等は、とても沢山の実験をしているの。
魂の世界。
洗脳。
【空の口】。
そのウチの一つで産まれたのが、今の私達よ≫
彼女達のクチは、動いていない。
この声から、魔法的な魔力が見える。
言うなれば・・スピーカー魔法か。
≪【空の口】が自分の莫大な魔力と肉体を糧に、街破級を産みだしたように───
ヨランギの子は、自分達の矮小な魔力でも産み出せる魔物を探していたの≫
≪その過程で・・糧になり、死に、魔物が産まれるのではなく───そのまま、魔物へと『転じた者』が居たんだよね≫
『転じた?』
≪【空の口】のやり方が、死肉から蛆が沸く方法。
ヨランギの子のやり方は、本人そのものが蛆へと成りはてる方法≫
この例えに、『三者を超えし者』と『彼女達』との会話を聞いていた傭兵団や騎士団の数人が吐いていた。
≪ほら、あの台座の娘・・『メーラ』よ≫
『メーラ・・彼女が、王族の子に転生していたのか』
街破級の肉を食べ、「 魔女が入り込んだ 」 と叫んだという妊婦が産んだ娘か?
最奥の台座にある、骸骨に皆の意識がゆく。
・・『三者を超えし者』の複雑な表情を見るに、【空の口】陣営だったのかな。
でも魔女達の雰囲気を見るに・・陣営は別たれていても、仲間意識があるっぽい。
魔女は誰も、人に絶望しながら死んでいき・・【空の口】に、魔女として救われた女性達だからなあ。
『三者を超えし者』『三者』達も───
『メーラ』とやら達、【空の口】陣営とは別の手段で【空の口】を救いたいのかもしれない。
≪メーラは【空の口】の為・・いっぱい頑張ったみたいだね≫
≪ソレを、ヨランギの子等に利用されたの。
体内に『魂の世界』を持つ魔物を産みだすほどのチカラを彼等に捧げたようね≫
『【空の口】も、今代の王族には利用されているらしい』
困ったように笑う三人。
パッと見は、不甲斐ない親戚の子に苦笑いし・・ウッカリな友人を茶化す感じ。
・・・・その心情は分からんけど。
でもまあ、たぶん現代を生きる俺達が分かる必要はない。
彼女達だけの気持ちだろう。
≪やがて・・二人目、三人目の魔女が人間として此方に来て───
その度にヨランギの子は、実験を繰返し・・≫
≪自分達専用の魔物、【マジョ】を産みだしたんだ。
ソレが今の私達だよ≫
冷凍保存された人間の死体にしか見えない二人。
でも、その身は魔物で・・生きているらしい。
『街破級』が、幾十人もの魔女が入れる『寝所』なら、彼女達はギリギリ一人の魂が入れる『寝所』の魔物。
王族の命令のまま、【レッサーハウンド】や【アルラウネ】を産みだす苗床として。
≪・・でも、さっき二人とも大量にチカラを使ったからね。
もう、あまり長くは無いんだ≫
≪魔女たる者、【空の口】ほど極端では無いにしろ・・死生に然程意味は無いけどね≫
『そう・・か』
・・・・。
≪そうそう!
ヨランギの子が余りにオイタをするものだから・・ちょっとキツ目の悪戯をしたのだけれど・・≫
『・・あ、アレには苦労した』
≪あら、出会っちゃった?
ゴメンなさいね~。
彼等に教えたレシピの薬名は『誘蛾灯』。
自らを殺す、とてつもなく恐怖を抱くモノへ・・自ら近づく本能を植え込む薬≫
えげつないモン作るなあ。
≪一見、絶大なチカラを与える薬に見えるけど・・魔力と肉体機能のほぼ全てを、自己再生魔法へと注ぎ込むのよ≫
・・えげつないモン作るなあ。
拷問専用薬じゃん。
颯太や源太ちゃんの攻撃を受けてすら、なかなかダメージを与えられなかった( らしい )のは、そのせいか。
ビタ達【人花】が・・普段ほのぼのしているのに、敵には凶悪になるルーツなのかなあ。
≪てっきり、その相手は【空の口】になると思ってたから・・ゴメンなさいね~≫
『あ、貴女は何時もそうっ!?
本当は自分の順番なのに 「 ついウッカリ 」 とか嘯いて、ヨランギと寝───』
咄嗟に、颯太の耳を塞ぐ。
彩佳は、ビタの耳を塞いでくれた。
ナイス。
≪君はそーゆートコ、ほんと変わんないねぇ≫
『あ、貴女も人の事は言えない!?
朝昼晩と、食後の一発とばかりにヨランギと───』
ガロスや騎士団・・ヨランギが興した【銀星王国】に忠誠を誓いし彼等が、国母達の・・国父との下世話なフリートークに、なんとも言えない顔をする。
お、俺を見るんじゃないっ!
白百合騎士団の女性達は・・義理の妹、ザレが【人狼の巫女】───
彼女の直系の子孫だと知っている。
ザレを慰めているようだけど、たぶんより惨めになると思います。
≪・・はぁー・・。
久々に笑ったわ♡≫
『笑い事じゃない』
≪良い保養だよ≫
『保養でもない』
そう、語る『彼女達』から・・ナニかが、「 すぅっ 」 と、抜けて───
≪───じゃあね。
そのうち、また≫
≪次はもっと大笑いできると良いな≫
『・・・・ああ』
───
先程までの騒ぎが、まるで夢だったかのような静寂に包まれ・・・・。
「『三者を超えし者』・・」
『・・済まない。
行こう』
「・・ん、分かった」
全ての憂いは無くなった。
・・後は、【空の口】だけだ。




