392『コッソリやろうとしていた事を、実はみんな其々がやろうとしていた時の気恥ずかしさ。』
目の前が静かになったので、高速回転刃魔法を解く。
「今日って、日本だと13日で金曜日なのかしら?」
誰がJそんだ。
『ソコの残虐超人、【オウゾク】の肉体は貰う』
誰が残虐超人だ。
「・・って、【オウゾク】の肉体?」
『貴方の復讐を台無しにする物ではなく、飽くまで情報を得るためのモノ』
そう言うと『三者を超えし者』は、バラバラの【オウゾク】に手で触れる。
・・あ。
腕から【スライム】を戻し、【巫女化】を解いた直後だったから少し見えた。
「『箱』と・・魂か」
『そう』
『三者を超えし者』は、【オウゾク】の肉体を・・『箱』へと変えてゆく。
んで、『箱』の中に・・魂? が収まってった。
「以前、ザリーにヴォイドを渡した『王族擬き』の『箱』は・・ヴォイドが使えなくなったよな」
『『ヴォイド使い』は、こうやって封印するのが一番いい』
そういや王族のヴォイドは、元々【空の口】の物で・・王族が死んだら本来の持ち主である【空の口】へと帰るんだっけ。
「んー・・颯太を殴った罪、皆を傷つけた罪はこんなモンじゃないけど・・仕方ないしな」
『理解してくれて有難う』
そう言う『三者を超えし者』の足下は───微かに震えていた。
・・いや、さすがに俺も 「 納得できるかー! 」 って暴れたりしないよ?
もっかい、頷くと・・やっと『三者を超えし者』が安堵したのか震えが止まる。
・・誰だって妹が傷つけられたら、こんぐらいにはなるよな?
残虐じゃないよな?
「まあ、方法はともかく・・コイツ等には皆、腸が煮えくりかえってる訳だしね。
ヤリ過ぎとは思わないわ」
「そうだな・・父さんも人生において、悪意ぐらい抱いた事はあるが───殺意は初めてだ」
「儂は・・まあ、色々あったしの。
幹太が間違っとるとは思わんわい」
「僕もー!」
再構成された事もあるだろうとは思うけど・・まあ、因果応報って奴だ。
皆も納得してくれ───って、何だ?
・・【人土】の皆の様子が・・。
「か、幹太さん・・!」
「「「【巫女】様・・!」」」
「な・・なんですか?」
【人土】の皆が・・手をワキワキしつつ、かつ、息を荒らげて近づいてくる。
リャター夫人の、暴走前と同じ雰囲気で・・恐い。
「・・か、」
「か?」
「幹太さんのトラウマ・・私達が癒したかったぁ・・!
彩佳さんに先を越されたああ・・!」
「・・・・」
良い歳のオッサンとか長老だとかが、16の小娘の前でウォンウォン泣いている。
ちょっ・・騎士団の人達とか、怪訝そうな顔して見ているからっ!?
「御免なさいねぇ~?
コレばっかりは流石に・・産まれた時からの付き合いってもんが有るから~」
「ぐっ・・忠誠心では負けていない・・!」
「ザレとジキアも練習してた・・って、知ってるけど、ア・タ・シ・☆が、治したから~♡」
な、なんなん?
なんか皆、変なテンションだな。
・・まあ良いや。
「で?
何か【オウゾク】から情報は得られそうか?」
『貴女は覚えていないだろうが───
まだ消沈していた時と、激昂していた時に、コイツが気になる事を言っていた』
「気になる事?」
『【空の口】から<力を吸い上げた>とか<取り戻した一撃>とか・・』
「ふうむ」
なかなか興味深い意見だが・・ディッポ団長とザレから、「了」って感じの魔力パスが来たので皆が集まってから相談しよう。
◆◆◆
「ぐっ、ぐぐぐ・・!
あと三日、あと三日さえ有れば・・御姉様はワタクシが・・!」
「ズルいッス、アヤカさん!」
「何でアタシがズルいのよ?
アタシ、努力しただけだし~?」
「私も治したかったのです!」
「焼きソバ美味美味♡」
みんな、無事に合流。
怪我らしい怪我も無く、一安心だ。
・・帰ってきて早々、何か彩佳を中心に言い争いが始まったけど。
パスに俺が恐慌せず応えた事、帰ってきたら俺が普段通りに料理を作っていた事、【人土】達の消沈した雰囲気、彩佳の機嫌を確認して・・ザレとジキアとビタが真っ先に彩佳の下へ ( ピヒタは料理へ ) 飛んできたのだ。
ディッポ団長とリャター夫人は俺の下へ。
「・・ま、無事みてェだな」
「完全に、とは言いがたい感じですけどね。
まだ【レッサーハウンド】の死体を見たら───多少ザワつく物が有ります」
「ソレは追々、治していけば良いわぁ~。
今度こそ、自分の心から目を反らさずにね」
「はい」
俺が助けたい人達が、俺を助けようとしてくれている。
助け、助けられ。
その想いには応えたい。
で・・報告会、兼、慰労食事会。
「そう・・か。
ビタ・・ピヒタ・・【人花】の皆、大変だったな」
「確かに、悲しいし悔しいのです。
・・でも、死因が何であれヒリタ姉様は帰ってこないのです」
「なら、せめて仇は討てたんですから・・善しとします」
他の【人花】達も、似た感じ。
【人花】の考え方で・・自然に帰った者に余り心を残すのは、生者にも死者にも善くは無い───というものが有るらしい。
なら族外の、俺が言う事なんか無い。
無言でビタの頭をゆっくり撫でると、頬を染めて深く静かに受け入れてくれた。
「それより・・御先祖様の、お薬ですか・・興味あるのです」
「薬のチカラを植物限定で恒常的に使えるようなったのが【人花】。
植物と・・完全に境目が無くなったのが【アルラウネ】だったんだろうなあ」
ビタ達は【巫女化】により、【アルラウネ】を沢山吸収した結果・・エリ草や【アルラウネ】の頭の花のような、回復力の有る草花を作れるようになったらしい。
俺ら的には助かるけど・・本人達からしてみれば、怨敵の能力だし───かなり複雑っぽいな。
まあ、あまり無理強いはしないし良いけど。
「次は、ワタクシ達の番ですわね。
こちらで分かった事は【空の口】の寝言に、預言のチカラが有るらしいですわ」
「預言?」
『三者を超えし者』の方を向くと・・彼女は目を丸くして、知らないと首を横に振る。
「・・なら、ソレこそ奴等の寝言じゃあ?」
「ワタクシも今や、魔力は見えます。
【人狼】達の中にも少しずつ、魔力を見る目を会得する者が居ますわ。
・・少なくとも奴は、魔法使いの目にかけて嘘をついてはいませんでした」
「ソイツ自身・・偽りの記憶か、詐欺に在ったとかで無いとすると───」
マジで、預言?
『三者を超えし者』が知らないっつう事は、最近身につけた能力か。
「奴の言う、預言内容は・・その」
困った感じで、言い淀むザレ。
「言いづらいなら───」
「お、御姉様とソウタ様の転移場所・・ですの」
「「・・っ」」
「・・ソコに【レッサーハウンド】を送った───みたいな事を言っていたわねぇ~」
「やはりか・・」
うっ、なんとなく【レッサーハウンド】と王族の関係を予想していたらしい父さんがスゲェ恐い顔。
・・どうどう。
俺は・・トラウマの原因を聞いて、ザワつく感じは有るが・・ソレ以上には成らなかったな。
彩佳の魔法が効いているようだ。
「あと・・」
「まだ有るのか」
ザレが、チラッと源太ちゃんを見て・・。
「【ニーズホッグ】の卵の位地・・と」
「・・ほう」
わあ、源太ちゃんもスゲェ恐い顔。
・・どうどう。
間接的に、とはいえ・・王族が、源太ちゃんの恋人のザラクスさんの仇だもんな。
「【ニーズホッグ】も【ファフニール】も、御姉様に倒されるのは予定通り・・と」
「・・!」
コレにはガロスが反応する。
【ファフニール】が倒されるのが予定通りなら・・【ファフニール】に取り込まれたガロスの最愛の弟、デロスの死は───
「【空の口】以外にも・・まだまだ、問題は残っているなあ」
『三者を超えし者』が準備する、『国王の箱』を見ながら・・タメ息をつく。




