385『vs【オウゾク】①』
「ディッポファミリー傭兵団と【人花】が向かった先は不自然に静かで・・白百合騎士団と【人狼】が向かった先は爆音が聞こえ始めたわね・・」
彩佳姉ちゃんが、緊張した感じで唾の飲む。
爆炎のせいでクワガタを近づけさせられないし、コッチに意識を集中しているから・・あまり皆の様子は見えないらしいよ。
でも、誰からの魔力パスも消えてないから無事な筈だね。
「・・向こうも心配じゃが・・コッチもな。
───何故、姿を見せん?」
「【アルラウネ】と【レッサーハウンド】は間違いなく現れた・・と、見るべきでしょうね、源太ちゃんさん」
「うむ」
父さんと源太ちゃんが、この道の先にある穴を警戒している。
・・まだコッチの穴から、何にも出てきてないから。
「幹太姉ちゃん・・」
幹太姉ちゃんはまだ、虚ろな目で震えている。
・・僕も、幹太姉ちゃんみたいにトラウマを癒す魔力譲渡が出来たら良いのになぁ・・。
女学園の皆が、幹太姉ちゃんに譲渡してた事もあるから・・魔力操作さえ出来れば、魔法使いでなくとも使えるんだけどね。
「まさか、コッチの穴は陽動で・・さっきの爆発で侵入してきた敵は全滅した───とかかい?」
「ソレは無いだろう、ヤマエ殿。
追い詰められている筈の王族にとっては、陽動にも手を抜けられん」
たぶんイーストさんの言う通り、王族の最後の悪足掻きっぽいし・・手加減は無いんじゃないかな。
「なら、可能性は2つかしら」
「どのような可能性なのだ?
ウミノアヤカよ」
「ひ、1つは・・『入らない』。
・・爆発にビビった。
もしくは【アルラウネ】か【レッサーハウンド】の援軍に向かったか」
「ふむ、彼方は未だ戦っている事からも・・彼方を本命と見た可能性はあるな」
彩佳姉ちゃんの提案にガロスさんがにじり寄ってって、ガロスさんがにじり寄る度に彩佳姉ちゃんが一歩下がってく。
彩佳姉ちゃんは、まだガロスさんが苦手みたいだねぇ。
・・たぶん " うぶ " な幹太姉ちゃんはまだ、告白とかして無いんだろうし───
彩佳姉ちゃんが生まれて初めて受けた告白って、ガロスさんなんじゃないかなぁ。
「も・・もう1つは、『入らない』んじゃなくて『入れない』・・よ」
「「「 入れない? 」」」
2つ目の可能性に・・ガロスさんだけじゃなく、父さんと源太ちゃん、ウェスト傭兵団とペリオラ傭兵団と騎士団達、【人土】の皆が・・首を傾げる。
僕も。
「理由までは分かんないけど・・幹太が開けさせた穴が小さい───とか?」
「【レッサーハウンド】が相当な数、入りこんできているようだし・・最低でも、2m前後の穴は空いている筈だがな」
「大型の魔物・・その場合、なぜ今までの大侵攻に使わなかった?」
「ソレを言うなら、なぜ【アルラウネ】【レッサーハウンド】を使わなかったの?」
「つまり・・」
みんなの視線が、『三者を超えし者』さんに集まるよ。
『切り札をケチって、貴方達に勝てる・・と、思いこんでいたので無ければ』
なんだか、ソレも有りそうだけどね。
『王族は、【空の口】の───
『洗脳』に『自分だけの青い世界』といった魔法を真似ている』
「・・自らの身体を贄に魔女の眠る寝所、『源・街破級』を造る魔法を・・『魔物を産む魔法』を、王族独自で完成させた」
頷く『三者を超えし者』さん。
でも・・。
「ソレって、『億が一』くらい有り得ない魔法なんだっけ」
『そう。
アキハラソウタの言う通り、本来は【空の口】レベルの『魔力』と『肉体』が必要。
けどそんなモノは存在しない。
だから『億が一』。』
「王族と貴族、全員足してもー?」
『足りない』
「魔女を足してもー?」
『魔女を・・足す?』
前・・確か合コンの時に、幹太姉ちゃんが言ってた。
「【空の口】が、生まれ変わり? とか? 何とか、言ってたけど・・王族の子供とかに、魔女を生まれ変わらせる事って、出来ないかなぁ?」
『・・っ。
・・『億が一』よりは、高い確率で出来るかもしれない』
二千年前、王族の先祖が魔法欲しさに、【空の口】に子供を産ませたとかって、幹太姉ちゃんが怒ってた。
そんな奴等なら・・。
「もし、二千年間・・ずーっとそんな事ばっかしてたら───
『億が一』でも成功しちゃうかも?」
『いや・・心根が強盗で、魔女への敬意が無い者達・・!
もっと下種な実験・・例えば、死体を使うなどすれば・・・・更に高い確率で───』
傭兵団のみんなとかが、嫌そうな顔をするよ。
「『三者を超えし者』さんは、【空の口】に造られた魔女なんだよね?」
『あ・・ああ』
「造られた魔女がいっぱい居れば・・わあっ!?」
突然、『三者を超えし者』さんが吐いちゃった!
「ゴメンなさい! ゴメンなさい! ゴメンなさい!」
『い、いや・・貴女は悪くない』
「そうね。
悪いとすれば・・王族よ、颯太」
「う・・んぅー・・」
魔女のみんなは『三者を超えし者』さんの友達だもん・・嫌な気持ちになっちゃうよね。
『もし、劣化【空の口】相当の肉体と少々の魔力を確保出来たとして・・王族が満足出来るとは』
「楽観視より、最悪を想定すべきだわ!
王族は魔物を造れる!」
『し、しかし・・幾ら【空の口】以外の魔女を束ねても、『街破級』は造れない』
「だから【アルラウネ】や【レッサーハウンド】・・『道・村破級』なのよ」
「なら、何故その魔物なんだ?
【空の口】がやるなら、三種族への『当て付け』になるだろうが・・王族は?」
『アキハラカンタが、炎魔法を好んで使うように・・相性がある。
もし、『覇者』と『聖者』の魂を利用されているのなら───』
「ソレなら【スライム】が出てこない理由にもなるかね」
『三者を超えし者』さんがココに居るからかな。
「・・という事は、質より量って訳か?」
「だと良いんだけど───
そんな訳ないわよね」
地響きが聞こえる。
大きな大きな・・音。




