383『vs【レッサーハウンド】軍団②』
予言の力がある【空の口】の『寝言』により、王族達は様々な面で先回りしていたのだという『道化』の言葉にザレは。
「・・その割には、御姉様に悉く負けておられるようですが?」
<【ニーズホッグ】も【ファフニール】も、倒されるのは予言通りでしたー♪
───ヴォイド!>
「・・くっ」
『道化』本人はザレ達の目の前に居ないとはいえ・・声は魔法によって飛ばし、この距離で会話が成立している。
魔力が介在する以上、両者の間に嘘は通用しない。
心乱され、仲間達との連携が乱され、敵の追撃を許すザレ達。
<所詮、貴女方は【空の口】の手の上で転がされていたに過ぎないのですよー♪>
「・・・・」
ただでさえ物量は【レッサーハウンド】の方が圧倒的に上であり、体力に陰りが見え始める頃なのだ。
被弾は時間の問題だろう。
相手が自分の言葉を無視できない事を実感した『道化』は、口調も軽くなってゆく。
「ですが・・貴方方は、この世界へ逃げ込まなければならなかったのでしょう!?」
<ソレはまあ・・流石、今代の英雄としておきましょうか。
───それに・・>
「それに?」
<・・・・いえ>
『道化』は・・答えない。
明らかに、クチが滑ったような雰囲気を感じる。
───魔力が介在する以上、両者の間に嘘は通用しないからだ。
「( ・・何でしょう?
【空の口】の予言には、王族に不利益な物も含まれるのでしょうか? )」
「( 人類の敵たる【空の口】ゆえ、同じ人類である王族殺す・・などと言われたのでは? )」
ザレと、【人狼】の長の二人の会話に・・リャターは「う~ん」と、少女のような仕草で考え───
「( ・・・・。
王族の不利益・・では無く、【空の口】の不利益・・ではないかしらぁ~? )」
「( ・・学園長、それは? )」
リャターの予想の意味が、今一つ分からない面々。
リャターは刺突剣で、迫る【レッサーハウンド】の急所を一瞬で穴だらけにしつつ『道化』に問う。
「それほどの予言を受けながら・・王族が後手後手に回ったのは、【空の口】の真意をねじ曲げてしまったのではなくってぇ~?」
<・・・・っ!>
「【空の口】の予言を・・【空の口】の望む結果ではなく、貴方達の望む結果に『改変』しようとした結果───予言が、自分たちの都合が悪いように降り掛かってきたのではなくってぇ~?」
<・・・・>
「あらあら!
沈黙って事は肯定よねぇ~♡」
<・・・・。
・・流石【銀星王国】において、王族より人気の白百合騎士団・初代団長で在らせられるリャター殿ですなぁ>
『道化』の声に、苦い物が混ざり始める。
防壁の外に出ず・・声だけで敵の集中を乱し、撃破したいのはリャター達とて同じ。
緊迫した場で、焦っているのはどちらも同じ。
相手の言葉を、無視し続けられないのは『道化』とて同条件なのだ。
「『覇者』を奪ったのなら・・『聖者』も奪ったわよねぇ~?」
<・・・・ええ♪
【人花の里】ごと焼き滅ぼす、それはそれは悲惨な方法で【人花の巫女】を殺してねぇ♪>
戦力はともかく・・場の支配権が自分では無くなりつつある現状に『道化』は、努めて明るく振る舞おうとする───も。
「・・【人土】は?」
<───はい?>
───あまりに想定外の質問に・・『道化』は一瞬、頭が真っ白になる。
「【人土の巫女】は殺したのかしら?
『賢者』の魂は、手に入れたのかしらぁ~?」
<【人土】は・・絶滅───>
「あらあらまあまあっ!?
意外と情報通かと思えば、そんな事無いのねぇ~・・?」
<・・・・っ!>
「ニホンで、ソウタさんに取り憑いた魔力体も・・【人土】の事を知らなかったようだしぃ~?」
「・・【空の口】も何でも知っている訳ではありませんのね」
<ぐっ・・>
嘘が通用する場と、嘘が通用しない場とでは、交渉の鉄則はだいぶ変わる。
通用しない場合・・その殆んどは、最初にボロを出した方が不利になる。
「『賢者』は、言っていたわぁ~」
<け・・『賢者』・・?>
「洗脳魔法に、自分だけの青い世界を作る魔法。
・・王族は【空の口】の魔法を、自分達の都合よく使いすぎる───とねぇ~。
【レッサーハウンド】を作る魔法もそうかしらぁ~?」
<・・・・>
ザレ達にも、ココまで話が来れば理解できる。
「貴方達・・もはや、【空の口】陣営では無いのですのね?」
<・・な、何を馬鹿な>
「【空の口】が復活して、誰よりも困るのは・・貴様等の方だな?」
<・・・・>
「───図星、よねぇ~」
沈黙は肯定。
「持久戦は貴方達の方が得意かもしれない。
・・けど、有利では無い。
むしろ短期決戦を望むのは───」
<───ウルセェんだよ、下賤なヤツ等如きがああっ!?
ジワリジワリと、いたぶるつもりだったが・・行け【レッサーハウンド】ども!>
『道化』を名乗る者は、本物の道化となる。




