381『vs【アルラウネ】軍団③』
「ビ・・ビタ、御嬢チャン・・?」
「──────」
ディッポの呼びかけは、虚空に溶けきえる。
「ぴ・・ピヒタ・・?
ど、ドコであるか・・・・?」
「──────」
【人花の長】を気づかった言葉は・・虚しく、何処にも届かなかった。
<・・樹?
何故、こんな・・突然───>
ディッポも。
ディッポファミリー傭兵団の団員も。
・・王族に連なる者を名乗る者も。
現在、空間を支配するのは自分たちでは無い。
敵ですらない。
自分が存在する権利は・・自分が有してはいないのだ。
「お、おい・・王様よ」
<・・な、何だね>
───場を繋ぎ、自分達が逃げる隙を作る必要がある。
隙を作る為・・今、自分が何を聞いているのか分からない。
「あンた、【巫女】を知らねェのか?」
<み、【巫女】とは・・世に散在する魔力を集め、民と───魔女へと分割・譲渡する者なり>
「魔女へと・・だァ?」
今、自分が何を聞かれているのか、正しく認識出来ていない。
情報の出し入れの忌避を決める思考が鈍感してゆく。
<【巫女】とは、【空の口】が創りし『源・街破級』の体内に存在する『魂の世界』に眠る魔女を癒すため、魔力を集める装置なのだ>
口調の変わる『王族に連なる者』を名乗る声。
───が・・。
知り合いのド天然の妹狂い・・【土】が、妹を食おうとした話を聞き。
嘗ては目の前で【狼】の、ソレを目撃してしまった。
その経験により、辛うじて理性を残していたディッポファミリー傭兵団の人間達は、気づく。
「( 聞いてはイケない事を聞いてしまった。
コイツは・・言ってはイケない事を言ってしまう─── )」
もう、見たくないのに、コレはそうだ。
───だが、賽は投げられた。
投げられたのだ。
後は、良い目が出るのを祈るばかり。
「【巫女】が、対【空の口】用の兵器だ・・っつうのは」
<兵器・・知らぬ。
・・そんなモノは知らぬ・・知らぬ、知らぬ、知らぬ、知らぬ、知らぬ、知らぬ、知らなかったのだああああああああっ!>
「知らぬ存ぜぬ、じゃあ通用しねェよ。
言え、先代の【巫女】に何をした?」
樹が・・微かに揺らめく。
・・風は、吹いてない。
<し・・城が、この世界の『錠』であったように───各【巫女】は、各『三者』が眠る世界への『錠』なのだ・・>
【アルラウネ】が減っている。
・・悲鳴は、聞いてない。
<せ、世界征服用の魔物を欲する余り・・三者を極秘裏に用意した女魔法使いの死体に取り憑かせる術を編みだした私・・いや、王族達は───>
【アルラウネ】が減った代わりに、カサカサな何かが辺りに落ちている。
<三種族の各里へ向かい───>
最後の【アルラウネ】が見えた。
見えてしまった。
<と、当時の【巫女】と長は、『錠』の事を知らず・・扉を自分達で開ける手段を知らなかったので・・>
【アルラウネ】の足下から、植物の根のようなモノが現れ・・とりつかれた瞬間───枯死した。
普通の植物が、地面の水分や栄養を吸い上げるように。
一瞬で。
心無く。
<手っとり早く、『錠』を開けるために【巫女】を──────>
最後の『王族に連なる者』を名乗る声は、聞こなかった。
聞く者もいなかった。
歴戦の勇士達であるディッポファミリー傭兵団は。
必死に。
気づかれぬよう最遅で。
出来うる最速で、逃げだしていたので。




