380『vs【アルラウネ】軍団②』
<何という武器を持ち込んだのか・・ですか。
・・全くもって同感ですな>
「!?」
突然聞こえた、男の声。
今まで、聞いた事のない声。
姿の見えない、相手の声。
「だ、誰なのですっ!?」
【人花の巫女】ビタは突然の見えぬ声掛けに、警戒するが・・ディッポは、その正体に思い至る。
「・・王族、か?」
<先先代の王の、孫・・では有りますが、国法により王位継承権から爪弾きにされた者ですよ>
慇懃な語り口だが・・詰まらなさ気に答える声。
「・・オメェ等は、ナニがしてェンだい?」
<王位継承権を持つ連中は、世界征服らしいですな>
「貴方は違うのですか?」
ビタの質問に、声は。
<・・私自身は、【銀星王国】の王の器に過ぎません>
「自分を、王族共より下に見てンようにも聞こえるが───
【銀星王国】王座に、王の器に相応しくねぇ連中が座っていた・・と、言ってるようにも聞こえるゼ?」
<・・・・。
御想像に、お任せ致します>
少し間を起き、応える声。
やや、機嫌を損ねたように聞こえる。
「・・一応、聞いておくぜ。
俺らも世界征服を狙っていてなァ・・協力してくれるっつうなら【銀星王国】の王座ぐらい、用意出来ン事も無ェがよ?」
<・・魅力的ではありますが、もう引き返せない場所に立つ身ですので>
「・・そウかい」
<───ソレに>
声が、変わる。
別人に、いや、別人と勘違いしうる程に別の感情を乗せた、声に。
<この馬鹿気た『壁』を創りし者。
ヴォイドを退けた者。
やっと穴が空いたと思ったら・・コレまた馬鹿気た炎を同時に仕掛けた者>
「・・・・」
<そして・・恐らくは、この魂の世界への『扉』を開いた者>
「・・ああ、全部同一人物だ」
声と、ディッポは・・同時にタメ息をつく。
<『扉魔法』自体は、然程難しく有りません。
良い魔法教育を受けた者が、数人居れば『扉』は開く事が出来ましょう。
───『錠』が無ければ、ですが>
『錠』。
ディッポが思い至るのは。
「・・『城』か?
本来は、鍵か何か・・王以外はこの世界へ入れない───筈だった。
『城』を破壊するっつう、バカが出てこなけりゃァな」
<───・・ええ>
声が、微かに「 クックックッ 」と笑う。
<【空の口】の完全洗脳者達。
『街破級【フレズベルグ】』。
星の数程の魔物達。
ヴォイド使い───
・・・・。
コレだけの戦力でも抹殺できない貴方方にアイツ等は、慌てふためき現実の【銀星王国】を無様に捨てて、この世界へ逃げて・・>
ついに吹き出して笑い始める、声。
<逃げた、その先にすら追いかけられて・・・・城が破壊された瞬間の彼等は非常に滑稽でしたよ>
「御愁傷様、としか言い様がねェな」
<禁術を使ってまで逃げだそうとする程に>・・と、声は楽しげに笑う。
「禁術だア?」
<・・・・。
・・ええ、禁術です。
そもそも、王族がこの世界を作ったのは・・世界征服用に、新魔物を産みだす魔法の副産物です>
「コイツ等か」
声と、ディッポ達が会話している間にも・・【アルラウネ】は群で攻めてくる。
ディッポファミリー傭兵団は・・或いは弓矢部隊が剛弓で矢をバラ撒き。
或いはジキアが、対物ライフルで複数を貫通させ。
或いは近接部隊や非戦闘部隊が、アサルトライフルで面制圧をし・・隙なく【アルラウネ】の群を撃破していった。
・・それでも。
次から次へと、【アルラウネ】は爆炎の向こう・・防壁の穴から補充されていた。
<全く・・あの無能共ときたら・・。もっと早く【巫女】共を殺しておけばこうも苦戦せず済んだというのに───>
「・・は?」
ビタは、思考が停止してゆく感触を味わっていた。
声が、意味不明な事を、言う。
【巫女】は、自分は、こうして、生きている。
【巫女】は、殺され、て、など、いない。
『アレ』は。
【人花の里】を、焼いた、火事は。
事故。
不幸な、事故。
悲しい、が、自分たち、の、不始末。
・・で、ある・・はず、だ。
<ああ、違いますよ>
声が。
<魔物を産む魔法の為にどうしても必要なモノが有りまして・・ソレを手に入れるのに、【巫女】が邪魔でしたので>
音が。
<最初は穏便に、【人花】の長老に交渉していたのですが・・中々了承してくれなくて>
ノイズが。
<面倒臭いので、里ごと焼き滅ぼしまし─────────>
聞こえない。
「おい─ビ─嬢チャ───話───」
「──ピヒタ─気──しっかり──」
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
「───ヒリタ・・・・姉・・様!」
気づけば。
【アルラウネ】の前から。
ディッポファミリー傭兵団の前から。
【巫女】と───他の三種族とくらべ・・無意識より深い場所が、【巫女】と繋がる【人花】の民達は消え失せていた。
・・ただ。
【人花】達がいた場所に、天を切り裂かんと聳え立つ一本の巨樹が立っていた。




