378『One for all,all for one.』
俺の防壁魔法が、ヴォイド攻撃により三方同時に穴を開けられた( 開けさせた )。
───と、ほぼ同時に聞こえる爆音。
連続して聞こえてくるなあ・・。
かなりの数が攻めこんで来ているっぽいぞ、コレ。
「全カ所、こっからじゃァ見えねえ位置だからなァ。
オメェ等、不意討ちを食らうンじゃねぇぞ!」
「ウェスト傭兵団、参る!」
「ペリオラ傭兵団・・嘗ての団員達なら───いや、言うまい。
行くぞ、皆の者っ!!」
「白百合騎士団、みんな揃って・・出撃よぉ~!」
「皆の者、今代の英雄団はそなた達である・・前進!」
みんなが、爆音の聞こえてきた方角へいざ進軍となり、「よーし、俺も」───いった瞬間に 「 待った 」 が掛った。
三種族、いや、正確には二種族から。
「この気配・・ウォっ、ヲオゥっ!?」
「じっ、【人狼】・・?」
【人狼】達が、全身を震わせている。
【空の口】戦まで取っておくつもりだった、【狼化】をしかけ───いや・・暴発しかけていて、人の言葉が出辛くなっているみたいだ。
・・そして、【人花】も。
「植物の操作権を奪おうとしている、この糞共は・・!」
「じ、【人花】達!?」
普段のほほんとした【人花】達が・・『敵』に触れた時だけに見せる鋭利な殺意を、覗かせていた。
「さ、三種族の様子が・・!?
じ、【人土】は・・!?」
「わ、我等に変化は有りません!」
「【人狼】と、【人花】だけっ!?
この二種族が、こうなる敵って・・まさか───」
各傭兵団や各騎士団も・・二種族の異変に戸惑い、動きが止まる。
「「「おおぉおおおおっっ!!!」」」
「じ、【人狼】・・【人花】・・!?」
「お、御姉チャンよう、コイツ等が、こうなるっつうのは・・・・・・・・・・・・御姉チャン?」
「はぁ~~・・はぁ~~・・っ!」
喉が 渇く
視界が 霞む
音が 遠く な る
◆◆◆
「───幹太姉ちゃん?」
幹太姉ちゃんの様子が変だ・・?
・・ベロを伸ばし、瞳孔が開き、小刻みに震えながら天を仰いでいる。
「か、幹太?」
「幹太!?
どうしたんだ!?」
「大丈夫かの!?」
「───あ」
「そ、颯太?
幹太に何が起こっているのか、分かったの!?」
アレは、【ファフニール】を倒した後。
皆で、魔物の森に入って魔物の素材回収を手伝って───
「それで・・幹太姉ちゃんの腕を治せらる【アルラウネ】の頭の花を採ろう、って話になったんだ」
「・・・・そうじゃったのう」
源太ちゃんも・・今、来ている『敵』が分かったのか───悔しそうな顔をしているよ。
「・・幹太は。
颯太を危険な目に逢わしたのは『自分のせい』だと責めとったのう・・」
「あらあら~。
そう言えば・・『その相手』には、未だ悪夢に見る・・と、言ってたわねぇ~」
「御姉様は・・戒めとして、腕をわざと治そうとはしなかったのですわ」
ザラクスさんにチカラを封印されていたせいか・・他の【人狼】達みたいに理性を失いかけていないザレさんが、【人狼】達を宥めながら・・あの時の事を思いだしてるみたいだよ。
「そういや、そんな事を言ってたわね・・」
「ビタちゃんが、『三種族の使命』の話をして・・ちょっとずつ、使命と責任を分けて───とかなんとか、後になって言ってたんだけど」
「その『敵』が現れて・・当時のトラウマが呼び起こされた───っちゅう訳じゃな」
『三種族の本能』が強いビタちゃんは・・かなり興奮してる。
ザレさんと【人狼】みたいに抑えが利かないみたい。
「アルラウネぇぇぇええェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
「レッサーハウンドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
僕と、幹太姉ちゃんが・・異世界に来て一番最初に出会ったヤツ等。
幹太姉ちゃんが腕を失うキッカケになった敵。
僕がまだ弱かったせいで、逃げられなくなったトラウマ。
ああ・・。
あああっ・・。
あの幹太姉ちゃんが・・。
強くて、カッコ良くて、誰よりも頼りになる幹太姉ちゃんが・・!
怖い・・。
なんだか僕も怖く───
「・・・・ビタ嬢チャン、ピヒタ嬢チャン」
───ディッポ団長が一瞬、僕達を見て・・興奮するビタちゃんとピヒタさんに、強く・・優しく・・話しかける。
「オメェ等も、ディッポファミリー傭兵団の一員を名乗るなら・・『敵』と戦う時ゃあ、誰かを守るために戦いな」
「敵ぃ・・守ルぅ・・・・!
・・・・。
・・守る・・・・」
ビタちゃんが・・物凄い数のアルラウネの気配に・・【人花】の本能に捕らわれていたビタちゃんが・・!
「・・守る!
【アルラウネ】から───カンタ御姉さんを守るぅぅのでぇぇぇぇすっ!!」
「行くぞ、ディッポファミリー傭兵団と【人花】は───我等が盟主、アキハラカンタを守る為に【アルラウネ】をブチ殺すっ!」
「「「おおおおぉぉっ!」」」
ディッポ団長が雄叫びを上げ・・ファミリーのみんなと【人花】を連れて、【アルラウネ】がいるらしい方角へと向かっていった。
・・やっぱ、ディッポ団長はスゴイ。
「ザレ・・」
リャターさんも、僕達を一瞬チラッと見て───ザレさんに何時もの・・敵を前にして、のほほんとした感じで語りかけてる。
「・・貴女は、私の娘にして【人狼】達の子。
貴女を助けたいって人は、沢山・・とても沢山居るの」
「が・・学園長・・・・」
「・・ざ、ザレ様ァ・・敵が、我等の敵があ・・!」
【人狼】も・・物凄い数のレッサーハウンドの気配に、暴走しかかってる所をムリヤリ抑えつけていたザレさん。
「皆を救いたい時には、皆に救いを求めれば良いのよぉ~♡」
「お、御姉様の敵を・・ワタクシ達で───」
「カンタさんの敵はトラウマ。
カンタさんが戦うべき敵。
ザレ、貴女のすべき事は・・何?」
「ワタクシのすべき事・・」
「ココまで導いてくれた人の為にも・・遠慮する事はないわっ♡」
「───御姉様の敵・・ではなく、ワタクシ達みんなの敵、【レッサーハウンド】からみんなを救う事ですわ!」
「その為に、私達は貴女を手伝うわぁ~♡」
「・・分かりました。
【人狼】の皆様、白百合騎士団の皆様!
ワタクシに助力を!
共に、みんなの『敵』を討ちます!」
「「「おおおっっ!!」」」
ザレさんを筆頭に、リャターさん達白百合騎士団と【人狼】達が、【レッサーハウンド】の気配がする方へと駆けてゆく。
リャターさんも凄いなあ・・。
「───・・」
・・僕も・・。
・・僕だって、幹太姉ちゃんを守りたい・・・・!
「・・儂もザレちゃんと【人狼】達に着いてゆきたいがのう・・」
「穴は、もう一カ所ありますね。
源太ちゃんさん。」
「【スライム】・・なのかねえ?
同じ三種族とはいえ・・私等と【スライム】は、厳密には敵同士では無いんだよ」
「幹太の爆炎で、クワガタ達はまだ穴には近づけないわ」
「仕方ない。
【人土】達は我等が【巫女】幹太さんを中心に、敵を待ち構える!
姿を見せたら、ガンガンブッ放しな!」
「ウェスト傭兵団は【人土】に同調する!」
「我等、ペリオラ傭兵団もだ」
「では、我が騎士団もソレに倣う」
防壁の穴は、この道の先。
気配が分からない、『敵』。
「幹太姉ちゃん・・僕も怖い───けど。
今まで、幹太姉ちゃんに・・いっぱい、いっぱい、いっっぱい守ってもらったんだ。
・・僕も守ってあげるから!」
───みんなの、勝利のために。




