373『い、家・・足がいっぱい・・・・。』
「フンふ、フンふ、フ~ン♡」
「・・? どうした、颯太?
エラく、ゴキゲンだな」
青い世界の、青い【銀星王国】。
王族が実世界から連れてきたと思わしき、都民。
なら・・騎士団も連れてきている筈なので、騎士団詰所へと向かう途中───颯太がやたら御機嫌で、鼻唄など歌っている。
「だってねぇ・・幹太姉ちゃんの扉魔法───最初よか、上手になったんでしょ?」
「そうだな。
山柄さん達、扉魔法の真の使い手と共に使った事で・・俺に『収まった』感は有るな」
あの時は無意識だったけど・・軽く皆と、【巫女化】したのかもしれない。
魔力を繋げてたっつうより、魂レベルで繋がっていたっつうか。
( 極小で、だけど。)
「って事は・・いつか日本に帰れるって事だよねぇ♡」
「・・!
まあ・・そうだな。
向こう側の空間の歪みさえ見つかれば、大丈夫だ」
「うふふ・・理太郎君♡」
颯太の好きな人は・・日本に居るからなあ。
「「「・・・・」」」
颯太は、日本に住む一択みたいだけど・・他の皆はな。
颯太も皆が大好きだけど、ソレでもソレよりも・・って奴だ。
俺は───颯太と共に居たい。
・・だけど、日本には未練なんて欠片も無い。
コチラには・・未練しか無い。
男尊女卑さえ除けば・・国も、人も、ドレも、何もかも愛おしい。
「颯太・・幹太・・」
「まあ、今すぐの話じゃないわい」
父さんや源太ちゃんも、だな。
二人は・・俺よか日本に友達が居るけど、どちらかといえば( 特に源太ちゃんは圧倒的に )コチラだろう。
それだけの仲間が、二人に出来た。
「ワタクシは、どんな形であれ・・御姉様の御側がワタクシの居場所ですわ」
「オレもッス!」
ザレは、ナンダカンダで日本で過ごしたし・・ジキアも旅慣れていて、何処でも過ごせるしな。
「よーしっ!
【空の口】退治、ガンバるぞぉー!」
「・・おうっ!」
皆もちょい、しんみりとしていたけど・・まずは【空の口】。
その前に王族。
その前にこの【青い銀星王国首都】だ。
皆で、頷きかえす。
◆◆◆
「騎士団詰所は第二の壁、金持ち区に有るのぉ~」
「金持ち区?
貴族区じゃなくて?」
「騎士が、貴族の子供たちで構成されているとはいえ・・厳密に言うと騎士は貴族では無いから───よぉ~」
このリャター夫人の発言に、ガロスが渋い顔。
「ふん、悪習・・だな。
貴族の子が魔法使いで無かろうと、貴族の子は貴族だ」
「あ・・デロスの・・」
ガロスの弟、デロスは優秀な魔法使いを輩出する大貴族家で唯一・・魔法使いとしては、産まれなかった。
結果、デロスは騎士団入り。
ソコで心が歪み腐り、悪意を糧とする『街破級【ファフニール】』に取り込まれたのだ。
「ガロス殿、確か法律上は・・」
「法律と、貴族の選民意識は別・・という事だ」
父さんの疑問に、ガロスが応える。
法律上は、騎士団も際下級とは言え・・貴族のハズなんだけどな。
俺は・・チラリと、ディッポ団長を見る。
気づかれないよう見たつもりだけど・・。
「俺の親父も爺さんもそのまた爺さんも、騎士だったゼ」
「あー・・ハイ」
「御姉チャン如きが盗み見するなんて百年早ェぞ」
「ハーイ」
ディッポ団長も、元貴族。
貴族達の、この考え方の、一番の被害者とも言える。
平民になった母親に、虐待紛いの魔法使い教育を受けたそうだからな。
◆◆◆
「見えてきたわねぇ~。
あの一際巨大な建築物が、騎士団詰所よぉ~」
「ココまでは普通に来れたわね。
こんな異常集団が」
「そうだなあ。
【銀星王国首都】の人間はトラックだとか、まだ見た事無いはずなんだけど・・多少珍しい物って感じ」
「トラックっていうより・・ねえ?」
トラック・バス・キャンピングカーは、1~2列に並んで行進。
秋原家は、【銀星王国首都】のメイン通り・・一番広い通りでも通れない。
実世界の入口に、置いて行く話も出たんだが───流石に敵地の真ん前に、我が家を置いて行く気にはなれず・・ちょい秋原家の足を改造した。
「改悪っぽいんだけど」
「失礼な」
足を構成する土を増やし、組み替え・・足の量を3分の1にした代わりに、足の長さを3倍にして家や門を跨いでいる。
「三種族の誰かが、カマドウマ・バージョンとか言ってたわよ」
『マ○リエル・バージョン』
「失礼な」
トラックは「多少、珍しい」って感じの反応をする都民が・・我が家には、見惚れていたが。
「茫然自失っていうのよ」
「失礼な」
てな話をしていたら・・騎士団詰所に到着。
人の気配は無い。
「化物が来たから逃げた・・訳じゃ無ェよな?」
「ディッポ団長?」
「あらあら。
騎士団は、例え街破級が相手でも立ち向かうわよぉ~」
「リャター夫人?」
広い運動場があったので、秋原家を着陸させる。
「家も着陸って言うのね・・。
で?
リャターさん、ココってこんな無人なのかしら?」
「い、いいえ~。
もう少し人が居るわぁ~・・」
「アッチの建築物の方・・にゃあ、気配が有ンなぁ・・」
確かに気配───
・・しかも、殺気を感じる。




