361『メアリー・セレスト号。』
巨人が門を破壊する。
破片をシッカリ掴み、端に置き、新たに門を破壊する。
「そして、あの巨人を操っているのが我等だ」
「ひいぃっ・・巨人に、歩く家!?
お、オレは美味くねえぞ!?
く・・食うならコイツ等から先に・・」
「だ・・旦那様!?」
「父様・・!?」
───醜いなあ。
確かに、恐怖で我を忘れるように巨人を仕向けた。
だけど効果覿面すぎる。
・・覿面すぎた。
胸糞ワルい。
「ならば、女子供は貰いうける」
「へっ、へへへ・・す、好きしろ化け物共があっ!?」
「旦那さ───ああ・・どうか、子供だけは・・!」
「どうか母さまだけは・・!」
壁を壊すのを一旦やめ、母親と息子を『ゆっくり』『優しく』持ち上げて、秋原家の庭に。
勝手知ったるが如く、物流回復の旅で会得した女性達の保護、説得。
良き所で、栄養失調気味の体が求める香りの『料理』をタイミングよく出す。
「あ───有難う御座います・・!
息子の分まで・・!」
殺されると思っていた恐怖から解放され・・ソレどころか、生まれて初めて『女』である自分を気遣った言葉に───彼女は、涙を流していた。
しかも生まれて初めての『美味なる料理』。
息子の分まで。
「・・ふん、あの母息子に免じて許してあげるわ。
初めての魔法だしね。
疲れてないかしら?」
「あ───有難う御座います・・!」
・・そして俺も。
殺されると思っていた恐怖から解放され・・ソレどころか、生まれて初めて『失敗』した自分を気遣った言葉に───俺は、涙を流していた。
「う・・生まれて初めてじゃあ無いでしょう、 」
「有難や有難や・・」
「いい加減にしなさい」
「はーい」
我を忘れた感謝の祈祷に、彩佳のチョッピングライトで目を覚ます。
『フリッカーは使えない?』
「縁起でも無い事を言うな」
未だ巨人の恐怖に囚われているのか、呆気気味の母子。
彼女等を優しく諭す。
「えーっと、ビビらせて済みません。
我々は斯斯然然・・」
「う、噂には聞いた事が・・!」
聞けば、親子三人とも洗脳を免れたものの・・村人は全滅。
訳も分からず、逃げる旦那の後を付いていったらしい。
やがて辿り着いた村は、以前俺達が救った村。
暫くはソコで世話になっていたものの・・男尊女卑を否定するやり方に旦那が我慢できず、【銀星王国首都】へと避難してきたそうだ。
しかし俺達がちょうど魔物の群を殲滅させたあたりで・・門が閉じ、彼女達はタッチの差で【銀星王国首都】の中へと入れなくなった───
・・といった事を、行商人の洗脳を【三巫女】で解く間に説明してくれた。
「どうされますか?
【銀星王国首都】は、魔王【空の口】の本拠地。
我々としてはオススメ致しませんがソレでも・・と、仰るなら共に【銀星王国首都】内部に入りましょう」
「そ、ソレは・・。
幼い息子も居ますし・・」
「でしたら、二通りの策が有ります。
一つは・・こうこう、このルートは比較的安全なので再び避難する事です」
えやっ! ・・と、土魔法でパッと見はプレハブ小屋みたいなのを作る。
2DKで6畳の洋室が二部屋、6・5畳のキッチンに、風呂・トイレ・倉庫つき。
「こう見えて、この首都を囲む壁より強度は強いです。
コレと同じ物を、この道に点在させて有りますので」
「は・・はあ・・」
「もう一つの策は、我々の後続物流隊がもうすぐ着きますのでココで待つ事です。
後続が着くまで閉じ籠もる事を考えたら、かなり狭いですけ───」
「フリッカー!」
「あウチっ!?」
「狭くないから」
「は、はい」
彩佳がまたもや謎の不機嫌になる。
きっと『三者を超えし者』がフリッカーの話なんかしたせい。
きっとそう。
が、話が進まないので作業。
彼女は安全になるまでココに避難する事を選んだので、倉庫に食糧、貯水槽に水を運ぶ。
ちなみに旦那はとっくに捕獲、【人茸化】済み。
事前に住んでいた村にて【人茸】も【人茸】の旦那を持つ妻達も見てきた。
ビビらせた。
何より・・自分だけでなく我が子まで囮にした。
───受け入れてくれた。
善き哉。
◆◆◆
【銀星王国首都】内部に侵入。
静かだ。
「ディッポ団長達を救出しに行った時は、もうちょい人の気配とかしてたんですけど・・」
後続隊に交ざる予定の【銀星王国首都】傭兵ギルドに所属していた傭兵団達、完全洗脳者。
自失しつつも、元の生活を再現していた弱洗脳者。
洗脳されず、大事な人や【空の口】の声を忘れた人。
「完全洗脳者のほぼ全ては、【人土村】を攻めて来たから居ない。
洗脳されなかった人は、逃げ出したか・・絶望から自失していったか。
・・けど、自失した人はなあ」
都民全員が餓えた・・にしては早い気がするし。
「家ン中にも、居る気配は無ェな」
「スンッ・・。
ソレ以外の人は残ってますわ」
「ココはメイン通りだから、ココに人が居ないなら、首都全体に居ないかもしれんぞ」
「王族が、戦い前に避難させた・・ってのは無いッスよね」
「無いでしょうねぇ~」
「ココからは貴族街だが・・ココにも、人の気配は無いな。
済まないが、我の家に寄ってくれるか」
という訳でガロス宅へ。
やはり無人。
【銀星王国首都】で、今回の事を探っていたガロスの部下の気配も無い。
本当に突然、居なくなったようだ。




