357『前話とのギャップ。』
進む。
進む。
【銀星王国】目掛け、俺達は進む。
「───おえっ!?
ぜ、前方から・・男の、酷い体臭がしますわ!」
突然、ザレが吐き気を堪えるように踞る。
【巫女化】を成し遂げ、【人狼の巫女】として覚醒からは、普段から嗅覚等が鋭くなったらしい。
「【人土の巫女】。
ザレ様が感じとられた匂いの元はこの先の高台、道の両脇を数十人で待ち構えているようです」
ザレ付きの女性【人狼】が、フォローを入れてくれた。
最近はだいぶ慣れたとはいえ・・未だ男嫌いであるザレが、ずっと体を洗っていない男の体臭を嗅ぎとったらしい。
ウチの一団は魔法使いが沢山いる。
汚水から超純水を容易く作れる俺達は基本、毎日のように風呂に入っている。
けど・・こんな洗脳世界で、魔法使いではない余人には───風呂に入る余裕は無いだろう。
そんな男の体臭。
・・まあ、キツいよな。
「ビタ、悪いけどザレ達に何か香草を頼む。
たぶん、この後も数人分欲しいかな」
「お任せなのです!」
全然深刻な症状じゃあないけど、ザレを御付きの女性【人狼】達に任せる。
「ディッポ団長、イーストさん、盗賊でしょうか?」
「だろうな。
アッチは高台だし・・遠くからコッチを確認したンだろうさ」
「救助を要請する民ならば、隠れたりせず助けを乞うだろう。
如何に( 走る家だの )怪しい一団とはいえ・・一か八かを警戒しているウチに、助かるチャンスを逃す訳にはいかんからな」
なるほど。
ひょっとしたら───
ひょっとしたら、怪我や病で自力で生き延びる事が出来ないのかもしれない。
ひょっとしたら、幼い子供が居るのかもしれない。
ひょっとしたら、誰かに強要されているのかもしれない。
・・・・。
───知ったことか。
「助けを乞うてきたなら、別にトラック一杯分の食糧を上げたって良いんですけどねえ」
「まァなア・・」
彼等に、大事な家族が居るかもしれない。
だから?
そんなん、俺にだって居る。
彼等が、俺達の命より自分達の食糧を選んだ時点で・・彼等の命より俺達の食糧だ。
「ピヒタ、【人花】達に号令。
有効範囲に入ったら、俺の合図で賊共を蔦かなんかで縛ってくれ」
「はい」
「【人土】の皆さんは遠距離魔法で狙撃して下さい。
適当で良いです」
「分かりました」
「【人狼】には、【人土】達の魔法攻撃が終わると同時に突撃して欲しい」
「心得た」
「傭兵の皆さんには・・」
「誰に教えようとしてやがる」
「っ痛!」
ディッポ団長からの、じゃれ合いデコピン。
今からするのは、『対、魔物』ではなく───『対、人間』。
三種族には御勉強だけど、傭兵団・・つか、人間には御得意な相手だ。
「まあね。
日本に居た時、殺意はともかく・・猛烈な悪意には晒され続けてきたものね」
「あー・・あのデモ隊とか、マス塵とかな」
大多数の日本人は、魔物( 彼等にとって、魔物とは『街破級』の事。)と、唯一対抗できる俺達を・・魔物以上の脅威とみなし、或いは魔物を連れてきたと決めつけてきた。
俺達・・秋原家や彩佳に【人土】、協力してくれた自衛隊や良識のあるマスコミが、酷い悪意に晒されたのだ。
「まあ、他人を信用せんヤカラを信用してやる道理なんぞ無いわな」
「源太ちゃん」
「幹太、儂は【人狼】の " ふぉろ~ " に入るぞ。
出来るだけ手出しはせんがの」
「うん。
お願い」
「源太ちゃんさん、御武運を」
「うむ、仁一郎君」
「【人土の巫女】。
【人花】の、有効範囲に入りました」
「感情レーダーは・・真っ黒け、と。
よーし、作戦開始!」
◆◆◆
「御姉様、申し訳有りませんでした」
「ううん。
もうちょい問題あった方が、張り合いが有ったって皆が言うぐらいだから」
「まーねー・・ザレが休んでる5.6分で、全部カタが着いちゃったものね」
40数人居たうちの3人は、喋れるらしいので2人は傭兵団が、1人はリャター夫人が連れていきました。
後身の役にたてるそうですが・・はてさて。
「騎士団───
宗教・・異端審問・・・・拷問」
「こ・・コッチの騎士団は貴族に付く組織で、宗教とは関係無いから」
「関係無いから、関係無いとは・・限らないわよね」
「・・恐いこと言うなよ」
リャター夫人、怒ると恐いからなあ。
静かぁに静かぁに怒りを溜めて、一瞬だけ爆発させるタイプ。
「と、とにかく・・。
次は俺が先制攻撃で、敵を身構えさせてから襲撃さすとか・・もうちょい訓練足りうる戦闘がしたいなあ」
「【銀星王国】を、攻め滅ぼすンじゃねェからな?」
「分かってますよぉ♡」
今度の敵は人間だけど、鏖殺する必要は無い。
───立ち塞がらなければね。




