330『性癖知られんのぁ、命( たま )握られんのと一緒じゃあっ!?』
「何もシテイマセン。
魔法使いの目にかけて真実でゴザイマス」
「・・じゃあ、『三者を超えし者』が居たのはドコかしら?」
「・・・・・・・・俺の部屋・・ぎゃあっ!?」
秋原家を出て【人土村】の中程。
今、俺の頭上にアローバード。
胴体に数匹のクワガタ。
足下にソニックラビットが纏わり付いている。
彩佳の命令で、俺を一斉攻撃。
人体の痛点とは斯くも多いのか。
「彩佳姉ちゃーん・・ホントに幹太姉ちゃんは何もやって無いよぅ」
「アタシはねえ、危機感が足りないって言ってんの!
幾ら、和解したからって・・寝室に、嘗て敵対したのが居るのよっ!?」
「ソレは・・真偽善悪の目からも───」
「幹太って天然に隠されてるけど・・本来、ジキアよかエロいのよっ!?
コロッとヤラれて殺られるかもしれないでしょっ!?」
あの・・一応、ココ【人土村】の盟主を名乗らさせて貰っていますので、その往来で「 盟主エロい 」とか止めてもらえませんか?
もらえませんか。
クワガタとかに噛みつかれる身体の痛みより、心が痛いです。
・・あ、向こうのビルの陰からディッポファミリー傭兵団が歩いてくる。
ジキアは・・顔が赤い。
「 ジキアはエロ 」辺りが、聞こえてますやん。
「よう、御早うさン。
朝っぱらから元気だなア、御姉チャン等はよ」
「だって・・聞いてよっ!?
斯々然々───」
「・・アヤカ御姉チャンの言い分は正しいがよォ。
( 御姉チャンがエロいの含め。)
御姉チャン達は寝てる間も防壁魔法を張ってンだろ?
なら、誰が御姉チャンを殺れンだよ」
「むー・・」
ディッポ団長が彩佳をなだめ、やっと彩佳の怒りが消沈してくる。
頼りになるなあ。
( 途中、アリエナイ幻聴が聞こえたけど。)
「ジキア、みんな無事だったとは聞いているけど・・大丈夫だったか?
リラキアさん達は?」
「あの、グルグル回る魔法は最初ビビったッスけど、お陰様でみんな大丈夫ッス」
「そっか、良かった」
『三者を超えし者』が代表格達の前で『王族その他』の事を話す、というので集合場所に決まったのは山柄さんのビル。
ソコへ向かう途中。
以前ビタが作った巨大アスレチックツリーハウスにて、【人花】のオッサン達が「 キャッキャッ♡ ウフフ♡ 」と遊んでいた。
ビタの様子を伺うと、姉と共に合コン会場に行ったとの事。
やや遠回りになるけど、通り道と言えば通り道。
ついでに拾う。
合コン会場で俺を発見したピヒタが、開口一番聞いてくる。
「【人土の巫女】、朝御飯は・・?」
「ん?
家で食ってきたけど?」
・・白目で絶望するピヒタ。
【人花の巫女】はビタでも、【人花の長】はピヒタなんだからしっかりしろ。
「ピヒタ姉様が、会場にまだカンタお姉さんの御飯が残っているかも・・と、連れてこられたのです」
「いや、時間経ちすぎだろ・・」
『ヴォイド騒動』で、料理・食材の後片付けなんかは後回しにされた。
カピカピだろうし、ヴォイドを探すために使用した大小自動追尾魔法の小石も落ちてたかもしれん。
項垂れるピヒタをビタが支える。
小声で、
「【人土の巫女】は同性愛者なのよね・・妾で良いから、私も入り込めないかしら?」
・・と、ビタに相談しているのが聞こえたけど聞こえ無い。
今の俺は難聴系主人公なので。
───つか、幼児になんつう相談してんだ。
「・・ハア。
今日、『三者を超えし者』の会議が終わった後に合コンの続きをやる予定だ。
その時は、御飯も作るよ・・」
「【空の口】を倒すべく集まりし三種族の会議に、【人花の長】として出席できる栄誉を誇りに思いますわ!
ですから早く行きましょう!」
「「「・・・・・・」」」
先代の【人花の巫女】である姉や長老を里ごと失い、生き残った【人花】の民を連れてココまで旅をしてきたり・・長として優秀では有るんだよな。
良い補佐さえ居れば、何も問題無いけど・・今んトコ、一番の補佐が【巫女】たるビタだしなあ・・。
俺はそそそ・・と、ディッポファミリー傭兵団のアナナゴさんとウーニさんの元へ。
「旦那、良い娘が居やすぜ!」
「オマエはドコのキャッチであるか・・」
「いや・・マジな話、【三種族の巫女】としての立場から言うと・・戦争の分かる人が、彼女の隣に居てくれたら助かるんですよね」
「ぬぅ・・」
【空の口】と戦う宿命である以上、出来るだけ命を守る手段は増やしてあげたい。
「ディッポファミリー傭兵団姉妹提携グループ傭兵団としても、【人花】がバックに付くって美味い御話のプレゼンです!」
「なるほど、ウチとしちゃあ問題無ェぜ?」
「団長っ!?」
「聞いたぞ、テメェ等。
めかし込んで行った合コンで、結局ウジウジと飯だけ食ってるウチに『ヴォイド騒動』に成ったってなア?」
「うぐ・・」
「ビタはどう思う?」
山柄さんのビルへと走り去ったピヒタに、置いてきぼりにされたビタに相談。
「私は二人が善い人と知ってるので、良いのです。
ピヒタ姉様は【人花の里】に居た頃も、長老が持ってきたお見合い話を蹴って怒られていたのですよ」
「そっか」
相手方家族の了承は得られた。
「アナナゴさんの趣味は、仕事の出来そうな背の高い長身美人系。
ウーニさんは壁の花っぽい、奥手系ですけど」
「───っ!?」
「な、ななな、何を・・」
「合コン会場全体を見渡せる位置で調理係をやってた俺は───行こうとしては止め、行こうとしては止め・・そのあげくに、狙ってた女性が他の男性とくっつく御二人のサマを見つづけたんですよ?
そのぐらいの好みは見抜けます」
「ぐぉお・・っ!?」
「ぐぉお、じゃ無ェよ。
・・情けねェ」
男尊女卑の、この世界。
強引に行かないその姿勢は美徳でありつつ・・ねえ?
「ピヒタは、御二人の性癖とは反れますが───」
「性癖言うなっ!?」
「良い話だと思いますよぉー?
俺達もサポートしますよぉーー?」
「あ、悪魔の囁き・・」
ピヒタ自身は色気より食い気。
正直、男の趣味は自分でもよく分かんないハズ。
なら今のウチに、良縁ブッ込んどこう。
・・てな頃に、山柄さんのビルに着いた。




