328『様々な視点⑦・とある転生者視点。』
「ココで・・そう。
薬草に、使った相手を癒したいという想いを込めつつ混ぜるのよ」
「わあ~・・ソラお姉ちゃん、スゴい!
オクスリの完成だね!」
「どの草を、どう処理するか・・御先祖様たち1000年の、研鑽の積み重ねなの」
「エライねぇ」
「ええ・・とても偉大だわ」
私達は森の民。
遥なる昔から森の中に住み、森の恵を受ける者達。
森に存在する、有りとあらゆる木草実花石水獣虫薬毒を研究してきた。
「ソラ」
「族長?」
「また森の外の民が、森の外周の木々を伐り倒しているようだ」
「そう・・確かに、森はダレの物でも無いし私達が咎める権利は無い。
・・でも森に敬意を払わない連中には、吐き気がするわね」
「うむ、全くだ。
まだ、ココまで来るほどでは無いが・・いずれいつかの話だろう」
◆◆◆
森の外の人間に、私達の存在がバレた。
妹とその友達が、探検ゴッコで森の入口近くに行った時・・怪我をした森の外の子供を発見したらしい。
妹達は親切心で、その子供の怪我を私の薬で癒したそうだけど・・。
「ど・・どうする!?
奴等、森狩りを始めたぞ!?」
「目的はソラの薬らしい」
その子供の怪我は放っておけば、ほぼ確実に化膿し・・死んでいたはずの怪我だったようだ。
消毒の概念すら無いらしい、森の外の人間からすれば・・蘇生薬にすら見えたのかもしれない。
「確かにソラは、我等一番の薬師だが・・森の外では、そもそもマトモな薬が無いらしい。
早晩、こうゆう事になっただろう」
「ひぐっ・・うぐっ・・!
ご、ゴメンなさあいいい・・!!」
「全く・・だから森の外には近づくな、森の外の人間には近づくなと、クチを酸っぱくして言い続けたんだ!」
「うわぁぁん・・!」
「今、子供たちを叱っている暇は無いわ・・森の外の民をどうするかの対策しないと」
「・・そうだな」
森の民が集まり会議する。
この森を捨て、別の森へ行こうという者。
森の外周に毒をまき、コレ以上は中に侵入出来ないようにしようという者。
「森が変われば、薬毒の理が変わる。
御先祖様1000年の研鑽も無駄になる。
毒を撒くのも然り。
森が苦しめば、森が変わる」
「なら、どうすれば・・」
良策がでず、消沈する森の民達・・。
「・・ある程度、受けいれるべきなのかもしれないわ」
「ソラ?」
「『ココ』から離れた『森の入口近く』・・外の人間がギリギリ通える場所に、薬の工場を作るわ。
外の人間にとっては、ソコが『森の民の本拠地』になるのよ」
「し・・しかし、そんな危険な事・・!」
「そうだ!
森の外の人間の狂暴性は、狂った獣以上なんだぞ!?」
「皆は心配しないで。
私が妹に、外の恐ろしさを伝えず薬を持たせたせいだもの。
・・私が、『本拠地』を作り、住む」
「・・・・!」
思えば・・民一番の薬師などと呼ばれ、図にのっていたのかもしれない。
妹には色々教えたつもりだったけど・・そういった事は、疎かになっていたのかも。
コレからはもっと家族第一になろう。
◆◆◆
外の人間は、私達を森の妖精だとか呼ぶが・・妖しい精は、欲にまみれたアナタ達だろうと何時も思う。
ただ私達は森の奥に住み、森の恵みを余す事なく受け取っているだけ。
たまに外の人間が私達が森の恵みから作る薬を求めてやってくる。
薬を求める間はペコペコする癖に、手に入れた途端に唾を吐くような者たち。
そんなある日、森の外から・・鎧を着た連中がやって来て───
◆◆◆
森の外の人間が、我がもの顔で・・森を焼く。
私と妹以外の民は、鎧を着た連中に殺された。
奴らのクチからは、「 神 」「 信仰 」とかいう音しか出てこない。
そうゆう、鳴き声なのだろう。
凶暴な怪駄物だ。
・・妹が全身スリ傷だらけで、泣いている。
許さない。
許さない。
許さない。
・・絶対に・・ゆルサナ・・イっ!!
「ど・・どうするの?
ソラお姉ちゃああん・・!?」
「・・禁断の薬を使う」
妹の傷口に、薬を塗りつつ・・別の薬を取り出す。
「き、きんだん・・?
そのオクスリを使うと助かるの?」
「・・・・・・。
・・ええ。
助かる、助けるわ・・!」
『使う事なかれ』の注意書きとともに、御先祖様が残した薬。
・・この薬を作った人は、私と似た人だったのだろう。
私も・・好奇心に負け、禁薬を研究・改良───いや、改悪してしまった。
・・ソレでも、この薬を捨てられずにいた。
あえて名付けるなら・・『青の薬』。
薬自体が青い訳ではない。
一見、無色透明な・・ただの水。
───しかし、この薬を服用すると・・景色が『青く』見える。
景色が青く見えている間は、絶大なチカラが身に宿る。
代償とともに。
御先祖様の薬は、もって四半日で効果が消える。
だけど私の改悪した薬は、おそらく───
「さあ、貴女はこの洞窟の奥に進みなさい」
「やだっ!?
私もお姉ちゃん・・と・・一緒に・・・───
うん・・分か・・った」
虚な瞳の妹がチカラ無く答える。
ゴメンなさいね。
傷薬と一緒に催眠剤を塗りこんだから、貴女は私の命令に従うしか無いの・・。
きっと私は、愛する家族と共に行く魂の大樹へは行けない。
罪人達の枝葉へと行くでしょう。
「私は、奴等が神の敵と呼ぶ悪魔になる。
───魔王となって、奴等を皆殺しにしてやるっ!!」




