325『くう・でたー。』
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ざ・・ザレ?」
「ザレ嬢チャン・・?
【人狼】ども・・?
・・・・っ!
皆、下がれ!
嬢チャンの友達もだ・・っ!?」
ディッポは、その場に居た理性ある人間を下がらせた。
仲間だ、義姉妹だ、は、関係ない。
下がらせなければならない。
一斉に咆哮を始めたアレは、そうゆうモノだ。
ディッポの勘は、そう告げていた。
「御姉チャンがよう・・故郷で【巫女化】?とか言うのをヤったって聞いてるか?」
「い、いちおー・・」
皆が一歩ずつ、ゆっくりゆっくり下がる。
ザレの義姉妹達は渋るモノの・・彼女達とて一線級の戦士達。
偉大な先達の、本気の玉の汗を見ては引き下がざるを得ない。
「つ、つまり、アレは【人狼】の【巫女化】だと?」
「分から無ェよ。
御姉チャン本人ですら、未だ【巫女化】の本質を分かってねえンだからな」
「・・だが、ソレでも下がるべきだと」
話に聞く秋原幹太の【巫女化】。
ソレによると、【巫女化】とは理性を失うそうだ。
その失い具合は、『あの』妹狂いが妹を喰おうとした程だという。
その話を聞いた、姉を知る者はみな青ざめた。
「友達とか関係無ェ。
アレはザレ嬢チャンじゃなく、【人狼の巫女】っつう、別の生き物だと思いな」
「別の生き物・・」
皆はゆっくり下がる。
【人狼】達を挟み反対側に居たザリーですら、自分の知らぬ【人狼】の様子に怯んでいるように見える。
やがて、【人狼】以外の皆が在る程度の距離を取った所で・・【人狼】達の咆哮が、ピタリと止まる。
「ざ・・ザレが、【人狼】達が狼に・・!」
【狼化】などとは言うが、ソレは只の前段階に過ぎなかったようだ。
その姿は、【人】型の【狼】ではなく───
【狼】そのもの。
いや、【狼】というには禍禍すぎた。
普通の【狼】より一回りは大きいし、爪が大きすぎる。
クチも大きく、牙がよく見える。
とあるオタク少女なら、
「 大口真神っ!?
でも、メジャーに行くならフェンリルよねっ!
実際には氷属性なんて必要ないんだし─── 」などなど、
語ってくれる事だろう。
「グルル・・」
『きっ、ききき貴様ら等ら・・何だその姿は・・!?
姿はあアぁアア・・っ!?』
・・答えは、無い。
クチを聞ける者達は誰も知らないし、分からない。
本人達のクチは、人の言葉を発するに的さないモノであり───
本人達の理性は、人のソレとは思えなかった。
「グルル・・」
『ぉ・・あ・・!?
オああァあアア・・っ!?
う───
『ヴォイド』よっ!?
来いっ、ここコこ来いぃイイっ!!?』
絶望。
ザリーの表情を名付けるとすれば、その名以外に有り得まい。
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
「ゴアアアアアアアアァァ・・ッ!」
幾十もの【狼】の姿をした絶望。
その内の一匹・・灰狼の群れの中から、赤毛の【狼】が前に出る。
『くっ、来るな・・っ!?
『ヴォイド』よ、来いっっ!?
来るな来い来るな来い来るな来い来るな来い来るな来い来るな来い来るな来い来るな来い来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来来───・・っ』
「グォアアアッ!」
赤毛の【狼】がザリーへと牙を立てる。
肉を食い千切る。
ザリーの中身が露出する。
ザリーの悲鳴が聞こえる。
赤毛の【狼】が一吼えする。
群の【狼】がザリーに牙を立てる。
ザリーの悲鳴が聞こえる。
群の【狼】がザリーの四肢を美味しそうに食い千切る。
ザリーの悲鳴が聞こえる。
群の【狼】がザリーの中身を食い漁る。
ザリーの悲鳴は・・暫く前から聞こえなくなっていた。
◆◆◆
「ウボァー」
「わあっ!?
彩佳、大丈夫かッ!?」
彩佳が、突然どっかの皇帝みたいな感じで吐いた。
ソレまで「 大口真神 」とか「 氷属性 」とか、クワガタを通じてザレ達の様子を見ながらブツブツ言っていたんだけどなあ・・?
「えっ・・えほっ・・・ほっ。
───・・ハァ。
・・あー、アタシってグロ耐性ある方だと思ってたんだけどね・・」
「な、何を見たんだ・・!?
ザレは大丈夫なのかっ!?」
彩佳の目が若干ウツロで、怖いけど・・彩佳がこんなん成るって、どんなんっ!?
「あー・・『今』大丈夫になったわ。
ザレは『ザレ』よ。
───・・安心なさい」




