319『「「父さん大好きっ♡」」の言葉と共に『挟まれる』仁一郎を見て、年若い男達は「チチはチチに───」など、訳の分からない事を呟きます。』
「んぐうっ・・立派じゃぞ、ザレちゃんっ!?」
「【巫女】になる事を決意した瞬間の、あの魔力パスが繋がり繋がってゆく感覚・・くすぐったいのよねえ」
「そうだなあ・・」
無線機から流れてくるザレと【人狼】達の音声を聞きつつ。
ビタと【人花】は以前からの関係を崩さず、家族・友人のままだけど───
【人土】と【人茸】は巻き込まれる形で【巫女】となったからなあ。
自らの意思で同種族への保護意識を育むというか・・。
・・アレは中々、気恥ずかしい。
「でもまあ、ザレがソレを選んだんだ。
俺達は全力でフォローするだけさ」
「そうだねぇ」
「うむ」
俺達、戦闘組は戦闘で。
父さん達、情報組は情報戦で。
「しかし、【人狼】同士とは言え・・無条件で魔力パスが繋がる訳では無いのだな」
ザレとザリーの間で魔力パスが繋がっていない事の疑問を父さんが述べると・・【人土】の一人、俺達の旅に着いてきた人が悲しげに言う。
「ソレについては以前、ザレさんには心無い事を言ってしまいました・・」
「えっと・・?」
「【巫女】に否定な『三種族』など居ない・・みたいな事を軽々しく、言ってしまったのです」
「ああ、そういや・・」
ザレが───
自分を【人狼】達が受け入れるか。
そして、自分が【人狼】達を受け入れられるか。
この事を悩んでいた時の台詞だ。
「俺も似た経験が在ったんだから、その時に思いだせれば良かったんだよなあ」
今でこそ、【人土】の総代表は山柄さんだけど───
俺が【人土の巫女】になった当初は、【土の核】という【人土】の魔力を保管する石を神と崇める三人のジジイが総代表だった。
【人土】達が【土の核】や自分達より、【巫女】を崇めだした事が気にくわなかったコイツ等は・・山柄さん達に嫌がらせをし出した。
当然、コイツ等と俺に『魔力パス』が繋がる筈も無い。
ザレとザリーの関係は、俺と三ジジイの関係に似ている。
この事を、もっと早くザレに言ってあげられていれば・・いや、『たられば』か。
今する事じゃない。
「パスを繋ごうとしてくれる人とだけ、コチラからも繋げば良いんだ」
「ええっ!
ソレこそ『三種族』と【巫女】の在り方かと」
「( 幹太・・キモいって理由で田坂からのパスを蹴ってる事、完璧に忘れてるわよね )」
「( んぅー・・ソレは言わない御約束なんじゃないかなぁ? )」
◆◆◆
「ソレで・・幹太は何をやっているんだ?」
魔力の流れから、俺が何らかの魔法を使っているのに気づいた父さんが尋ねる。
「さっき電波障害の話が出た時、思い出したんだよ。
電波障害の元を探査する、広域時空震探査魔法ってのを以前作ってたって」
「元々、無線機魔法はその魔法の流用だとか言ってたわね?」
「ああ」
俺の魔力を電波に乗せる魔法だ。
「ソレでザリーの操る『ヴォイド』の位置を探査するんかのう?」
「ザリーの『ヴォイド』は、奴が【狼化】してからは、常に体の表面で薄く纏っているみたいだから」
「僕の魔力吸収パンチみたいなモノかなぁ、幹太姉ちゃん?」
「用途としてはな」
『吸収』と『消滅』の違いはあるけど。
「だから俺が今、探査すべきはザリーの『ヴォイド』の元───
王族の『ヴォイド』を探している」
「・・・・っ!?」
場の人達の、目の色が変わる。
最も危険にして・・最も確実に現状を打破出来る手段。
「───見つけた」
「幹太・・ソレは」
「・・ゴメン、父さん。
王族の策に陰りが出た今、今こそが
『最高のタイミングで最大の一撃を食らわす』チャンスなんだ」
「仁一郎君・・」
「父さん・・」
父さんは悩む───そぶりを一瞬だけ見せ、薄く笑う。
今まで、何度も俺達家族を救ってきた時の笑顔。
「あの約束をした時からこうなる事は分かっていた。
今回の分の小言はさっき言った。
・・やれ、幹太。
ソレが一番確実なら、ソレが一番安全なのだろう?」
「安全・・かは、まあ」
「アンタねえ・・こんな時ぐらい、オジさんを安心させてあげなさいよ」
「で・・でも、大丈夫!
みんなが、ついてるから!」
「・・ああ。
家族を信じている!」
嬉しくてつい三人で、父さんを抱き潰しかけたけど・・父さんの許しも得た。
後は作戦実行のみ。




