318『えこひいきの一族。』
『民を率いる立場で在りながら!
自らの民に『三種族』の存在を伝えず、『三種族』を襲わせようと戦場に送りこんだ愚か者!』
「あ・・っ?」
「こ・・コレはっ!?」
避難場所にて今か今かと出番を待っていた【人狼】達は、ザレの力強い言葉に反応しだす。
『答えなさい、愚かな元・【人狼じんろう】の長!』
「言葉・・?
いや、心だ・・!」
無線機から流れるモノの、流れつく先は【人狼】達の耳・・ではなく、魂。
【人狼】の一人が呟く。
「オレは・・何処かで【人土】を下に見ていた。
・・強さで、では無い。
数百年【巫女】を持たなかった種族など、実質『三種族』の新参に過ぎない───と」
【人狼】も【人土】も、その一人の声が響く。
多かれ少なかれ【人狼】の共通意識であり・・薄々ながら【人土】共通の劣等感であったからだ。
「しかし・・現実はどうだ?
【人土】が、【人土の巫女】が、こんなにも・・眩しい」
無線機の向こう側。
自分達の【巫女】を想い彼は涙する。
「今なら分かる。
オレ達は日陰に居たのだと。
【人土】や【人花】の『当たり前』を、知らなかったのだと・・」
「・・うむ」
「そうだな」
「何が言いたいんだい?」
【人土】の、総代表である老女が【人狼】達を見据えて問う。
自分達を格下に見たと言ったあげく、眩しいと言う。
「・・・・」
だが、【人狼】は答えない。
〔アレはもはや、敵ですら無いモノ・・ただの目障りな存在・・。
───殺しますっ!〕
「───・・。
そうだ。
アレは、『彼女』の敵では無い」
「アレは・・『我等』の敵」
「我等の敵」
「敵・・!」
「───殺さなければ・・!」
気づいた。
気づいてしまった。
【人狼】達は気づいてしまったのだ。
自分に【巫女】は居た。
・・居た『だけ』だった。
彼女は・・ザリーの娘、ザラクスの妹だった彼女は・・自分達を見ていなかった。
【人土】や【人花】だけが持っていた、自らの【巫女】との『心の繋がり』。
『ソレ』を自分達は持って居なかった。
「【人狼】は貴方と決別する!
未熟でも・・ワタクシが【巫女】だからっ!!」
「委細承知しました、我等が【巫女】よっ!!」
「───え?」
居ても立っても要られなくなった【人狼】達は気づけば制止する【人土】を振り切り、自らの【巫女】の下へ参じる。
「じ・・【人狼】の───皆さん・・っ!?
・・あっ・・こ、コレは───!?」
人間だと思っていた。
大好きな人達と同じ存在だと思っていた。
しかし、違った。
・・でも。
自分の大好きな人達は、何時も通りに自分を受け入れてくれた。
なら自分も受け入れよう。
例え事情が在ろうと、自分を棄てた父母には恨みがある。
・・ソレでも。
先ずは、大好きな人達を守る為に動く人達を守ろう、と、ザレは決意する。
己の権力の為に、自らの民を他種族へと戦争をけしかけた愚か者から守ろうと決意する。
決意し・・その対象を眼前にした途端に繋がる、心と心。
「ワタクシと、皆さんが・・繋がってゆく・・!」
「コレが───
【人土の巫女】が『魔力パス』と呼んでいた『心の繋がり』か・・。
・・眩しいな」
「だが、今やは我等の光」
「うむ」
【人狼】達が・・ザリーと、ザレや女学園生徒に傭兵達の間に立ち塞がる。
誇り高い顔で。
「皆さんは下がって準備を!
ココは我等が引き受けます!」
「は・・はいっ!」
「任せたゼ!」
離れてゆく【巫女】と【巫女】の仲間。
だが、その姿が見えなくなっても関係は無い。
・・心は繋がったままなのだから。
『・・き?
・・・・っ!
貴いいィ様様ままままァ等ああっ!?
主の顔を忘れレたのののかァっ!??』
「我等が『主』を偽称するモノを排除する」
「我等が『主』・・【巫女】が、目障りと呼んだモノを排除する」
『く・・糞共ももがががァっ!?
我にに敵敵敵うと思っているのか!!』
「今ならば、勝てるぞ!」
ザリー達の一族は・・かつては、ソレなりに【人狼】の民を大事に思っていたのだろう。
だが・・結局。
ザリーは【人狼】を裏切り。
ザラクスは【人狼】の里を棄て。
ザリアはその愛情を家族にしか向けなかった。
【人狼】の、その民と、【巫女】は繋がっていなかった。
しかし、今は違う。
【人土】や【人花】達のように、【巫女】と繋がった今ならば。
【巫女】を守る事で真のチカラを発揮出来る今ならば。




