314『茸人間の国の、お姫様。』
限りなく怪しい『ヴォイド』の使い手。
「取敢ず、【人狼】の元長ザリーに会いに行こうっ!」
「う、うむっ!」
こんな穴蔵に閉じ籠っていてもコレ以上、ココじゃ議論しても情報は入らず進展しないだろうしな。
「───だ、駄目だっ!」
「と、父さん!?」
「外が危険なのには変わり無いっ!
しかも容疑者に近づくという事は、『ヴォイド』に近づくという事だっ!
より危険じゃ無いか!?」
そ・・ソリャそうだけど・・。
「ココからでも、ディッポさん達に連絡はつくっ!
傭兵さん達に任せよう・・!」
「オジさん・・」
俺の魔法から、一瞬で魔力を消滅させた『ヴォイド』。
日本に蔓延していた『異世界物質』とは危険度の桁が違う。
ディッポ団長達と違い『ヴォイド』に俺が直接触れれば、あの時の源太ちゃんのようにヒビ割れるかも知れない。
ヒビ割れて───その先は・・?
「・・確かに、父さんの言う通りだよ」
「幹太・・!」
「だけど・・ディッポファミリー傭兵団やウェスト傭兵団にだけ、危険な目には・・!」
「幹太と彼等とじゃあ、危険度が違う!」
でも───
「牢屋の方に、監視カメラは設置していないんですか!?」
「ろ、牢屋はコチラに転移してから作られたシステムですので・・個人のホームビデオカメラを応用した───【人土村】から独立していて・・その」
「・・・・っ」
「せめて合コン会場の絵が出れば・・」
合コン会場に使った広場は、普段誰も使わない空地だった。
監視カメラ網のスキマ地帯で、広場の端っこが映るのみ。
あっ、今クジャラさんが一瞬うつった。
もう直ぐ朝。
一晩戦ったディッポ団長達と交代するのかもしれん。
「幹太・・せめて眠れ。
昨日は合コンの調理で、働きっぱなし魔力の放出しっぱなしだろう」
「そんなの───」
「幹太・・オジさんの言う通りよ」
「幹太姉ちゃん、僕も眠たいよぅ」
「幹太よ、手強い敵で在ればこそ万全で挑むべきじゃ」
・・皆も、父さんに同調する。
「・・分かったよ」
「そう、か。
・・有難う、幹太」
「有難う、父さん」
以前、俺の体内の【スライム細胞】を無理矢理増やした時の約束だ。
俺は家族や仲間や恩人を助けられるなら、躊躇いなく危険を犯す。
父さんはその度、クチ煩く言う。
家族の為に。
◆◆◆
───私は森の民。
森の外の人間が、我がもの顔で・・森を焼く。
私と妹以外の民は、鎧を着た連中に殺された。
奴らのクチからは、「 神 」「 信仰 」とかいう音しか出てこない。
そうゆう、鳴き声なのだろう。
凶暴な怪駄物だ。
・・妹が全身スリ傷だらけで、泣いている。
許さない。
許さない。
許さない。
・・絶対に・・ゆルサナ・・イっ!!
──────
────
──
◆◆◆
昼。
あまり寝付けなかったけど・・最期の方で一瞬、寝たっぽいな。
なんか、訳分からん悪夢を見た。
・・まあ、状況が状況だ。
追い詰められてりゃ悪夢も見るか。
「チャー?」
「カンタお姉さん、目覚めたのですか?」
「モスマン、ビタ、御早う」
「御早う御座います」
合コンに興味の無かったビタとモスマンは昨日、合コンが始まる頃には寝ていた。
ビタ達は目覚めたらこの倉庫で、軽くパニクったらしいけど・・一緒に避難してきたピヒタ達【人花】に事情を聞き、俺達の目覚めまで見守ってくれていたらしい。
「んぅ・・?
ふぁああ・・幹太姉ちゃん、オハヨー」
「颯太、オハヨー」
隣で寝ていた颯太、やや離れた位置で寝ていた彩佳と源太ちゃんも起きてきた。
「父さん、御早う。
・・寝てないの?」
「御早う。
私には、直接戦うチカラが無いからな」
父さんに感謝している人は沢山居るのに・・。
「状況だが・・あまり変わらん。
傭兵の皆さんは、有利にも不利にも成っていない」
「彼等と、御互い連絡は取ってはいるのですが───御互いパニックで、正直・・」
「『囚人』の誰かが『ヴォイドの使い手』で在ろう、とまでは共通認識が有るのですが」
「いっそ・・囚人を皆殺しに───
・・そういう案すら、有ります」
正直、今の状態だとソレでも何一つ問題は無い。
ザリー以外は。
【人狼】の現長達が俺に近づいてくる。
「【人土の巫女】。
我等、【人狼】はそなた等の決断に文句は言わん」
「・・はい」
ザリーの生殺与奪は俺達に一任って事だな。
つまり・・あと数時間、夕方に【人土村】へと来るザレを待つか否か。
「分かりました。
ザレを待───」
「ザレさん達、女学園からのトラック帰還っ!!」
うぉっ!?
なんちゅうタイミングだ。
おもわずこのシリアスな場面で
「 ズコォーーッ 」ってやるトコだったよ。
「カメラと無線機、広場の入口に繋げて───って・・。
何やってんの、あの娘」
震え、ヨタつくザレ。
目の焦点も合ってない。
「た、たぶんザリーの話を聞いたんじゃ・・」
「・・・・・・」
わあ、彩佳が怒ってらっしゃる。
皆も何かを察して彩佳から離れ───
「何をやってんの、ザレっ!!
シャッキリしなさいっ!!!」
途端に彩佳にから「 わさっ! 」っと生える茸の菌糸。
集まる『クワガタ』『アローバード』『ソニックラビット』。
この分だと、たぶん【人茸】も。
怖すぎます。




