310『「どうせ今も、馬鹿げた魔法を作ってンだろ」』
「まったく・・なンつう光景だ、こりゃ」
「ふん。
彼女を見つけた君が言うかね、ディッポ」
ディッポファミリー傭兵団の団長、ディッポは眼前の光景に呆れていた。
無数の小石が乱舞する、その空間。
だというのに───
その空間では・・矢や投石、ディッポは使わないが銃弾が真っ直ぐ飛ぶ。
・・無風。
この小石群は、竜巻などで飛ばされているのでは無い。
( 仮に竜巻であっても有り得ない魔力だが )
・・『一つ一つ』が『個別の』魔法によって浮いているのだ。
呆れるなという方が無理である。
「見つけたくて見つけた訳じゃ無ェよ・・ウェストの。
こんな、俺から平穏な生活を奪うのを生き甲斐にしてるとしか思えねェ馬鹿小娘どもを、よ」
その、馬鹿小娘曰く
「 取敢ずテキトーに、『浮かぶ』『進む』『パスを繋いだ相手からは逸れる』って魔法を詰め込んで・・後はなんか・・纏めて『えいっ』て 」
などと、軽く言うのだ。
横でコツを聞いていた少年が、半泣きになっていた。
呆れるしかない。
「相変わらずクチたけは悪い。
・・その性根に比べてな。
昔と比べ、ずいぶん楽しそうだが?」
「はン」
ディッポとウェストは軽く笑う。
・・が、現状は芳しくない。
『ヴォイド』と呼ばれる謎の『空間』に、有効な対策を未だ打てていないのだ。
先程まで、とある一点のみを目掛けて動いていた『ヴォイド』。
だがこの小石の嵐の中・・傭兵団や三種族達の妨害にあい、今は空中にただ浮んでいる。
「カンタが去った方角ばかりを気にしているな・・。
合コン? 会場に現れた、という事からもカンタを狙っているのでしょう」
「ありゃあ、イキナリ訳分かンねえ事を、その場の思いつきで実行するからなァ・・。
事前情報でアレに罠を仕掛けンのはめんどいゼ?」
「つまりあの『ヴォイド』は自動罠では無く、術者自らが今現在操作している物───敵は常にカンタの情報を得られる者・・村内の人間という事か」
「我らもそうですが・・【人土村】は新参者だらけですから」
確かに、何時でも【人土村】へは余所者は混ざりやすい。
しかしイーストの意見にディッポは頭を横に振る。
「御姉チャンの言う『感情れぇだぁ』とか言う魔法を、【人土】等も何人か会得しているらしいゼ?」
「主の敵を見逃さぬ為・・か」
ソレはつまり、この村で人知れず悪意を抱くのは不可能に近いという事なのである。
「ソレはつまり───」
と、ココで作戦本部の指令を受けた【人土】が、自分達の退散を傭兵団に伝える。
ディッポ達の考えた通り、『ヴォイド』は『対、魔法使い』『対、カンタ』用の術である。
よって『チート組』と、時点で狙われる『魔法使い』『三種族( 三種族で魔法使いは【人土】だけだが用心の為 )』を隔離する事が決定したのだ。
「皆さんだけに任すのは心苦しいですが・・」
「まあコレが傭兵の仕事だからなア。
気にすンな」
「魔法使いでは無い我らは『ヴォイド』にソコまで警戒しなくて良いのなら、尚更な」
【人土】達の避難を助ける為『ヴォイド』に攻撃。
『何も無い空間』なので、攻撃の実感は無いが・・その動きは一瞬止まる。
やがて辺りは各傭兵団だけとなる。
「『ヴォイド』に攻撃を与えたら、一瞬動きが止まるのは・・効いているのでしょうか?」
「いや・・アレはダメージでは無くビックリしているだけだろう」
「・・・・。
・・どォも素人クセェな?」
作戦本部とやらから逐一、敵に対する考察は来ている。
『異世界物質』『ヴォイド』『王族』
あの動きが術者の技量なのだとしたら、余りにお粗末な技量だ。
ディッポ歴戦の勘が、敵の正体を朧に見抜く。
「・・確かにな。
初めて剣を握って構える子供がダブって見える」
「ガロスからは、術者は7人の王族っつう話だったが───
別の奴が『ヴォイド』を使ってンのか?」
・・何となくアタリを着けるディッポ。
『コイツ』は王族と違う、と。
「ヴォイドの術者は新参じゃ無ェ。
ずっと御姉チャンの動きを確認出来た村の人間。
【巫女】の敵である『悪意』を振り撒いているのに、ソレでも村に居続ける奴」




