293『トゥーハンドクロー。』
───私は森の民。
外の人間は、私達を森の妖精だとか呼ぶが・・妖しい精は、欲にまみれたアナタ達だろうと何時も思う。
ただ私達は森の奥に住み、森の恵みを余す事なく受け取っているだけ。
たまに外の人間が私達が森の恵みから作る薬を求めてやってくる。
薬を求める間はペコペコする癖に、手に入れた途端に唾を吐くような者たち。
そんなある日、森の外から・・鎧を着た連中がやって来て───
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◆◆◆
「うああっ・・あがああ・・っ!!」
「ぉおお・・ぉああ・・っ!!」
「ふぁっ!?」
何っ!?
なんなんっ!?
ガロスにプロポーズされた次の日の朝、獣のような咆哮で目ぇ覚めた。
俺は恐怖に身がすくんで動けない。
何か、変な夢を見てた気がするけど・・一気に吹き飛んだ。
「・・んぅー?
ジキアさんとザレさんー?」
「あっ?
ああ・・そういや、二人の声だな」
同じ布団で寝ていた颯太も、この声で目覚めて状況判断をする。
「何やってんだ、あの二人・・?」
魔物が襲ってきてヤられた・・なんて訳ないしな。
別の意味で嫌な予感しかしないんで、ゆっくりパジャマを着替えてから部屋を出て居間へ。
「あ、アヤカさん、ギブっ!
ギブギブッス!」
「あ? ギブ?
何かくれんの?」
「アヤカっ、ゴメンなさいいっ!」
彩佳が女海賊みたいな形相で、ジキアとザレの顔面にアイアンクローを食らわせていた。
・・とくに深い意味は無いが───
居間に行く前にトイレを済ませておいて良かった・・。
「よう、お早うさン」
「お・・お早うございます、ディッポ団長。
な・・なんですか、アレ?」
「昨日のガロス様の事らしいゼ」
「ああ・・」
昨日、ガロスが俺と彩佳にプロポーズしてきた時・・二人は最後まで固まったままだった。
実際、俺達も似たようなモンだったから気持ちは分からんでもないけど・・もうちょい動いて欲しかった、かな。
「彩佳、流石にもう許してやれよ」
「ふぅー・・。
───ったく」
「・・痛たた。
全く、照れ隠しでこんな・・ハイ、ゴメンなさいですわ」
ザレにぼやかれ、彩佳の顔が紅くなる。
俺と颯太が( 源太ちゃんも )女体化し、再構成されたように・・彩佳も【人茸】になって再構成された結果、この見た目で0歳児の肉体なんだよな。
赤ちゃんの体だから自分に利する者には、すぐ懐く───
けど、魂は16歳のままだから・・懐く=そういう感情になってしまうのだ。
今、彩佳はガロスを意識せざるを得ない状態で・・若干のNTRを感じさせるけど、俺自身がこの『呪い』を経験済みだからなあ。
「はあ・・。
確かに『呪い』って言うぐらい鬱陶しいわね、コレ・・」
「初めての感覚はどうだ?」
「・・『初めて』じゃないわよ。
『初めて』は───直して・・」
「んあ?」
「・・・・。
・・死ねっ!」
何故か俺もアイアンクローを食らう。
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ。
・・暫くして朝食が出来た合図で、やっと解放される。
なんなん?
・・初めてじゃない・・?
彩佳が初めて【人茸】になった後に会った、善い男・・??
・・・・父さん???
◆◆◆
「まさか貴族と一緒に食事するとは思ってなくて・・緊張してたら、突然の『あの』台詞で頭が真っ白に───
確かにアヤカさんの言う通りッス。
動けなかった自分が情けないッス!」
「ガロス本人には兎も角・・乙女として、言われてみたい台詞に気を取られた感は在りますわ」
「カッコ良かったのです」
朝食。
ジキアとザレの反省会。
ビタは・・ヒトゥデさんの話では【人花】の能力もガロスは欲していたようだけど、流石に5歳児にプロポーズするのは躊躇っていたっぽい・・との事。
事案だよな。
( 40歳が16歳に手ぇ出すのも・・事案か? )
「まあ以前に、御姉チャンが危惧していた事態っちゃあ事態だな」
「何でしたっけ?」
「オメェ等姉妹が『黒い川騒動』を解決したせいで、アスェベタ家に目ェつけられた時だよ」
「ああ・・」
あの時は『アスェベタ家』とは分かってなくて『謎の権力者』に目をつけられた、と思っていたっけ。
権力者に目をつけられる、という事は自由を奪われるという事。
「そんで逃げるように受けた傭兵の仕事が、リャター夫人が出した女学園の仕事なんだよな」
「そうでしたわねえ」
その後の【ファフニール】騒動でガロスの弟であるザーロスさんとも出会ったけど・・ザーロスさんは俺達のチカラを持て余したようで、「 目の届く範囲でなら好き勝手にやってくれ 」と、放置された。
・・まあ、その挙げ句に世界征服するとか言いだしたんだからザーロスさんには迷惑かけただろうけど。
( もしそーゆー感じになってたら、フォローはしましたよ? )
ガロスは・・いろんな面倒も、デロスの事の恨みと共に呑み込む、と言っている訳だ。
その根性は感服す───
・・あー、ダメだ。
ガロスに対してホンの僅かでも感心したり、好意的に考えると顔が紅くなってまうぅ。
「け、結婚うんぬんは兎も角・・様々な国の内情に詳しい人が身内になるのは助かるけど・・」
「「身内っ!?」」
「だから結婚うんぬんじゃ無いっつうの。
な・か・ま!」
ジキアとザレが素早く反応するけど・・その反応速度は昨日のお昼に見せて欲しかったぜよ・・。
「確かになァ。
本気で世界征服するっつうなら、欲しい人材では有らァな」
「団長までッスか!?」
「人材として、だ。
オタつくんじゃ無ェよ」
・・『痛し痒し』ってこういう時に言うのかなあ。
◆◆◆
朝食後。
昨日は魔力切れから2日ぶりに目覚めた後、あんな事になり・・悶絶して終わった。
なので、自分で地震対策をした土地をまだちゃんと見ていない。
「なんで、今日は取敢ず土地を見───」
「「「御早う御座います、カンタ様」」」
「───・・んあ?」
───家を出た途端に見えたのは・・老若男女の頭、頭、頭。
俺達に反感を持っていたはずのジート砦の民達が平伏する姿だった。




