291『様々な視点・if編・④』
「・・鍵?」
飛んできた部品はさっき俺が切り落とした扉の鍵だったっぽい。
「なんでこんな物・・。
逃がさないぞっていうアピールか?」
「全く・・しつこい女は嫌われるよ」
「巫女さん、大丈夫ですかっ!?」
みんなにも、怪我は無いみたいだな。
「彩佳、幽霊は大丈夫か?」
「ええ。
目の前に出なきゃ・・たぶん、ね」
「・・ソレにしても今、完全に当たったかと思ったんだがね。
何かに跳ね返ったっぽいけど。
秋原さん、何かしたのかい?」
「なっ!?
ななな、何かってナニさっ!?」
「( バカ・・ )」
防壁魔法その物は無色透明、その上無味無臭だしっ!?
魔法使い以外に、分かる訳が無い・・んだけど、坂ノ上さんは妙に鋭いトコが有るからなあ・・!?
「・・いや。
先程その鍵を蹴り斬った技から、秋原さんも何やら武術やっているのかな・・とね」
「ああ・・そういう事か。
はい、私も秋原流甲冑柔術を習っています」
嘘は言ってない。
秋原甲冑柔術に、魔法も蹴りも無いけど。
と、ソコで『ガチャガチャっ!』という音。
先生が玄関扉をチカラ任せに、押し引きしている。
「み・・みんな、玄関扉が開かないっ!」
「ええっ!?
オジさ・・先生、どういう事っ!?」
「さっき、勝手に鍵が掛かって・・!
ソレからピクリとも動かないんだ!?」
と、同時に、全ての電気が消えて辺りが真っ暗になる。
「ホラー物の定番だね・・」
軽クチを叩く坂ノ上さん。
・・だけど、極わずか。
───カタカタと、震えている。
「・・・・・・。
・・はあ。
彩佳もビビらせてくれたしなあ・・」
「あ、秋原・・さん?」
ちょっとだけ意識していた『女っぽい仕草』も止め、雰囲気の変わったら俺に・・坂ノ上さんが警戒色を見せる。
「坂ノ上さん、ホラー物の定番だとこの後は何が起こるんですか?」
「や、闇に紛れて一人ずつ殺されたり・・かな。
今の鍵みたいなポルターガイストだったり・・睨まれただけで心臓マヒを起こしたり・・」
「面倒くさい手ぇばっか使うって訳かあ・・。
あー・・面倒くせぇぇぇ・・」
どっちかと言えば脳筋なんだよな。
「・・巫女さん?」
「考え無しに『小だしに』魔法を使ったから問題なら・・『徹底的に』やりゃあ良いんだ」
「・・巫女?
───はあ。
もう、ソレで良いのね?」
「ソレで良いっ!」
坂ノ上さんの目の前で千以上の火球を産み出す。
「こ・・コレは・・っ!?」
「大小自動追尾魔法!
イルミネーション・バージョンっ!」
小火球を全ての廊下に張り巡らせる。
窓には、陽炎魔法。
光が外へ漏れ出ないようしたから、電気が消えたようにしか見えないだろう。
「───あきっ、あ、秋原さん!?
『コレ』は、君が・・っ!?」
「坂ノ上さん、こっからはホラーじゃ無い。
『魔法少女もの』だよ」
「・・・・・・っ!??」
何か、火球に外部干渉を感じる。
動かそうとしたり、消そうとしたり。
無駄だ、ソレはポルターガイスト如きじゃ動かんよ。
「何だっけ?
強力な電磁波で電気回路をショートさせる訳じゃ無し、苦慮しているな」
「EMP攻撃が出来るんだったら、こんなまどろっこしい手段なんて取らないわよ。
一時的な停電でしょ?」
「そ・・そうだね。
幽霊が去ったら再び電気が付いたりするからショートは無い───
って、コレ何さっ!?
秋原さんっ!?
海野さんも!?」
「うーん『アレ』は練習中だし・・。
巫女姉ちゃん、【ファフニール】退治の時にやった魔力付与武器を作ってよ」
「錬金術師っ!?
秋原さんっ!?
海野さん!?
颯子さん!?」
「巫女さん・・美しい・・♡」
「佐竹君───は、放っておいて。
・・先生?
先生も落ち着いておられますよね?」
「ああ・・こう為っては仕方が無い。
おそらく坂ノ上一人が、騒いだ所で我々の事はバレまい。
【巫女】様もそう御考えなのだろう」
「せ、先生?」
「我々は【空の口】と呼ばれる魔物達のボスを倒す事を目的とした一族だ」
「ソレって───」
「馬鹿なマスコミは、さも【巫女】様を悪し者と言うが・・あの方こそ、我等が主にして───
怪獣、【アジ・タハーカ】を倒せし人界の守護者だ」
「あ・・秋原さんが・・!?」
◆◆◆
玄関のすぐ近くに有る保健室から、包帯を拝借し魔力付与。
バンデージっぽく颯太の手に巻く。
「颯子の身体強化魔法で包めば、千切れたりはしないけど・・幽霊を殴れる・・のか?」
「取敢ずヤれるだけヤってみるね、巫女姉ちゃん」
「ああ、有難う。
ついでに防爆衣魔法、絶縁体つきバージョンを全員に付与っと」
「絶縁体?」
「ショートはともかく、電気系統を操ったり心臓マヒを起こさせたり・・ひょとしたらポルターガイストも電気的なアレかもしれん。
ゴムや空気以上だから、落雷の直撃も平気なハズだ」
「ハズって・・まあ良いけど」
彩佳・佐竹君・先生・坂ノ上さんを1カ所にまとめ、イルミネーション代わりの火球に魔力を送る。
「全力・大小自動追尾魔法!」
「わあっ!?
あ、秋原さん・・流石にコレは火事になるよっ!?」
「大丈夫。
範囲内は全て防爆衣魔法付与してある」
たかが、学校ひとつ分だ。
問題ない。
コレでこの焼却炉の中、炎に包まれるのは───
『ううっ・・うああ・・っ!』
───『奴』だけだ。
「あの幽霊・・。
この高校の昔の制服だな」
「髪一本燃えてない・・けど、熱がってる。
・・効いているわ!」
『・・・・・・。
・・なんでぇ・・?
私はただ、私を捨てた先輩が許せないだけ・・私から先輩を奪った親友が許せないだけぇ・・!』
「だから俺達を害そうって?」
『分からないぃ・・ソレまで微睡んだ意識が・・貴女から出てるチカラが・・私を目覚めさせたぁ・・!』
【空の口】退治の予行演習になる、という佐竹君の言葉にヒョイヒョイ乗っかった俺も悪いけど・・。
ココに来るまで散々、旧美術準備室に入ると祟られる・・とか、佐竹君に言われてた。
けどソレは、過去に自殺者が出た部屋を茶化した完全なるデマっぽいな。
話を聞けば、魔法使いになった俺が学校に来さえしなかったら彼女は大人しく寝てた・・って訳か。
『そのチカラが有れば・・先輩と親友をぉ・・───』
「狙いは・・俺だけじゃなく、魔力持ち全員( 颯太・彩佳・【人土】二人 )か。
悪いのはコッチだし、大人しく寝てくれるなら見逃したけど・・」
颯太が魔力付与包帯で殴る。
すり抜けた・・けど、炎と同じで苦しんでいる。
生前の記憶か?
颯太の作ってくれた隙に・・行く!
「ゴメンな」
魔力に反応するなら魔力吸収も効くはず。
吸える限界まで吸うと、彼女は更に透けてゆき───形が崩れてゆく。
・・微睡みの中へ戻ったらしい。
◆◆◆
「いやあ・・貴重な体験をしたよ」
「坂ノ上さん、ココで見た事は・・」
「言わないし、言っても誰も信じないさ」
ニヤリ、と、笑う坂ノ上さん。
後ろには「古舘○知郎みたいに成りたい?」と、大量のクワガタに集られている佐竹君。
ゲームになった、あのホラー映画の事かな。
「クラスにも、君を悪し様に言う連中が居るからね。
彼等を説得するつもりでは有るけどね───秋原幹太くん」
「うぇっ!?」
カマカケじゃ無い・・完全に真実として言っている。
「クラス委員長だしね。
君と海野さんの態度で、怪しいとは思ったんだ。
魔法だ異世界だのの話を聞くまでは・・半信半疑だったけど」
「有難う、坂ノ上さん」
今度はニヤリ、ではなく・・可愛らしく微笑む。
「幽霊から・・怪獣から守ってくれて有難う、スーパーヒーローさん!」
さて・・ホントに腰から下が無くなりそうな佐竹君から彩佳を引き剥がす。
魔物の襲来が、また有るかもしれない。
マスコミや政治家も、不穏な動きをしている。
───その準備をしなきゃな。
本来、かなりギャグ寄りの話になるはずでした。




