29『言ってみりゃ隠しボスを先に倒してたようなモノ。』
【コカトリス】との戦闘、決着、全て出したかったのでこの小説の中ではかなり長めの話です。
「ちゃんとオレ等を守れよなッ!」
「ギルド館では試験官をしてやるぜ、みたいな事言ってなかったか・・?」
「お、おう、オレ等を守りきったら合格にしてやるぜ?
『村破級』を殺せる力を見せてみろ!」
【コカトリス】も黒キノコも魔力が無いので魔力探査に依らない人海戦術・・人手がいる。
──でもなあ・・。
下種傭兵が俺の周りに集まり、コッチをチラチラ見てくる。
たまに「 あっ!? 」などと言うんで、見つけたのかと慌てて振り向くと、「 うへへ♡ 」とコッチを見てる。
「・・???」
胸を見てる?
この非常時に?
ディッポファミリー傭兵団の皆もチラチラ見てきた。
元男として、気持ちは分からんでもない。
・・だけど仕事中は流石に無い。
こんな、悪意まみれに見てこない。
転移前には、一緒に居たい人と・・どうでもいい人間しか周りに居なかった。
嫌な人間というのは殆ど会ったことが無い。
だからだろうか・・。
俺の中に今まで無かった感情がある。
コレは──
・・って時に【コカトリス】が見つかった。
◆◆◆
俺の周りをフラフラ歩く下種傭兵共を、『黒い川』により自分の元に来た村人だと勘違いして近づいてきたっぽい。
『黒い川』はドコ?
茸を生やしてないのに何故来る?
とか、疑問はないのかね。
鳥頭って言葉があるけど魔物が全部喋ったり賢かったりって訳でもないのか。
油断しているからか、アレだけの『黒い川』を作った後だからか、『石化ブレス』は吐かない。
「ついに大ボスの登場か・・くっ!」
「連戦の上、魔力をかなり吸われちゃったしね・・幹太姉ちゃん一人の魔力で勝てるのかな・・?」
「小出しにしても意味無いの。
カンタには一撃で勝てるだけの魔法を撃ってもらいたいが・・出来るかの?」
まだ【アルラウネ】を倒すぐらいの魔力は十分残っているけど・・・【コカトリス】を倒せる魔力はどの程度か・・!?
「・・分かりました、やってみます」
「取敢ず、儂等が牽制するから魔力を練り上げてくれるかの?」
「牽制・・そうだ、久し振りに石蹴りでやろう!」
・・と颯太が言う。
俺達がコッチに来て最初の攻撃は砲丸サイズの石を蹴り飛ばしていたが、ソレを知らない皆が「 ? 」となっている。
颯太が3m程の岩んトコへ行く。
・・ソレ、石か?
「せえぇぇぇのおっっ!!」
『──ドゴオオォォォォンッ──』
「「「───あ」」」
【コカトリス】が慌てて避けるも、物理攻撃が効かない筈の『菌糸編み込み羽毛』を掠めただけで打ち潰した。
・・どんだけ長い前フリ?
考えてみりゃゲームじゃないんだ。
黒幕の敵が最強とは限らないよな。
今まで戦ってきた『村破級』最弱だった。
( ブレスがあったら分かんなかったけどね。)
受ける筈の無いダメージに【コカトリス】が、息も絶え絶えになる。
「ははっ・・ウチの妹は強いだろ?」
俺は約束通り、【コカトリス】へ最後の止めをさす。
皆の呆気が喝采にかわった。
◆◆◆
「ヒッ・・ヒヒヒ・・・!
ば、化物共め・・!
テメエ等だけで殺し合ってろ!!」
「・・【アルラウネ】の薬草・・コレさえあれば貴族が・・いや王族すら金を出すぜっ!」
「そうすりゃあ後は王族に保護してもら──」
「ふぅーん、そういうこと」
「「「 えっ? 」」」
散々物理は効かないと脅してきた皆と、物理が効かないのに物理で倒した颯太。
呆気からの絶賛で、皆が颯太に意識が向いている隙に荷物係に預けた【アルラウネ】の薬草入りリュック・・が、無くなっていた。
( 俺も絶賛したいのに。)
「俺が魔力を見えるの、忘れてんのか?」
青い顔をし、たじろぐ奴等へ向けて小さな炎を作る・・が、炎の小ささを見て一人が表情を変える。
「・・へっ!
み、見ろあの小さな炎・・!
ここまでの連戦で魔力が尽きたんだぜ!?」
「・・はっ・・ははっ、ホントだ・・。
なら、唯のエロい乳デカ女だ・・・!
ブチ込みゃあいずれオレ等にケツを振るようになる・・!」
「ここまで散々男を虚仮にしやがって・・女は男に黙って従ってりゃあイイんだ──」
「撃つのはオマエじゃ無いさ」
『──バシャッ──』
「・・・・へっ?」
撃ったのは伝説にしか存在しない【アルラウネ】の頭の花。
炎ほど得意じゃないが、その花蜜がよく掛かるように風も操作する。
「な、なんだ?
盗まれるぐらいなら無駄しようってか?」
その花蜜を全身に浴びる下種傭兵共。
よく薬効が染み入るのを待つ。
・・うん、よく効いている。
「・・御前等、さ。
【アルラウネ】の時は金のため、
【ワーム】の時は擦りつけるため、
【スライム】の時も金のため、
俺達やギルドの仲間を落としめたな?」
確かに一番大切なのは団員( 俺なら颯太 )だけどギルド内の各傭兵団同士の横の繋がりも深い。
「裏切りは最も忌むべき罪。
御前等も落ちて然るべき、だろ?」
命掛けの仕事の成果を楽して横取る。
ディッポ団長が最も唾棄すべき連中と言っていた。
確かにな。
こんな事しか出来無い最下層傭兵なんて居なくなろうが誰も困らない。
「──言ったよな?
『一回は見逃す』、って・・・?
コレで ( もっとな気もするけど ) 二回目だ・・!」
奴等の地面下を爆発させ吹き飛ばす。
「──マイン」「マイン」「もいっちょマイン」
「ぐわっっ・・ぎゃっ・・やめっ!?」
確かに奴等の言う通り、魔力が尽きつつあり一撃では目的地に届かなかったな。
飛ばした先は・・さっき俺と颯太が落ちて魔力をタップリ吸い、ゆっくりとしか食事しなくなった【スライム】のプール。
「「「な、なん・・・!?」」」
「ほうら、エサだぞ?」
「「「・・っ痛゛ぁ゛っっ!?」」」
【アルラウネ】の薬草。
その効能はエリ草よりも高く──
『魔法使いでもなんでもない羊飼いの少年が崖から転落、即死しなかったのが不思議なくらい両手両足内臓全てがグチャグチャ』
『たまたま【アルラウネ】が巻き込まれ死んだ時、頭の花を落としたので花蜜をかけたら完治した』
──と、伝承ではあるらしい。
「す゛、ス゛ライ゛ムは・・貴゛族に売れ゛っ・・る・・!
し゛きに゛回゛収班か゛・・・来る・・そ゛うす゛り゛ゃ・・テ゛メエ゛・は・・仲間゛殺し゛・・」
「──知ってるか?
この世の【スライム】は元魔法使いだって。
スライムに補食され続けると、いずれ細胞の全てがスライムに入れ替わって御前等自身が【スライム】になるらしい。
回収班は御前等と元々の【スライム】と区別つかないさ」
だから俺達の時、肉を喰うより魔力を吸うのを優先した・・と、ヒトゥデさんが言っていた。
あくまで伝承らしいけどな。
魔力の流れを見るに──
魔法薬に精製してないんで、再生能力を得たっつっても【スライム】が完食するのに・・まあ二~三週間ぐらいかね。
「た゛っ、助け゛・・!
そ、そう゛だ・・ギルド入゛り試験、合格にし゛てやるぜ・・!?」
雇い主の敵を殺すのが傭兵の仕事・・とはいえ人を殺めるのはイヤ、っつう人も中にはいる。
『対人』もいれば『対魔物』って人もいるように。
俺もその辺はまあ・・いずれ日本に帰るつもりの日本人なんだ。
越え難い一線だな。
「【アルラウネ】の花蜜を浴びた御前なら死にはしない。
・・死ねもしないけど」
・・はあ、子供は無邪気ゆえに残酷なんて言うけどさ。
コイツ等の悪意が俺に染み入り心が腐っていく気がする。
そしてその事に抵抗が無い。
「俺、サイコパスになっちゃったのかなあ」
◆◆◆
「あっ!?
幹太姉ちゃん、ドコに行ってたの!?
せっかく皆で・・」
「すまん、颯太。
下種傭兵共に【アルラウネ】の薬草を盗まれちゃって・・とっさに追ったんだけど、疲れてたし駄目にしちゃったよ・・」
「え~?
アレで幹太姉ちゃんの腕を治そうとしてたのに~!?
よ~し、アイツ等今度見つけたら・・」
「ホッホッホッ・・。
どうせ裏切者はロクな死に方をせんモノよの。
の、カンタ?」
「いずれギルドから、死より辛い罰を与えよという依頼でもくるだろう。
な、カンタ?」
──あぁ~・・これ、ヒトゥデさんとイーストさんは薄々バレてるっぽい?
ココは日本じゃ無い。
ココの正義、ココの優しさが在る。
俺が皆の環に入ると、
「 どうした? 疲れたか? 殆ど君等の手柄だしな」
と、労ってくれる人や、
「 観念した、今まで女というだけで蔑んで済まなかった。
助けてくれて有難う!」
と、頭を下げる人達に囲まれた。
・・あ、本心の善意だ。
顔が赤くなりポ~っとなっていくのが分かる。
颯太がちょっと浮かれてんのはソレでかあ。
「・・はいっ♡」
──まあイイや。
やっぱ冒険はワクワクが良いな。
『幹太』の異常性を書きたかった今章、いかがだったでしょうか。
実力不足による表現不足で 「 はあ!? 」 という部分はあったかもしれませんが今後、幹太と颯太はこのスタンスになると思います。
申し訳ありませんが、明日は投稿を休まさせてもらい、明後日に『様々な視点』『人物紹介』『新章』を投稿したいと思います。
(今話が難産すぎたのと、今月は来月のゴールデンウィーク進行調整の為仕事の休みが少ないので。(泣))
◆◆◆
ちなみに幹太達がスライムプールに居続けた場合、烏賊され続けつつ ( 非ノクターン的表現 ) 自己再生と補食のつりあいから、人間の意志と魔力 ( 魔力は魂由来の力なので ) を持ったままのスライム人間となります。




