286『大山鳴動してジキア一人。』
「【空の口】の『肉』も『剣』も皆、女がなる・・?」
・・ずうっと知りたかった、この世界の秘密───
『男だけの魔法使い』と『男尊女卑』と『魔女』の秘密を語るガロス。
「どういう意味なんですの?」
「先程も言ったが、我も全てを知らぬ。
幾つか、英雄ヨランギの言葉を伝え聞くのみ」
「【空の口】の『肉』・・。
確か【空の口】って霊体なのよね。
なら体を乗っとって、とり憑くとか?
・・『授肉』するって事かしら」
「うーん・・?
『三者を超えし者』が、死生を超越した存在って言っていたしな・・。
『授肉する』利点って、有るのか?」
うーん・・。
「ねぇねぇ、幹太姉ちゃん?」
「ん?」
「『肉』って『お肉』なんじゃ無いの?」
「『お肉』?」
「ジキアさんも『お肉』好きだよねぇ?」
「おに・・く・・・・。
・・はい、好きッス♡」
ジキア。
今、キミが想像している『肉』は別の『肉』ではないのかね?
試しに、とつぜん上半身を張ると・・ジキアが俺の『震源地』を見る。
というか凝視する。
彩佳にシバカれている。
( 俺もシバカれた。)
「つ・・つまり、食糧としての『肉』って事か?」
「うん」
颯太は、宗教・ファンタジー用語である『授肉』とか分かんないだろうし、『肉』といえば『お肉』しか無いよなあ。
「【空の口】の『肉』は、女が成るってのは───
『女性』が【空の口】の『食糧』になる・・って事か」
「その説で言うと【空の口】は『霊体』なんだし、『お肉』つっても『魂』───『魔力』よね」
「豊富な魔力ある女性・・『女魔法使い』か」
「だから『英雄ヨランギ』は・・自分の子孫に『男しか魔法使いに成れない』魔法、あるいは呪いを掛けた・・」
『授肉』よかは、筋が通っている・・のか?
「『男尊女卑』は、その為の儀式?
『英雄ヨランギ』の魔法の効果を、2000年もの間継続させる為の・・」
「「「・・・・」」」
うどんを喜んで食べてくれた魔法使いの少年・・彼が洗脳されている間は魔力が澱んでおり、魔法使いと気づけなかった。
元気な人間と比べ、気落ちしている人間は魔力の流れが弱い。
男尊女卑により、思考力を奪われた女性は・・リャター夫人や女学園の女生徒達より魔力が弱い。
仮に女から魔法使いが産まれても・・成長し得ない、か。
「繋がって・・無くも無ェな」
「『英雄ヨランギ』のもう一つの言葉・・『女が『剣』になる』ってのは───」
『───ただいまあ、なのです!』
「・・っと、ビタ達が帰ってきたな。
ビタはスゴい頑張っていたし、美味い料理を作ってあげないと。
ガロスも昼食、食ってけよ」
「いや、我は・・」
「どうせ昼からも話し合いは有るし。
面倒だろ?」
「この後に及んで、『庶民の飯なんて食えるか』とか言うつもりも無いでしょう?」
「う・・うむ」
俺と彩佳の言葉にたじろぐガロス。
こんな世だ。
【人土村】関係者以外、もうずっと粗末な食材しかクチに出来て無いはず。
今更、庶民だ貴族だは無いだろう。
「彩佳の【人茸化・アローバード】が届いたんだ。
日本の鶏ほど毎日、玉子を産む訳じゃ無いけど玉子料理も出せるし」
「ガロス様よ、諦めるンだな。
こうなったコイツ等は空気を読まねェよ」
俺達ほど空気が読める人間も居ないというのに、ディッポ団長もオカシなこと言うなあ。
という訳で玉子料理。
コッチだと『茹で玉子』か『目玉焼き』しか見た事無いんだよ。
大商会御令嬢にして、元騎士のリャター夫人が経営する女学園の食堂ですらそうだったから、たぶん他に玉子料理は無い。
「オムレツにしよう。
フワフワのやつ」
「わーい♡」
日本に居た頃に挑戦して『ギリ、これならなんとか』というLVのフワフワは作れた。
今の俺の料理技術なら、もうちょいイケるはず。
という事で完成。
実食。
「こっ・・コレは・・っ!?」
「日本食チートがダメならせめてコレで・・」
「美味しいのです!」
「・・・・」
良かった。
取敢ず、みんな喜んでいる。
味は魔力付与で誤魔化せても、食感は料理人の腕が試されるからな。
「・・アキハラ カンタよ」
「ん?」
「『カンタ ダ アスェベタ』に成れ」
「・・・・。
・・・・んん?」
皆は一斉に吹いたり、絶句したりしている。
俺は・・一瞬、意味が分からなかった。
「無論、デロスの恨みは有る。
が・・それ以上に価値が有る。
政治的に、一人の人間的に・・女としても、な」
「え? あ・・?」




