285『秘密基地作りの王様として崇められています。』
「お早うございま~す」
もう11時すぎだけど・・。
「はい、お早うさん」
「お早うございますわ、御姉様」
「2日寝てたッスけどね」
みな、パスの変化で俺が目覚めた瞬間に分かったらしいな。
彩佳・ザレ・ジキア・モスマン・数人の【人土】達がリビングで出迎えてくれた。
ソレにしても2日か。
上がった魔力量から、もっと目覚めるのに時間が掛かると思ったけど・・回復量も上がったっぽいな。
( 100%回復した訳じゃないが。
80ちょい%ぐらい。)
「颯太に聞いたんだけど、ファミリーのみんなや【人土】のみんなは、家を建てているって?」
「ええ。
アンタが気絶直前にやった、地盤工事・・工事なのかしら?
まあとにかく、あの土地の上にジート砦の人達の仮家を建ててるのよ」
「ビタちゃんはココ最近のカンタさんの料理で上がった魔力で、ツリーハウスを建ててるッス」
「俺達に敵意を持っていた人達が、納得したのか?」
そのつもりで土地の補強はしたけど・・よくそんな気になったなあ。
「『敵意』って言っても元々───
アタシの【人茸化】を気味悪がってた人か、ガロスに心酔して同調してた人・・だしね。
ガロスがアタシ達に同調したら、アイツ等もコロッと手の平を返したわ」
「・・ん?
ガロスが・・同調?」
・・ああ。
決闘の条件が『ガロスが勝ったら、俺『は』謝罪しろ』だった。
俺以外の皆には同調したのか?
「同調・・ってか、秘密裏( 民の目の無い場所 )で謝罪まで受けたのよ」
「カンタさんにも、目覚めたら直接謝罪したいそうッス」
「俺にも?」
「・・デロスを殺した事は許せないそうですが」
愛する家族を殺したんだ。
それは仕方ない。
「コッチの事情・情報は、全部話したわよ?
魔法使いに嘘や隠し事は通用しないしね」
「ああ」
「【空の口】の事もそうだけど・・ガロス的には、アタシの【人茸】に凄く興味を持ってたわね」
「クズ男を生かしたまま焼き殺すぐらいだからなあ・・。
今のこの世の中だと、一人『糞』が混じっているだけでコミュニティ崩壊に成りうるし」
【空の口】の声を聞き、洗脳されて『自失』してゆく人達の中───【空の口】の声を聞いた事か、一番大切な人を忘れただけで『正気』を保っている人が居る。
回りの全てが自失し・・自分の言う事を聞くようになったり、自分の悪行を止めなくなると───特にソレが男尊女卑ヤロウなら、語るのも馬鹿らしい事にしか成らない。
「暖房器具にしか使い道が無い奴に、便利な使い道が出来るんだしな。
【人茸化】は、支配階級には魅了的だろうさ」
「え・・エグいッスね」
「魔法使いで無い者、俺達に敵対する者には秘密にしなきゃならんけどな」
アッチの世界に彩佳の存在がバレたら・・彩佳を確保した国が世界を支配すると言っても過言じゃあ無い。
「ふぅ、御馳走様でした───
・・っと?」
皆の話しを聞きながら【人土】の一人が作ってくれたシチューで空腹を埋めた頃、ディッポ団長からの魔力パス。
「ディッポ団長が来いってさ」
「ん」
件の土地へ。
「皆さん、御早う御座います」
「おう、来たか。
問題は無ェみてえだな」
「はい」
長屋や、ビタのツリーハウスが並んでいる。
長屋の方は、俺と颯太がディッポファミリー傭兵団に保護された後に傭兵となり、姉妹傭兵団を結成云々の時に起きた『黒い川』事件。
解決により出た大量の素材を、国中から商人やら素材回収・解体・加工業者が集まり、村の外に長屋が出来ていた。
あんな感じ。
ビタのツリーハウスは・・10件程並んでいた。
「ビタ・・格好いいじゃんっ!?」
「むふぅーっ!」
顔が紅潮し、鼻息が荒い。
一瞬疲れているのかと思ったが、ジート砦の子供達にヒーロー扱いされているので興奮していたみたいたな。
まあ全く疲れて無い訳じゃあないだろうし、後で魔力付与料理を作ってあげよう。
どのツリーハウスも、子供達が占拠している。
・・たぶんコッチ側が最初に作って、アッチ側が最後に作ったツリーハウスだろうな、というのが分かる。
順番に、造形が細かく成っていく・・というか子供心をくすぐられる作りなのだ。
ちょっと探検したい。
「ディッポ団長、この土地はどうなんですか?
正直、素人仕事なんで・・」
「良いンじゃねえか?
昨日、御姉チャンが寝てる時にも一回あの地揺れが来たンだけどよ、この土地は大して揺れなかったぜ」
「隣の土地は、地割れとかが有るの。
皆、この土地とニホン道の上にしか行かんの」
「オレ等含めてだがな。
ガッハッハッ!」
割と笑い事じゃ無いけど、笑うしか無いのかな。
「アキハラ カンタよ」
「ガロス・・さん」
「ガロスでよい。
我もカンタと呼ぶ」
「・・分かった」
複雑な表情だけど悪意は無い。
「御前の仲間とは軽く話したが・・御前を交え、もう一度今後の話しをしたい」
「分かった」
てな訳で秋原家メンバーに、良い所で切り上げて昼飯に帰るように伝えて再び秋原家へ。
◆◆◆
「デロスの事は正直、未だに恨んでいる。
しかしこんな世だ、呑み込む。
・・決闘に負けたのだから」
「負け?」
「あの魔力・・あんな物を見せられたら、魔法使いとして負けを認めざるを得ない。
手加減も酷いものだ」
俺としては同じ土俵に立ったつもりだったんだけど。
「なら、アスェベタ家当主と話しがしたい。
洗脳されているなら───」
「アスェベタ家当主は、御前の目の前に居る」
「は?」
「父は。
『ダロス ダ アスェベタ』は死んだ。
我がアスェベタ家、現当主だ」
「なっ・・?」
「一言で『自失』と言っても、程度が有る事は知っていよう。
父は・・食事すらしない程、自失していた」
「・・・・」
「我は丁度、外国に出張中でな・・。
帰るのに一週間かかってしまった」
実際、そうやって死んだ人は多い。
ディッポファミリー傭兵団や女学園の皆みたいに『正気』の人間が助けてあげられたケースの方が少ないのだ。
「・・悪い」
「かまわぬ。
ちなみに、ザーロスは生きているぞ。
食事する程度の自失状態で、だが」
あまり興味の無い風に言うガロス。
同じ兄弟なのに、デロス程には好きじゃないらしい。
ちょいムッとしつつ、まあ他所の家族だしなと敢えては言わない。
「決闘の約束は、
『男尊女卑』と
『男だけの魔法使い』と
『魔女』の秘密について・・だったな」
「あ、ああ」
「我も全てを知る訳ではない。
ただ王家と高位貴族家にのみ伝わる、最初の魔法使い『英雄ヨランギ』の言葉がある」
またヨランギか・・。
「『【空の口】の『肉』も『剣』も、みな女が成る』という物だ」




