281『あの日の国境の村で、善かれと思い、行商人母娘に教えた『ネコぐるみ』が・・巡り巡って彼女に伸し掛かり。』
弟デロスを溺愛する、兄ガロス。
そのガロスに───
デロスを殺した( 一味である )俺が呼ばれた。
「 ジート砦に来い 」という言葉と共に無線機を切られる。
「み・・【巫女】様っ!?
罠に決まっています!
ジート砦に行く必要など有りません!」
「・・・・。
ペリオラ傭兵団の副団長さんは、ガロスの為人をどう見たか聞いていますか?」
罠・・罠か。
確かに無線機越しでガロスの魔力は見えない。
真贋が分からない。
・・けどなあ。
「・・・・。
剛健にして、貴族らしからぬ質実さを持った方だった・・と」
「そう・・ですか」
罠ならなあ・・。
あの敵意は見せないだろ───
・・というのは、思考停止か。
「罠だろうと正々堂々だろうと、敵認定されたようですしね。
俺達の行動でジート砦へと行った人達の安全の為にも・・行きます」
「・・【巫女】様───」
「俺の我儘で申し訳有りませんが、皆さんにはフォローをお願いします」
「【人土】が【巫女】の御心のままに」
俺が頭を下げると、【人土】の皆は更に深く頭を下げる。
「ディッポファミリー傭兵団のみんなにも・・」
「ああ、オレ等も団長も皆も文句は言わんよ」
戦闘職では無いので秋原家に残っていたタゥコさん、ナムァコさん、クジャラさんが頷く。
「途中、国境の村に近づけますが」
「いえ、私もジート砦には興味が有ります」
国境の村商工ギルド職員さんにも聞くと、付いてくるとの事。
颯太と彩佳とザレとビタは・・まあたぶん付いてきてくれるだろう。
◆◆◆
〔───私も行きたいのだけれど・・〕
その日の晩、リャター夫人と連絡がつく。
ちなみに村の問題は滞りなく解決し、ジート砦に行く事は・・彩佳がやはり罠を心配して難色を見せたけど、納得してくれた。
「リャター夫人は『商会』『女学園』『孤児院』の経営で大変でしょう」
〔でも・・〕
「デロスは、【ファフニール】に取り込まれた瞬間に死んだんです。
俺達が殺したのは、デロスの『日記』を読んで影響を受けた『だけ』の【ファフニール】ですよ」
【デロスファフニール】は、ずっとリャター夫人を追っていた。
最後、俺達の攻撃により弱った奴は・・リャター夫人が止めを刺した。
『【ファフニール】に』刺したのだ。
『デロスに』、じゃない。
「大丈夫ですよ」
〔・・有難う〕
デロスはリャター夫人に。
リャター夫人はデロスに思う事は在ったんだろうけど、もう終った事だ。
〔ガロスは直属の騎士団を持っていなかったから、黒薔薇騎士団を持つザーロスと違って直接会った事は無いのよ・・〕
「・・そうですか」
〔デロスとザーロスは御互い不仲だった、というのは有名な話だけれど・・ガロスはねえ〕
どうも父である当主ダロスの補佐で内政にチカラを入れていて、ガロス本人は余り外に出なかったらしい。
「ガロスは、
『男しか居ない魔法使い』と
『男尊女卑』の関係を知りうる人物です。
まあ頑張りますよ」
〔・・お願いね〕
ソレからは、孤児たちが【人土村】の保育園や小学校に入っている事。
女生徒達は中学校に通いつつ、小学生にコチラの世界の常識や歴史を教えている( 手透きの人間で教養の有る人が彼女達だけだったらしい )事などを話す。
◆◆◆
ガロスと無線機越しで対談してから、更に3つの村を解放する頃、目的地のジート砦に付いた。
俺達の来訪は・・知れ渡っていたようで、周囲には沢山の人達が集まっているな。
その表情は───悲喜交交。
ガロスに救われた人、或いはガロスの噂を聞きジート砦に集まった人は『悲』もしくは、俺達に対しての『悪感情』。
俺達が救った人達は・・まあ全員が全員、俺達の事を信じている訳じゃない。
『7:3』で『喜』ってトコか。
ジート砦全体だと逆転して『4:6』の、ちょい負け。
「ガロス様の弟を殺した者」
「平民のクセに御貴族様に逆らう者」
「女のクセに男に逆らう者」
「怪しげな魔法で亭主を洗脳した者」
「違う、あの人は酷い暴力を受けていた私達を助けてくれたのよ」
「お母さん、うどん美味しいって言ってたでしょ?」
・・ちょいヤバい雰囲気だな。
暴動が起きそうな───
「───静まれ」
「「「・・・・っ!」」」
一人の男の声が響き渡ると、俺達を取り囲む人垣が割れる。
人垣の割れた部分から現れたのは、デロスやザーロスさんを若干老けさせた・・でも感じるチカラ強さは比べ物にならない男。
「我が、
『ガロス ダ アスェベタ』だ」
190cmを超える大男。
手には・・デロスをデフォルメした感じのぬいぐるみ。
───・・ええぇ?




