274『【巫女化】。』
「クワガタ達っ!
村の探査をお願いね!」
「おおっ、動きが違うなあ」
「ふふーん、でしょっ!?」
彩佳がクワガタ達に指示を出すけど、すげぇスムーズだ。
クワガタ達にも、怯えや戸惑いは無い。
「村には・・家が12件。
うち、3件クワガタが入り込むスキマが有ったけど、外を出歩く住民ふくめて全員『自失者』みたいね」
「火事、もしくは焼け跡みたいなのは?」
「無いわね。
でも・・ちょっと待って。
───っ、広場に焼死体が有ったわ!
石碑も有る・・けど、流石にクワガタ達は文字を読めないのよ」
魔力パスによる意志疎通もかなり鮮明になっている。
この村にも『ガロス ダ アスェベタ』が来た、ソレだけ分かれば充分だ。
「分かった。
ココからは何時ものメンバーで、何時ものように行こう」
「「「了解」」」
◆◆◆
「非爆発型貫通魔法っ!」
「おお?」
ジキアが俺の魔法をパクっ・・リスペクトして小石を飛ばし、村の門番の目を引く。
出会った頃は、有効距離10m程って所だったけど・・今のは100m近く飛んでなお、常人の手の骨を折る威力だった。
チートには劣るけど、そんじょそこらの魔法使いは遥かに圧倒する魔力だ。
「今ッス」
「自失した門番ってホント、出入りする瞬間の人間『だけ』しか見ないよなあ」
「一度、門をくぐれば後は騒ごうと無反応ですもの・・っと。
焼死体は彼方ですわね?」
「ええそうよ。
ザレ、今の・・匂いで?」
「そうですわ。
未だ【狼化】は出来ませんが、肉体強化の一部・・嗅覚と瞬発力の上昇を使えるように為りましたの」
「凄いじゃん!
みんな成果アリだなあ、ビタも上手くいっているとイイけど」
秋原家の防衛に残る時、自信満々だったから・・何かしらの成果は得たっぽいが。
「みんな御披露目会まで、ちょっとずつ内緒にしてたってのは・・有るわよね」
「あれ?
披露したの、俺だけ?」
「披露したって言っても、今の所は美味しい料理を披露しただけでしょ。
アンタの本当の御披露目は【巫女化】よ」
「まあ、そりゃそうだな」
『魂の集束』は兎も角───
『分身への譲渡』に次いで、『敵性魔力の吸収』も魔物が襲ってきた時に練習している。
ヤってヤれない道理は無い。
「・・あっ、自失した商人っぽいのをクワガタが見つけたわ。
旅装の準備をしている人が、この道の先に居るわよ」
「では我らはソッチに行くの。
無事に保護出来たら合図だけ送って、さっさとアキハラ家に帰るからの」
「分かりました」
ヒトゥデさん達と商工ギルド職員さんは、自失した行商人の保護へ。
俺達は焼死体のそばに有るらしい、ガロスが作ったであろう石碑の確認に行く。
「コレか。
ザレ、頼む」
「分かりましたわ、御姉様。
えー・・。
『この者、裁き無き世界に───』
やはり以前と同じ、
『コイツがクズなので、ガロスが裁く』云々ですわね」
「被害者については書いてないかな?
焼かれた家が無いのは、コイツと被害者が家族で家が同じだから・・だと思うんだけど」
「コチラには有りませんわ」
「そうか・・有難う、ザレ。
洗脳された人達を保護しているウチに、被害者用の石碑も見つかるだろ」
取敢ず村を探索。
すぐ、足が悪いのに水汲みをしている自失した女性を発見。
俺が桶を半分持つと、感情の無い目で暫く見つめられ・・歩きだす。
女性が一件の家に着き、戸を開けた途端に『何か』が女性目掛けて飛んできた。
防壁魔法で飛来物を防ぎつつ、飛んできた方を見ると───虚ろな目の男が、何かを投げた姿勢のままボソボソと呟いている。
「洗脳されて自失しても、女性に暴力をふるう男と・・その被害者女性ね」
よく見ると女性は無表情のまま、微かに震えていた。
・・ちっ。
「俺は広場を均しておくから、皆は村の女性を広場に集めてくれないか?」
「ええ、分かったわ」
「暫くしたら颯太とビタを呼ぶから───」
「ん。
ソッチも分かってるわよ」
数10分後・・ヒトゥデさん達の『行商人保護』の完了合図が鳴り、更にその数10分後に女性だけが広場に集まる。
「つまんない奴は、居ないな」
「アタシの方には、ね」
「ワタクシの方にも、ですわ」
「オレの方は、来ないッス」
「・・そうか。
そろそろ二人が───」
「幹太姉ちゃァーん!」
「お姉さァーん!」
・・っと、ちょうど良い辺りで来たな。
「秋原家に魔物は?
ヒトゥデさん達は?」
「ディッポ団長が、どっちも大丈夫だからって」
「なら安心だな。
・・二人とも、ヤれる?」
「うんっ!」
「はいっ!
私の修業成果、魔物相手に見せられなかったのです!
だからコッチで見せるのです!」
「ザレ」
「お任せ下さい、御姉様」
「彩佳、見回りを頼む」
「任せなさい」
「ジキア、俺達全員の護衛を頼む」
「了解ッス!」
俺と颯太、ザレ、ビタ・・【三種族の巫女】が村の女性達の一人を取り囲む。
「行くぞ・・っ!」
【巫女化】した青い世界の目で、女性に触れる。
女性にまとわり付く【空の口】の悪しきパスに【三種族の巫女】のパスが、ガリガリと絡みついてゆく。
「ザレっ、女性の頭らへんにもっとチカラを!
ビタっ、斬る感じより蔦で締め上げる感じで!」
「「ハイっ!」」
「颯太、魔力吸収パンチで女性のその奥の奴だけ殴るイメージだ!」
「うんっ!」
「彩佳とジキアの、助けたいって気持ちも来ている!
俺達全員を守りたいって気持ちは、ソレだけで俺達の武器になってる!」
「「了解っ!」」
ココだ・・!
「『魂の集束』!
『敵性魔力の吸収』!
そして・・ソレを俺達のチカラとして吐き出す『分身への譲渡』だあっ!」
皆は『分身』ではない。
だけど我が身より大事な『人達』。
敵から吸収したチカラを、皆のチカラに!
悪しきパスはどんどん細まり、俺達のパスはより強度を増してゆく!
「いっけええぇぇぇ・・っ!!!」
──バツ・・ンッ!!!──
・・切った・・!
【三種族の巫女】全員がかり、フルパワー。
彩佳とジキアの補助輪付き。
・・でも。
初めて【巫女化】を成功させられた気分だ・・!




