273『日本人の何人かはこの植物を手にとり、べこべこ押したがります。異世界人はそれを奇異の目で見ます。』
「・・ジぃーキぃーアぁー君♡」
「・・・・・・。
お断りさせて貰って良いッスか?」
何故だ。
ジキアの警戒心が、0%からイキナリ100%に跳ねあがったぞ?
あと、何で頼み事だとバレた?
「オレ達に転移のことを隠そうとした時と、アヤカさんに【人茸の巫女】の話を持っていった時と同じ顔ッス!
御義父様も言ってたッス!
言いにくい事を頼みに来た時の顔ッス!」
「失敬な・・別に、言いにくい事じゃあ無いぞ。
それに多分、ジキア自身の魔力増加にも役立つ」
「な・・何スか?」
「俺のピーマン料理を食ってくれ」
「絶体いやッス!?」
苦い物、特にピーマン嫌いのジキアが本気でイヤがる。
・・昔の日本の子供か。
ちなみに一言でピーマンと言っても、ウチでは二種類ある。
日本から持ってきて、【人花】が増やしてくれた普通のピーマンと・・異世界の植物だ。
一見・・セガ○ターンコントローラーみたいな形と大きさで、弦がコードと同じ場所から出ている。
色は真っ白。
それ以外は、味も食感も完全にピーマン。
中は種が詰まっていて、輪切りにしたり細切りにしたりと料理方まで同じ。
( ただ何故か、『イスカンダル』という小生意気な名前なのでピーマンと呼んでいる。)
異世界ピーマンは『旅人の主食』と言われるほど、至るところに自生しているので食卓にも出しやすいのだ。
「「ジキア君?」」
「何ッス・・か───って、アナナゴ兄さんとウーニ兄さん?
・・な、何ッスか?
顔が怖いッス」
「美少女の手作り料理を断るなんて、良い御身分なのである」
「あーあ、心の中ではオレ達を馬鹿にしているんだろうなあ?」
「し・・してないッスよ!?」
なんかワチャワチャしてきたので、事情説明。
【人土】の本質、
『魂の集束』
『敵性魔力の吸収』
『分身への譲渡』の話をする。
【人土の巫女】が【人土】の料理に魔力付与しても、「 美味い 」としか言わない。
なので他種族のジキアが、しかも嫌いなピーマンを「 美味い 」と言わせられれば『分身への譲渡』の練習になる。
・・かも、しれない。
「ソレなら普通にオレに直接、魔力譲渡して下さいッスよ!
そもそも、アレってオレだけにする約束ッス!」
「いや・・状況次第で必要だったし・・。
ジキアが拘る理由が分かんないし・・」
意識や前後の記憶が混濁する事を、心配してくれているんだろうけど。
「・・あと直接の魔力譲渡は魔物みたく、頭パーンなる可能性が有るけどイイか?」
「酷い二択ッス・・」
感動に全ジキアが泣いた!
「う、うーん・・しょうがない。
食ってくれたら、水着で一緒にお風呂に入ってやるぞ」
「「「「 !??? 」」」」
「・・分かり───モガッ!?」
鼻の穴を広げたジキアが、立候補するが如く手を上げて近づくも・・【人土】の一人に止められた。
「か、勘弁して下さい【巫女】様!
我々が仁一郎さんに殺されてしまいますよっ!?」
「やだなあ、父さんを何だと思ってんですか」
「父さん優しいよねぇ」
しかし、皆が首を横に振る。
そりゃ惜しみ無い愛情は貰っているけどさあ。
「彩佳さんも怒ると思いますが」
「よし、止めよう」
全ジキア、NO.1の大絶望。
「お、俺だって昔から料理はしているんだ。
不味くは無いはずだぞ?」
「・・・みず・・みず・・・・」
嫌いな物を食す緊張から喉が渇いたか・・済まん。
こうして、ジキアが快く俺の手作りピーマン料理を食ってくれる事となった。
◆◆◆
「・・世界が青みがかってるッス」
「えっ?
ジキアも魂のチカラに目覚めた?」
「・・死んだバアちゃんが、川の向こう岸で手を振ってるッス」
ソレ、大丈夫なやつ?
「よぉし、今度はピーマンの肉詰めを・・」
「カンタちゃん、料理修業になってる!
ピーマン料理そのものは美味くなってても、魔力譲渡? は正直、変化が無いよ!?」
「あれ?」
ジキアのみならず、ディッポファミリー傭兵団の数人や【人土】の人達にもピーマン料理を作る。
【人土】達は最初に懸念した通り、俺が魔力付与した料理は何でも至上の美味さになるようだ。
ディッポファミリー傭兵団は・・ピーマン嫌いでも無い人は普通に美味い料理として食ってくれている。
「うーん・・失敗かあ」
「いや、失敗って事は無いと思う。
魔法使いで無いオレ達も、魔力の充実を感じたよ。
最初よりどんどん上手になってるさ」
「ただな・・今までカンタのそばで見てきた身としては、物足らんと言うか・・」
「御姉チャンの最終目標は『三者を超えし者』並に、洗脳魔法を食い千切りてェンだろ?」
「はい」
庭で武器の手入れをしていたディッポ団長が、休憩がてらに来てピーマン料理を一摘まみ食う。
特に何も言わず、取り皿に自分の分を移して庭へ持っていく。
・・おおぅ、ニヤケちゃうぞ。
「成果は出てる。
コレばっかりは地味に修業しろってこった。
ジキアは貸すから、好きに使うとイイぜ」
「そんなっ!?」
「そもそも『イスカ───・・ピーマン嫌いで、傭兵や行商の旅が出来るか。
この際だ、御姉チャンにピーマン嫌いを直して貰うンだな」
「・・・・はいッス」
無表情になるジキア。
・・済まんね。
要は───
男や傭兵に恐怖するザレや、アニメに吐いたビタに対し、トラウマを癒す為に使った魔力譲渡だ。
リャター夫人は『三種族』だと効果が大きい、みたいな事を言っていたけど・・ジキアの、俺の料理を食う人の為にという想いを込めて魔力付与をする。
◆◆◆
「・・なんか、美味い気がするッス」
「そ、そうか・・!」
三日後には大分成果が実ったらしく、ジキアはピーマン料理を。
他の皆も其々が嫌いな魔力付与料理を「 美味い 」と言ってくれるようになった。
「まさか【人茸】になってすら苦手だった椎茸が、食べられるようになる日が来るとはねえ」
彩佳も機嫌がいい。
良かった良かった。
「・・でもコレ・・。
わざに幹太が料理まで作る必要、有ったのかしら。
料理は誰かに任して、その時間を幹太は魔力付与修業に当てればもっと───」
「「「・・・・・・」」」
毎食の秋原家の調理担当【人土】の人達が引きつってんのを感じる。
「【巫女】様に食事の準備だなんて、申し訳ない!」「いやいや、一日一食分だけですから」といったヤり取りを思いだす。
・・うん。
別に俺、料理キライじゃ無いし?
皆の為に美味い料理を作るという心構えが、円滑な魔力譲渡に繋がったんだ。
そうに決まっている。
◆◆◆
そして次の日。
次の村。
俺の、俺達【巫女】の、修業の成果を見せる時が来た。




