272『その後の【巫女】様のオモラ───いえ、何も。』
「あっ、幹太姉ちゃん!
僕、ちょっとだけ世界が青く見えるよ!」
「えっ!?
まさか体内の【スライム細胞】の量を増───」
【スライム細胞】を増やした状態を維持しつつ、秋原家の庭を散歩していたら颯太から突然の告白。
他の生物の肉を食って増殖する【スライム】を封印する『自己再生魔法』を弱める事で【スライム細胞】を増やす・・そんな危険な行為を、自らの体でヤるなんて───
「お、落ち着いて下さい【巫女】様!
我々が颯太を危険な目に逢わす訳が御座いませんっ!」
「そ、ソレは・・そう・・ですよね。
【人土】の皆さんが付いているんだから安全策を取ってますよね・・!」
「( ・・というか・・危険な行為とか、どのクチが・・ )」
「( シッ! )」
でも───
体内の【スライム細胞】を増やすとか、そういう狂気じみた手段で無ければ他に・・どうやって『青い世界』に入ったんだ?
「我々の体内に有る【スライム細胞】と、颯太様の【スライム細胞】をパスにより『リンク』させてみました」
「『リンク』?」
「颯太様の体内で【スライム細胞】を増やすのでは無く、一時的に我々の【スライム細胞】をパスを通じて颯太様が使っているのです」
「そんな事が出来るんですかっ!?」
颯太自身のパソコンだとパワーが無いから、外付けのパソコンでパワーアップする感じか?
( パソコン、分かんないけど。)
「まだ、洗脳された人の魔法を吸収は出来無いけど・・カスリ傷ぐらいなら付けられるよ!」
「すげえなあ、さすが颯太だ!
皆さんも大変でしょう?」
「【人花】の皆さんが平均的にパスが繋がっているならば、我々【人土】は【巫女】様を頂点に『ピラミッド』形でパスが繋がっているみたいなんです」
「『ピラミッド』形?」
「或いは『熊手』形でしょうか」
んー・・。
種族全体でヤる【人花の巫女化】は、種族全体の『平均化』・・強い者を無くす代わりに、弱い者も無くす感じ。
【人土の巫女化】は強い者をひたすら『強化』・・援護する感じか。
『三者を超えし者』の言う【人土の巫女】の条件は『最強』だから、【巫女】を( 今回は颯太 = 【巫女】のスペア )ひたすら強化してんのね。
「【巫女の目】で見たら颯太を中心に、みんなが・・お饅頭? みたいなんに見えるんだけど・・なんだろう、コレ?」
「お饅頭・・ひょっとして日本で【アジ・タハーカ】相手に我々全員で【巫女化】した時に言われた、『風船』では?」
「ああ、確かにこの状態で空を浮かんでいたら風船にしか見えないかも」
といった辺りで、颯太の様子に変化が出だした。
何と言うか・・さっき迄はやたらニコニコしていて、新しい技術を得て嬉しいんだな、と思っていたら───
徐々に颯太の笑みがナニやら・・エロさを感じるような・・妖しげな笑みに変化してきた。
颯太に同調している他の【人土】達も似たり寄ったりの、笑み。
「ストップ、ストップっ!」
「えぇ・・?
なんでだよぅ、幹太姉ちゃん?」
「颯太、暴走しかかってる!」
「あははぁ♡
やだなぁ・・そんな訳無いよぅ♡」
「彩佳に見つかったら、
『ぎにゃああ』されるぞっ!?」
「───・・はっ!?
ぼ、僕、何してたんだっけ?」
一瞬、颯太が『ビクンッ!』と飛び上がり、普段通りの颯太の顔と雰囲気になる。
よかった、お饅頭が消えて颯太も【人土】の皆さんも理性的に戻ったようだ。
「結局、どんな技術も要・鍛練って訳だな」
「うーん、そうだねぇ・・。
よぉしっ!」
鍛練好きな颯太は火が付いたか。
「我々もチカラ不足で不甲斐ないばかりです」
「皆さんは今、秋原家に居るみんなのフォローをしてくれているんですから。
コレはチカラを送られた側・・俺達【巫女】側の鍛練不足です」
「うんっ!
僕もみんなと幹太姉ちゃんの為に頑張るからね!」
「「「はいっ!」」」
◆◆◆
てな訳で、作戦会議。
「ビタが、前【人花の巫女】であるお姉さんの【巫女】としてのチカラを知らなかったように、【人狼】も【巫女】のチカラを知らないらしいんだ」
源太ちゃんがソレとなく聞いたらしいけど、「 分からない、見たこと無い 」と答えられたそうだ。
「数百年に渡り、【巫女】が居なかった我々【人土】が一番【巫女】の秘密に近いとは・・皮肉ですな」
「・・だからって【人土】が三種族NO.1だ、とか思っちゃ駄目ですよ?」
「は・・はは・・。
ま、まさかぁ・・・・♡」
まあ、どうしても『種族の誇り』という物は有る。
差別化では無く、切磋琢磨の為に善く在らんとするのまでは禁じれない。
「他の【巫女】達の訓練を見てて、俺達に足りないと感じたのは・・やっぱ【人土】そのもののチカラだと思う」
「【人土】のチカラ・・。
【スライム細胞】の量って事?」
「ソレも有るとは思う」
けど・・【人土】の『本質』とでも言えば良いのか・・。
「最初、俺は一人で【スライム細胞】を増やそうとして早々に限界が来た」
「ディッポ団長に『青い世界』で怒られたってやつだね?」
「ああ。
だから【人土村】の皆に協力してもらって、魂を集束させて女学園の皆の洗脳を断ち切った」
「魂の集束・・。
私は『風船』の時の多幸感を微かに覚えていますが───
アレこそ【人土】の本質では?」
【人土】達が皆、頷く。
彩佳の話だと、俺が幼児帰りするほどの『アレ』だったらしいけど。
「【人土】・・その先祖、【スライム】。
『核』が魔力を吸い、『分身』に吸収した魔力をわける」
「魂の集束、敵性魔力の吸収、分身への譲渡・・此処までが1セットだと?」
「料理・・包丁で言うなら、
魂の集束=良い切れ味の包丁の用意。
敵性魔力の吸収=正しい包丁の握り、当て方。
分身への譲渡=刃の引き方。
・・かな?」
自分でも今一つ分かんないけど。
「現状の【巫女】様には、一連の動きが悪いと?」
「魂の集束は・・あの時、もっと効率良く出来た気がするし・・魔力吸収は、魔法ほど思いっきりが足りない感じだし・・魔力譲渡に至っては何も無いかと」
「魂の集束は・・あの時が初めてだしねぇ」
「颯太様の言う通りですよ。
魔力吸収は・・その、若い娘さんなら───その・・その・・・・」
「「???」」
【人土】達が急にクチごもる。
なんなん?
「まっ!
魔力譲渡に関しては・・料理!
【巫女】様に魔力付与された料理がそうなのではっ!?」
「おおっ!」
「そうだそうだっ!」
「魔力譲渡は素晴らしい!」
・・なんなん?




