268『「大丈夫、こっちの世界にも印籠はあるでの!?」「いや、何が大丈夫かは知んないですけど」』
もうすぐ、村に着く。
が、国境の村を出入りしていたハズの自失した行商人に出会えなかった。
「その・・見晴らしは良いんで・・」
「ああ。
別にどっかで野垂れ死ンでるたァ、思っちゃいねェよ」
出来れば全員生き残っていて欲しいけど・・【空の口】の洗脳により、千人単位で商人が行方不明になっている。
仲間想いのディッポファミリー傭兵団は、商人仲間にも強い想いが有るからなあ。
「平時だって危険は無ェ訳じゃねェンだ、行商人は日々覚悟してるよ。
・・だから御姉チャンが、そンな顔すんな」
「・・はい」
◆◆◆
村に到着。
やはり行商人には出会えなかった。
「商人を探すのも良いが・・『クズ共』の事を忘れンなよ?
オメェ等の安全第一だ」
「「「「 了解 」」」」
村の探索は何時ものメンバー───
魔法で色々な動きが出来る『俺・ザレ』。
クワガタによる斥候役として『彩佳』。
護衛と( 知っている村なら )道案内役の『ジキア』。
───ソレに加え。
国境の村に来る( 登録している )商人の顔を全員覚えているという『商工ギルド職員』。
職員さんの護衛に『ヒトゥデさん・イェカさん』。
・・の、7人で行く。
残りは秋原家と村の入口の護衛。
颯太とビタは・・『家の護衛』を納得はしつつ───俺達全員が本当は『村に入って欲しくない』って思っている事に・・気づいている、だろうな。
・・済まん。
◆◆◆
何時もの如く、旅人が村にやって来た態で村を探査。
「と・・盗賊を誘き寄せるヤり方ですか?」
「盗賊もバカ盗賊相手にしか通用せんの。
自閉的で世間知らずな上、同じ村人から搾取するような者ゆえ、通じる手段だの」
後は『三者を超えし者』が洗脳を解いた女性みたく、誰かに救助を求める人とか、かな。
「・・ん?」
「どうなされましたか、御姉様?」
「いや・・分かんない。
颯太なら分かったんだろうけど・・何か匂いがした」
「どっちからッスか?」
「たぶん、だけど・・あっち」
俺は村の北西を指差す。
「地理的には『離れ』ですね。
・・まさか、件の行商人の『なれ』───」
「正直、そういう匂いは嗅ぎ慣れましたから、ソレは無いです。
そういうのだったら・・ほら、その家の住人も」
「ひいっ!?
で、でしたらサッサと行きましょう・・!」
「あー・・嫌な慣れ方しちゃったわね・・アタシ達」
飽くまで凡そ、だけど・・洗脳されて自失した人の30人に1人ぐらいが、食事も取れなくなる。
300人の村なら10人ぐらい。
「商工ギルド職員にも何人か・・っと、アレですか?」
「たぶんアレですね。
自失した上での不注意かな?」
おそらく、の目的地。
ソレは一件の全焼した家だった。
完全に鎮火しているようだけど。
「焦げ臭くも無いし、灰の匂いだな」
「人が居たとしても、アタシ達に調べようは無さそうね」
「そうですわね」
「うーん、行商人探しも有るし仕方無───
あっ!?
違うっ!?」
「な、何がッスか?」
近づくにつれ、見えてきた違和感。
家は全焼しているのに、回りの土とかは綺麗だ。
「これ・・俺の防爆衣魔法に近い耐火魔法で、家だけ焼いたんだよ」
「そんなレベルの魔法なんて・・カンタさんとソウタちゃんと何時も一緒にいるオレとザレさんですら、二人係りでギリ・・ッスかね?」
「ええ、このサイズの家だと・・まさか御姉様方以外のチート持ちがっ!?」
「うェっ!?」
と、若干パニクる俺達を他所に、彩佳達が現場検証をする。
「幹太クラス・・にしては甘くないかしら?
ほらココ・・幹太の魔法なら完全に封熱する所を、土がグラデーション状に焼けてるわ。
こっちなんか・・」
「うむ、熱に耐えきれず防壁がヒビいったかの焼け具合だの」
「炎は外に出さなかったけど熱は漏れた・・そんな焼け方ですね。
竈の回り、のような」
「むろん、コレはコレで凄い魔力だが・・カンタの魔力を見馴れてしまったな。
おそらく、コレは貴族クラスの魔力だ」
「貴族?」
確か・・上級貴族のザーロスさんが『村破級【コカトリス】』を一撃で焼却出来るぐらいか。
「ならそのぐらい・・より、やや上か?」
「・・そういや『三者を超えし者』の正体を想像していた時、貴族かもって話も有ったなあ」
「貴族がこんな世界に取り残され・・性格にもよろうが、世直し的な事をする者も居るかもしれんの」
世直し・・もしかして、『クズ』がこの家に居たとかか?




