264『上から摘まんで真下に引っ張るとチカラが要らない、と聞いたのですが本当でしょうか?』
「鍵を鍵穴に刺す」
「さ・・刺す!」
「鍵を回す」
「ま・・回す!」
周りの人達が、大丈夫かコイツ? って顔をするけど・・だ、大丈夫さ。
お、俺は日本人だしなっ!
「ソコを・・そう・・ソレで・・・・。
足下のこっちの板を、ゆっくり踏む」
「ふ・・踏む!」
──ギャッギャッギャギャッ!!!──
「ぎゃあああああああっっ!?」
「幹太姉ちゃんっ!?」
「おわァァっ!?
ふ、踏みこみ過ぎだっ!?
ブレーキ、ブレーキっ!」
「ぜぇ・・ぜぇ・・」
運転コワイ運転コワイ運転コワイ・・。
「おいおいディッポ・・大丈夫なのかコイツ等?」
「まあ・・見てて疲れはするが───
見てて飽きる事ァねえな」
◆◆◆
商工ギルド国境の村支部長は、信頼するディッポ団長の頼みに【人土村】との協力を確約したけど・・思う事が無くは無いらしい。
何せ───
世界中が【空の口】によって洗脳され、右も左も分からぬ現状で突然現れた・・『未知の技術を持った、謎集団』からの依頼だしな。
【人土村】にとっては命綱にも等しい、物流最重要拠点である国境の村。
・・しかし。
国境の村側にとっても【人土村】は、将来を左右しうるだろう。
「現状は理解した」
「村や油のことは、済みませんでした」
「あの戦いの被害も・・君の魔法を見れば、納得せざるを得んよ」
俺が『三者を超えし者』と戦った際。
村の一部を破壊し、村の全油を使い果たした。
この事については相手が相手なので、許してくれた。
( 支部長がカタカタ震えていたのは多分気のせい。)
だけどランプなど・・光源には、多くが油を使う。
村の業務的に、『夜だから全員寝る』という訳にはいかないので、光源たる油を全て失うのは割と死活問題だ。
ゆえに、ウチにあった懐中電灯や電池式ランタンなどを次の油の流通までは充分持つ量わたす。
「!?」
ついでに。
【人土村】からの商品。
颯太達が倒した国境の村を襲ってきた魔物の素材。
ココまでの村々で得た物資。
王様に渡した奴より高品質っていう、モスマンの真っ白な繭。
コレ等をトラックで運んできて卸す。
「!??」
途中までは秋原家で運んできたんだけど・・【人土村】と同じで、国境の村の入口も狭いんだよなあ。
「そうね。
アタシん家だったら入ったかもね」
「何で、この話題になったら不機嫌になるんだ?」
「・・・・・・。
耳を引き千切るチカラの入れ方って知ってる?」
恐すぎるんですが。
( 俺がカタカタ震えているように見えるのは気のせいじゃナイ。)
「でぃ、ディッポ・・。
あの娘さんが操る家は兎も角・・あの馬が居ない馬車をオマエの息子が、操作してたっつう事は───」
「『とらっく』とか言う奴は、魔法じゃ無ェな。
【人土村】が『あの』リャター商会と組んで作っているらしいゼ?」
「リャター商会か・・!」
ディッポ団長と支部長が、商談だか何だかの会話中。
ディッポ団長の後ろにはジキア。
支部長の後ろには支部長の息子だという魔法使い。
疑いあう訳ではないけど、盲信する事が信頼の証しじゃないしな。
「・・なるほど。
最初はお伽噺だったハズの【空の口】怖さに、オマエ等と手を組んだが・・あの『馬鹿気た魔力』と『馬鹿気た技術』と『馬鹿気た財力』を手に入れたか」
「【銀星王国】の男尊女卑主義が気に食わねェから、この気に乗じて世界征服するってよ。
全組織、『上』が女だしなァ」
「そ、そりゃあ食い込まんとなあ」
ディッポ団長と支部長が、俺をチラッと見る。
・・商談中とは思えない表情で。
荷物の運搬を、俺一人がトロトロしてるから怒られてんのかなあ?
秋原家を村の入口に付けてからは、ほぼ役立たずになってんだよ。
土魔法を使うと、大量の土が他の人の邪魔になったり、土が無い場所では使えなかったり。
身体強化魔法や吸着魔法で運ぼうとしても、颯太やディッポファミリー傭兵団には圧倒的に負けるし・・。
( 割と彩佳やザレにも負けているし。
ビタは植物関連の仕事が有るらしく、コチラの職員に連れていかれた。)
「カンタは充分やっているがの。
・・ふむ。
元々トラックはニホンのモノだし運転出来んのかの?」
「たしか大型車免許証って、21歳からじゃないと取れないんですよね」
「ソレはニホンの法律だの?
ココは異世界・・しかも以前、カンタが言った通り法律を作る側になる。
御前もイザという時のため、魔法以外の技術を覚えとくと良いの」
「なるほど・・」
確かに傭兵たる者、いろんな場面を想定すべきだ。
「じゃあ運転の仕方を教えて貰えますか?」
「うむ、では次の運転はカンタに任せよう。
なに、ココからアソコまでの直線・短距離だから不安は無いの」




