255『ガキんちょ vs ロマンチスト。』
【銀星王国】と【連合】の国境の村。
商工ギルド国境の村支部館。
その館内の部屋は、全てチェックした。
「このギルド館の中にゃア、生者は自失者しか居なかったゼ?」
コレは確実だ。
俺の魔法と、ディッポ団長たち歴戦の傭兵による探査・・この網から逃れられる存在なんか居ない。
俺や颯太に源太ちゃん、チート持ちであっても・・だ。
───なのに。
目の前に、居るハズの無い・・見知らぬ女が居る。
・・いや、まったく知らない訳じゃない。
ついさっき・・彩佳のカメラクワガタからの映像に映った女。
ディッポ団長が反応した女だ。
「ええ、居なかった。
・・何故なら、たった今来たのだから」
「───今?
颯太とディッポファミリー傭兵団の警戒網の中から?」
「流石にあの網の目は抜けられない。
だから網の外から入りこんだ」
「網の外?
空から飛んで来たとかか?
───ソレとも・・【口】を開いて転移でもしてきたのか?」
この世界、「 す、スゲえ魔力だ・・!」っていうのは無い。
無いというか相手の魔力量を知るには・・ああゆう、『霊感的方法』ではなく『目視』でしか分からない。
普段から洩れ出る魔力は、ある程度の魔法使いなら操作して調整出来る。
こうして、佇んでいるだけじゃ相手の実力は分からないのだ。
・・だけど、目の前の女は明らかに異常すぎる。
「【口】・・ああ、【空の口】。
それは無い。
【空の口】は自分の・・敵? なのだ・・から?」
「何で疑問形なンだよ・・」
「なら、どうやって・・?
空からじゃなければ・・地下───」
「【ノズチ】・・!?
魔物を使っているんならやっぱり【空の口】の仲間じゃあないかしら・・!?」
彩佳の言葉に、女は・・心底「 心外だ 」という顔をして───
分裂した。
「「「・・・・・・ッ!??」」」
陽炎魔法のような、目の錯覚を利用した訳じゃない。
本当に生命反応ごと分裂した。
そんな事が出来るのは・・コイツ本人が魔物だから───
「自分は『賢者』と呼ばれる者。
二千年前、ヨランギと共に【空の口】を倒した『三者』の一人」
「「「・・・・・・ッ!?!??」」」
『三者』?
『賢者』?
『二千年前の人物』??
「そ・・その能力は・・・・」
「分裂?
自分から発生して、出来ない【人土】の方が不自然」
「不自然?」
「自分は『自分』と『粘土』を足して今の自分に成った。
自分から別たれた者達は足した後、何故か『2で割った』。
不自然。
理解不能」
よくある表現では有るけど・・。
半分人間、半分【スライム】って事はそれぞれ半分のチカラしか使えないとも言える。
【スライム】・・っていうか、【スライム】の先祖の【魔王の粘土】と呼ばれる魔物のチカラを十全に使えるなら・・分裂ぐらい容易いだろうけど・・。
この【スライム】の体で土の中をスリ抜けてきたのか?
「それより・・ソレ。
洗脳魔法を吸収するチカラが弱すぎる」
「・・俺は魔法を吸収するより、支部長を想う人達の心を纏めて───」
「そんな悠長な事をするヒマは無い。
ソコの『三者の劣化』も、弱すぎる」
「・・・・っ」
「・・・・・・」
「なんだと・・ッ!」
俺の事は良い。
チートを持っているクセに、未だちゃんと助ける術を持たないのは事実だ。
・・けど、ザレとビタの努力を劣化呼ばわりは許せない。
おもわず本気で射ち抜こうとして───
「仕方無い」
───ぬるり、と、皆の脇を抜けて女が支部長に『ポン』と触れる。
「あ・・ぅあ・・・で、ディッポ?
オマエ、何時来た・・?」
一瞬、触れただけで洗脳を解いた!?
「お、オメェ・・意識が───洗脳が解けたのか!?」
「洗脳・・?
そういや今まで夢現だったような・・?
何だこの連中・・ギルドを乗っ取りにでも来たか?」
「はン・・有る意味そうかもな」
既に【巫女化】していたから、辛うじて見えたけど・・洗脳魔法の『悪いパス』を素麺か何かのように一瞬で吸った( ・・と、思う )。
なるほど、俺が未だ出来無い【スライム】型魔力吸収に似ている。
いや、ソレ以上だろう。
「自分の分身という意味では、【人土】より【スライム】の方が余程近しい。
甘い考えは捨てるとイイ・・『運命の時』はすぐそこ」
あ、運命とか言いだした。
「か、幹太・・コイツ『訳知り顔』キャラよっ!?
『全部知ってる風だけど勿体ぶるだけで結局言わない』キャラだわっ!?」
「ああ・・!
そのウチ、『私は傍観者』だとか『終わりの始まり』とか言いだすんだな」
俺、この手のキャラが出ると興ざめするんだよな。
彩佳もこうゆうキャラは、ひっぱたきたくなるらしい。
「・・・・・・」
「おいおい、御姉チャン達。
何か、顔が赤くなり始めたぞ?
あまりそういう事を言ってやンなよ」
「おまえ、【空の口】の声を聞いて世界中の人が意識を失っていく時・・何て呟いた?」
「『時が全てを飲み込む前に』って言っちゃいました♡」
「駄目だよ、そんなボツ個性のキャラ」
彩佳が『憂い気に明後日の方角を眺めつつ呟くサマ』を見て『自称賢者』が、なんか泣きそうになってる。
これ、マジでそのまま言った?
プルプル震えている。
恥か・・怒りか───
「な・・何なんだ御前達は・・?」
「俺の仲間を侮辱しといて逆ギレすんなよ。
前の村の女性の事も有るし」
『俺達よりチカラが有る』とか、『真相を知る』とか、『格好つけたかった』だけとか・・全部知らん!
コイツ腹たつ!




