199『様々な視点・源太編2・⑧』
「リャターさんを呼ぶかね?」
「・・止めとこうかの。
アッチに敵が行くかもしれんし。
儂等の現状を知らせるだけでエエんじゃないか?」
【人土】達が運転する " 車 " に、女生徒と女学園卒業生が乗りこむ。
たまたま【人土村】に商品運搬で来た時、完全洗脳者の襲来に遭遇し、リャター商会へと帰れなくなったムスメ達じゃの。
「ソレだと敵を殺せない現状、【人土】は銃は使えないんだ。
モチロン魔力吸収で出来るだけ敵を無力化させるけどさ、源太さん一人が負担になるだろう?」
「今は女学園関係者のみ捕まえて洗脳を解く」
その時、女生徒を運ぶ " 車 " が・・【人土村】でも数少ない、目の前の " 装甲車 " じゃな。
「【変換機】が空くたび、適当に拐って洗脳を解く───
そんぐらいしか思いつかんわい」
【人土】所有ビルは設計段階でシェルター並に。
買ったビルもしっかり強度補強し。
バリケードには【アジ・タハーカ】の死骸を利用。
「およそ常人が村内に入る事は出来んし、食料医薬品等は何十年も前から数年分備蓄しとったそうじゃから・・ " 一カ月 " は持つじゃろう」
あまり現実的じゃあ無いのは分かっとるんじゃがな。
「・・何やら、 " 一カ月 " が意味有り気に聞こえたね」
「・・しまったのう。
そんなつもりは無かったんじゃが。
余りに・・甘い『毒』じゃからな」
「甘い・・毒?」
「───・・。
さっき・・幹太と颯太の魔力パスに変化があった」
「何・・!?
【巫女様】が・・!?」
目を輝かせる山柄殿。
・・やはりの。
「恐らくはコチラの世界へ来たんじゃろうが・・距離が有りすぎて、位置も感情も分からん」
「そう・・か」
輝かせた目が・・一瞬で曇る。
【人土】や女学園関係者にとって、幹太と颯太は・・とても甘い甘い───しかし、何時会えるか分からん『毒』となりよる。
「儂等と違って、トラックやキャンピングカーなんぞ無いなら・・歩いてくるしか無い。
食事一つとっても、食材集め・調理・食事のたんびに歩みを止めにゃあならん」
この方角はあの子等にとって、因縁深い魔物の森がある。
もし魔物の森に転移したんなら、ココまで・・道も曲りくねっておるし " 一カ月 " ぐらいは掛かるじゃろ。
「という訳で、いずれはあの子等に会えよう・・が、この襲撃には間に合わん。
儂等だけで現状を凌がねばならんし、イザとも為れば・・あの子等に恨まれようと───」
「───その覚悟は【人土】も、だよ。
【スライム】の研究・培養も進んでいるし、何時か状況も変わるかもしれないさ」
◆◆◆
「ゲンタさん、私も戦うのです!」
「ビタ殿・・」
ピヒタ殿達に引っぱり回されたビタ殿は・・その忙しさから解放された途端、姉と共に泣いたんか、みな目が赤いわい。
ピヒタ殿が急に『可愛い服』だ、などと言いだしたんは・・ピヒタ殿なりの慰め方だったんじゃろう。
( ・・じゃよな? )
幼児を戦場に置くなど非人道的にもほどがあるが・・今さらな話よな。
ソレに、どうも『三種族』に【空の口】の相手をさせん方が危険らしいしの。
( 野性動物の雛にエサを食ってはイケナイ・・ちゅうようなモンと山柄殿に言われたわい。)
「それじゃあ済まんが頼むぞ、ビタ殿」
「はいっ♡」
「当然、我々【人花】も参戦致します」
「ええんかの?」
「おそらくは我等の【巫女様】と長老を焼き殺したのは・・【空の口】の手の者かと」
【人花】の里では火の使用がかなり制限されている上、奥の間は厳重に管理されとるという。
つまり里全体を焼く火事なんぞ有りえんらしい。
「そうか・・しかしあの敵には、ちと事情があってのう」
「ええ、ビタから聞きました。
【人土】の【巫女】の友達が洗脳され、あの場にいるとか。
【人花】のチカラは非殺にも役立ちます」
「 ・・例え殺してくれと懇願してこようと───クックックッ・・ 」 と笑うピヒタ殿。
非殺と拷問は違うぞ?
◆◆◆
戦が始まり三日目。
「コレで全員かの?」
「はい!
有難う御座います、ゲンタさん!」
戦場に女というだけで目立つ女生徒達
は容易く保護出来たがの。
自失した弱洗脳者ではなく、暴れる完全洗脳者は【モスマンの繭】に入ってくれん。
【変換機】は何人分かが足らん。
武器を取りあげ、閉じ込めるしかない。
・・じゃが。
【人土】は本能によって繋がれた・・他種族には理解し難い一体感がある。
ソレ所以に多少の揉め事はあっても犯罪っちゅうモンが無く、村内治安維持組織っちゅうんは近所の相談役レベル。
牢屋みたいなんが無いんで、魔物捕獲用に用意しとった檻を代用しとる。
ソレにまた時間がかかる。
◆◆◆
戦開始から八日目。
やっと顔が分かるウエスト傭兵団の団長以下、一部団員達を保護し終えた。
しかし───
【人土】の魔力吸収、
【人花】の蔦絞めマヒ草、
等々により数を多少減らしたかと思うたら・・【人土村】の東西南北から完全洗脳者の増援が来おった。
「【人土】の方々から、敵より吸収した魔力を頂けますので植物の育成に問題は有りませんが・・」
「うむ。
植物は問題無くとも、本人の体力が持たなくてはの。
・・少しは休め」
皮肉な事に、【人花】一番の使い手がビタ殿とピヒタ殿・・子供の二人じゃからな。
「ゲンタさんは?」
「あの援軍じゃからの・・本戦になるまで休むつもりじゃ」
そして、本戦になったならば・・流石に余裕は無くなる。
・・幹太、颯太、済まん。
まだウエスト傭兵団は全員保護し終えてはおらんし、儂の知らん恩人がおるかもしれんが───
「『焦り』も『悲しみ』も必要無いよ。
本戦にはワタシ等も参戦する。
同罪だよ。
【巫女】・・幹太さん達も分かってくれるさ」
「・・そうじゃの」
◆◆◆
戦、開始から九日目。
「ゲンタさん、大変なのです!」
「うん?」
ビタ殿に叩き起こされる。
増援が到着したかの?
まだ一日ぐらいは余裕が有るハズじゃが・・。
「また、【ガルーダ】の群なのです!」
「ちぃっ・・!
地上はバリケードで暫く防げても、空中は全滅させんとの」
急ぎ会議室へと行くと、壁に望遠カメラによる【がるうだ】の映像が映っとった。
群。
紛う方なき群・・先の群とは比べられん数の群じゃ。
「全員、建物の中へ。
中から攻撃する手段をもたん者は、補佐に徹せよ」
「ゲンタ殿は!?」
「【人土村】内の広場で待ちかまえる」
「そんな・・!?
御一人で───」
「ピヒタ姉様、ゲンタさんは『街破級』とも渡りあった強者なのです!」
「「「なんと・・!?」」」
儂一人なら全ての【がるうだ】が儂めがけて飛んでくるじゃろう。
誰かを守ったり、探したりせんでエエ分・・思いっきりヤレるわい。
「【ガルーダ】、来ます!」
「久しぶりの新鮮な肉じゃあァァ!」
◆◆◆
戦、開始から・・十日目?
「唐揚げ! ふーふーした奴!
・・ん、こんぐらいかの」
もう、【がるうだ】の群と戦い始めてどんぐらいになるんかのう。
トイレ休憩と、一回だけ服が裂かれての着替え休憩 ( トチ狂った【人花】の若モンがいきなり求婚してきよったわい ( 悪い気はせんが )) 以外は食事すら投げてもらい戦場で食っとる。
肉体的ダメージは・・さっき熱々の鳥炊きを放られ、クチん中をヤケドしたぐらいか。
「・・が、流石に寝不足じゃし目眩がしてきたわい。
救助を乞うか?」
しかし、皆は素早い【がるうだ】に銃や植物を当てられん。
弾薬や体力が有限な以上、本戦にこそ本気を出してもらいた───
「源太さん、【ガルーダ】の奥から・・トンでもなくデカイ鳥が・・!?」
「あ・・アレは『街破級【フレズベルグ】』ッ!!?」
「源太さん逃げ───」
「せーのっ・・極大爆発魔法っっ!!!」
・・うん?
疲れの余り、夢でも見とんかのう・・。
巨大鳥が・・出現と同時に爆散しよったわい。




