190『ドッグトレーナー「君に決めたっ!」』
俺達を、家を、取りかこむように立ちふさがる・・変なジジイ達とその手下?共。
強烈・・とは言わないが弱くもない悪意に、家の動かすチカラを弱め、防壁魔力に注力してゆく。
「・・なんの用ですか?」
「あの “ 異形の地 ” で戦争が起こっている」
白い服をきたジジイを取りかこむように立つ、水色の服をきた三人のジジイのうちの一人がビル群を指差す。
服装や立ち位置から、白色がno.1、水色がno.2、周りの茶色が雑兵辺りか?
「戦争?」
「異形の住人と、魔女の手先とで、な」
「北から南から西から東から・・有象無象が異形の地へ集まりよる」
「異形を操るオゾマシキ者よ。
貴様等も、あの戦へとゆくのか」
北から南から・・?
ウエスト傭兵団以外にも、ペリオラ傭兵団のような完全洗脳された戦士達が【人土村】へと集まっているのか?
「・・あそこへ行くと、言ったら?」
「ならば、ソコの丘を西沿いに進め。
効率よく魔女の手先共を始末出来るだろう」
「その生きた家、貴様等はソコソコ役に立ちそうだ」
「吾らがより良く導いてやろう」
「はあ?」
何言ってんだコイツら。
『生きた家』?
悪意の見えない人達も、目の前のジジイ共のアヤシイ言動にザワつき始めた。
まさか【空の口】の・・手下?
「自分達は戦わないのぉ?」
「ククク・・吾らには偉大な “ 使命 ” がある。
どうせ貴様等は “ 傭兵 ”とかいう殺しあいで金をかせぐ、卑しい者であろう」
「金ならくれてやる」
「“ 魔女の守護者 ” を名乗る者共を殺すがいい」
丘の西へ進みやすいよう、西にいたジジイ共が中央へ寄る。
なので、まっすぐ進む。
───ちぇっ、避けられちゃったか。
「き、貴様等・・!
『魔女討伐の使命』を帯びた吾らを・・洗脳されていないように見えていたが、魔女の手先かッ!?」
「・・知らんがな。
俺達は俺達の理由で戦う。
『傭兵』は戦う理由を選べるからな。
仲間との合流を優先する」
この距離になり、ようやく源太ちゃんとの魔力パスが本来の働きをし始めた。
源太ちゃんからは・・苦労はあっても、焦燥感や悲壮感は感じない。
アッチには源太ちゃんが、リャター夫人が、ザレが、ビタが、山柄さん達【人土】の皆がいる。
魔女の守護者程度には負けないだろう。
コッチの準備も終えた。
助けられる人も助け終えた。
寄り道する理由なんてない。
「ぐっ・・コレだから偉大な使命を持たぬ愚者共は・・」
「千年前、『吾らが』魔女を倒したのだ。
貴様等が生きているのは、貴様等の先祖が吾らの足下に居ることを許したため」
「魔女に抗うすべすら持たぬ者共よ。
恭順せよ。
さすれば次の千年も生かしておいてやろう!」
『吾らが』、魔女を倒した?
「魔女を倒したのは・・当時の世界中の皆が協力して、だろ?」
「愚かな他の民を、吾らがより良く導いたからよ・・!」
水色ジジイに囲まれていた白色ジジイが手をあげる。
「───もう良い。
所詮・・外民は外民だったのだ・・。
元より『息子』をたぶらかす愚者共に、期待などしていない。
・・あの “ 生き物 ” を奪え」
白色ジジイが、そう言うと・・ロープ付きの銛を、家の土台に射ちこんできた。
乗りこむ気か?
・・と、思ったら・・引っぱっているだけ?
「ククク・・この “ 生きた家 ” さえ居れば、より良く吾らの使命を果たせる・・!」
生き物?
生きた家?
ウチの家 ( の土台 ) が?
何言ってんだ??
「・・分からないでも無いのである。
このサイズの土地・家・人数・その他を、魔法で持上げていると考えるよりは───
『街破級』のような化物が動かしている・・と考える方が自然である」
「ちょ・・なんですか、急にそんな褒められても・・♡」
「・・褒めてはいないの」
水色ジジイ他、ウチを取りんでいた茶色い服の連中 ( ジジイ以外の若者も混ざっている ) が一斉にロープを引く。
銛が突きささっているのは土魔法で操っている部分なので、押し返すのも、ソコだけ穴にして落とす事も出来る。
・・けど。
「偉そうに言うだけあって、筋肉だけはすごいな」
服からハミ出た、ロープを引く腕がプロレスラーより太い。
腕力自慢、か・・。
クチでどうこう言うより分かりやすいよな。
「猛進型土魔法!」
「なっ・・!?
周囲の土を纏って、姿が代わった!?」
「得意気になっているトコ悪いけど、これ・・生き物じゃないぞ」
「こ、コイツ・・魔法だとっ!!?」
今使った魔法そのものは、
「コレは魔法ですよ、あんた等が戦っているのは俺ですよ」
という、分かりやすいポーズであって意味はない。
「偉そうに言うんだ。
離すなよ?」
ロープを引く30人程を引き擦り進む。
何人かは転けたり、掌から血を流して・・ロープを手離す。
「魔女を倒したとか『騙る』んだ、もーちょい頑張れよ?」
「か・・騙りだと!?
吾らを侮辱するかあっっ!?」
白色ジジイがブチ切れる。
知らんけど。
「千年前、頑張ったのは【人土】【人花】【人狼】の『三種族』とその他種族、その時代に生きた人達だろ?
オマエ達だけが戦った訳じゃない」
「訳の分からん事を言うなアア!!」
訳分からん・・って。
何だ?
当時は王族だった奴の子孫か、何かか?
マジで自分が民をひきいてきた───と、思っているみたいだな。
「・・・・。
・・もう良い。
その生きモ───土地を手に入れた後は便利に使ってやろうと思っていたが・・殺れ!」
「「「オォォ・・・!!!」」」
白色ジジイが手を振りかざし、号令をかけると周りの水色茶色の服がハジケとび体がふくらんで───
「───お・・狼!?
・・人間が狼に変身した・・!?」
様子を眺めていた人達が驚愕している。
俺も事前に話を聞いていなかったら驚いていたかもしれない。
「か・・幹太姉ちゃん・・!」
「ああ・・源太ちゃんに聞いた通りだ」
「【巫女】様・・ならばやはり」
「───【人狼】だ」
「愚者共め・・皆殺しだ!」
愚者?
愚者だと?
・・コイツ等が【人狼】だと言うなら、今までの話がまるきり変わってくる。
「・・愚者は、オマエ達だ」
「まだ言うかっ!?」
ほとほと呆れる。
何だそのとぼけた顔は。
コッチがしたい。
「何故、『自分達が魔女を倒した』なんて騙る?
『自分達も魔女を倒した』だろう!?
『三種族』の・・『三者』の子孫たる誇りってのは無いのか!?」
───子孫でも無いが何を・・ってなるかもしれない。
けど、山柄さん達は。
【人土】は。
多少、他種族には理解し得ない精神性もあったけど人として間違ってはいなかった。
【巫女】だとか関係なく良くしてくれた。
【人土】として『誇り』はあっても『驕り』は無かった。
「『三種族』だの訳の分からん事を言って煙に巻くつもりか・・?
外民の愚者など所詮その程度よっ!」
・・・・?
この後に及んで、まだそんな・・ん?
嘘は言ってない???
【人土】の皆と、顔を見合せる。
「・・【巫女】様、どう思われますか?」
「まさか・・とは思うけど。
『三者』『三種族』の使命を知らない?
本気で【人狼】だけで【空の口】を倒したと思っている・・とか?」
「・・ですね」
「オレだって、『三種族』のことは知らなかったスけど・・人類が協力したって事ぐらいは分かるッス」
───はあ。
ウチに居る人は皆、『三種族』の事、【空の口】に関する歴史は教えてある。
殆んどは良く分かっていなかったみたいだけど、歴史教育ってつもりは無い。
歴史の雑学番組を見る程度かな。
「なんか・・憐れだな」
「そうだねぇ」
「だから───」
皆の視線が集中する。
ウチの人達のと・・防壁魔力をカリカリやってる【人狼】達のも。
「躾の成ってない犬ッコロに・・格の違いを教えてやろう♡」
「アンタねぇ・・」
彩佳と父さんが呆れ顔を見せる。
まあ、【人狼】にはもっとヒドイ呆れ顔だけど。
ディッポファミリー傭兵団の皆は “ 已む無し ” といった顔。
傭兵という仕事を侮辱する奴等だし。
リラキアさんやパラヤンさんポロヤンさん行商母娘の母親などは、微笑みながら “ 任せる ” といった顔。
子供たちは “ よく分かってない ” 顔。
でもワクワクしているのは伝わってくる。
【人土】は・・ “ 怒り ” 顔か。
『三種族』である事に誇りある人達が、その誇りを傷つけられたようなモンだからな。
ペリオラさんは・・ドン引き顔。
そして颯太は───
「僕から行っていい?」
「ああ!」
───俺とおなじ顔だ。
狙いはボス・・じゃなくて、一番強そうなヤツ。
颯太も優しいなあ♡




