185『自分がボンボンと知らない人が見ても、 「 ? 」 としかならないんでしょうね。 ( チッ。)』
「リラキアさん、家酔いは大丈夫ですか?」
「『車酔い』感覚で聞いてんじゃナイわよ・・。
初めて聞いたわ、そんな言葉」
【銀星王国首都】から脱出する際、リラキアさんは車酔いをしていた。
乗り物に弱いのかもしれないしな。
「ええ、コレぐらいなら大丈夫ですよ。
魔法使いの目にかけて真実でしょう?」
「まあ」
「元々、ワタシは乗り物にソコまで弱くは無いんです。
あの時は・・その・・」
「ワシ等のせいよの」
「ヒトゥデさん・・」
洗脳されていたヒトゥデさん達に対する恐怖がストレスとなり、不測の車酔いとなった・・らしい。
俺達が寝ている間に、ヒトゥデさん達が何度もリラキアさんに謝罪したそうだ。
「今は前の・・ディッポファミリー傭兵団の仲間という関係に戻れたと思っています」
「そうですか。
ソレはよかった」
100%では無いけど、ほぼほぼ・・って感じかな。
「・・なら、この【我が家ファフニール】の速度を上げますね」
「アンタ、人のネーミングセンスをとやかく言ってソレっ!?」
冗談だ。
人型じゃないし。
日本から転移した時、我が家は地下の基礎工事?部分 ( 下水管やら固い地層やら部分 ) を含む立方体の空間ごと転移してきた。
この土台となる部分に、コッチの土を魔法で被せて操っている。
「わ・・我"っ、ら"っ!?
【空の口】の守護っ・・!?
常勝無は・・ぃ・・・っ!?」
「お、おのれェェ・・ディッポファミリー傭兵団めェェェ!」
「ワシ等・・なんもしてないがの・・」
土部分だけで高さ8m・170坪、普通の民家とはいえそんな攻撃効かな───ふごっ!?
ナンで!? 何で今、彩佳に殴られた!?
「オジさん・・。
オジさんはせめて、『オマエはボンボンなんだよ』って教えないと」
「い、いや・・秋原家は周囲に誰も居なかった600年ぐらい前からあそこに住みついていたから・・土地は余ってたんだよ!?」
「家とォォ道場はァァオジさんが建てかえたんでしょォォォっっ!?」
「彩佳ちゃん、洗脳された人達みたいになってるよ!?」
なんなん???
「───ぜぇ・・ぜぇ・・。
・・で?
コレ、どんな方法で移動してんの?
足音はしないし・・タイヤだと、地面の応突でもっと跳ねるハズだし・・。
キャタピラー?」
「海胆・・」「なんだい? ( ←ウーニさん )」
「海星・・」「なんかの? ( ←ヒトゥデさん )」
「・・家の裏に、小ちゃい足を無数に生やして順番に動かすのが一番効率良かった」
「・・想像すると、キモいんだけど」
やがて、チカラ尽きた傭兵達を置きざりにして逃げきることに成功した。
◆◆◆
暫く適当に進み、適度な小山の谷間があったんで休憩。
もう夕方に近い時間。
昼過ぎ ( 14時ぐらい? ) に遅めの昼飯を食べようとして、傭兵団に襲われた。
ハラヘリ~。
この小山にも幾種か食糧があったので採取して夜、晩飯。
「ふう、流石にちょい疲れたなあ」
「魔力が見えるようになって、前に彩佳ちゃん達が言っていた『幹太の魔力は50t』というのが分かったよ」
「今は80t近いんじゃないかしら」
「ニホンの魔力の単位スか?」
皆で想い想いの晩飯を作る。
俺達、秋原家は和食系を。
彩佳は・・なんか茶色いのを。
【人土】の人達はめいめいの郷土料理を。
ディッポファミリー傭兵団はシチューとスープの中間みたいなのを。
「あー・・懐かしいなあ、この味」
「疲れたら、この味が浮かぶんだよねぇ」
「素材の栄養を絞り取った一杯だな。
やや塩分が濃いが、汗をかいた後なら・・」
「アタシのは?」
「この甘辛い味とか素材の生に近い味とか・・たまに思い出しての」
「アタシのは?」
「いろんな土地の料理ですか・・ジキア、これ美味しいわよ」
「アタ・・シ・・」
「はいはい」
流石に彩佳が目に涙を浮かべ初めたんで、彩佳の茶色いのを食べる。
見た目はちょっとアレだけど味は悪くないんだよな。
◆◆◆
「───さっき、『統率』されたチカラは『引っ掻きまわされる』と弱いって話しが出てましたけど」
「うむ」
洗脳された傭兵団が襲ってきた時、皆が並んで攻めてきた。
恐怖する父さんやリラキアさんに、一方行に強いチカラは側面攻撃に弱いという話をしていた。
「洗脳魔法ってのは、例えば───
楽しんでいようが、悲しんでいようが、魔力を怒りの波形へと『統率』させる事で怒りへと変化させる魔法・・ですよね」
「まあ、そうだな」
「なら理論上は、『統率』された魔力を『引っ掻きまわす』と洗脳魔法は成立しない訳です」
「ん? んー・・?
ソレはそうかもしれんが・・魔力を吸収してすら、『引っ掻きまわす』に当たらなかったのである」
『表層を削った』トコロで『本拠地』が無事で『人員』補給が容易いなら、統率された『陣形』は維持出来る。
「【人土】の皆さん、コレ・・使えませんか?」
「コレは・・【変換機】?」
「何だの?」
コッチに転移してすぐ、倒れたジキアを父さんが洗っていた間に着替え、そのついでに外したっキリだった【変換機】。
「日本には魔力は有りません。
その代わり、魔力に反応して対消滅する物質が充満しています。
そのままでは日本で魔法は使えないんです」
「ほう」
「で・・この【変換機】を身に着けると、漏れ出る魔力の一部を、疑似的な異世界物質に変換するらしいんです」
「・・ほ・・ほう」
「結果、『虚・異世界物質』が周りに漂う事で『実・異世界物質』が体内の魔力に引き寄せられずらくなる───らしいんですよね」
『世界の何某』・・異世界の物質。
コレと魔力は、さながら磁石のS極N極の如く引きあう。
俺が自分で作った『結界魔法』も俺自身から洩れでる余剰魔力を故意に『異世界物質』へとブツケていた。
【変換機】は、対消滅を起こさない
『虚・異世界物質』をバラ巻くことで
『実・異世界物質』を反発させていた───らしい。
「・・・・・・つまり?」
「コレを着けていたら、洗脳魔法のトレース魔力を『引っ掻きまわす』ことが出来ないかなあ・・と」
「だ・・大丈夫なのか?
危険は無いのか・・!?」
「・・リャター夫人達も身に着けていたんで、『たぶん大丈夫』・・としか」
コレばっかりは山柄さん達、真の【人土】達ウン百年の歴史の努力と技術力の結晶だ。
俺如きが完全に理解出来るモノじゃない。
「人数分あるのか?」
「俺と颯太と【人土】の皆さんの分、20個ちょいですね」
「ディッポ団長、タゥコ、クジャラ、クラッゲ、ナムァコ、ワシ等の妻子8人・・13人分か。
───ワシの妻からヤろうかの。
万一の時はワシが責任をとる」
ヒトゥデさんの、その目には・・若干、狂気すら感じる。
責任とは・・奥さんと自分に対して、だろうか。
ファミリーが何かを言おうとして・・無言で制止されていた。
何も言えなくなった俺も睨まれる。
チカラの差など関係なく殺される───そんな目で。
「───お、お腹か背中・・邪魔にならない位置に・・素肌で」
「了解だの」
ヒトゥデさんが奥さんのいる道場へ。
「す・・すみません・・」
「謝るな、我等も同罪よ。
エロ親父に見えてもアレで・・兄弟イチ、苛烈な男なのである」
・・数分か数時間か。
果てが見えない時間がたち───
───よたつく奥さんと共に、疲れはてながらも笑顔のヒトゥデさんが道場から帰ってきた。




