182『実は密かに、可愛らしい寝顔に欲情していたのは秘密です。』
「終ったかの?」
妻子を助けに行くメンバーが話しかけてくる。
リラキアさんとは目を合わせない。
罪悪感から逃げるため・・ではなく、怯えさせないため。
リラキアさんは・・頭では分かっているようだけど、体が先に怯えているのか───足をしきりに擦っている。
ジキアを産むよりもっと前───
ジキアの父親に助けられだす前の悪夢を思いだすのかもしれない。
「ホントに皆さんだけで大丈夫ですか?」
「うむ。
この街でワシ等と戦えるのは『ウエスト傭兵団』ぐらいなモンだがの。
ヤツ等は今、遠征中ゆえに問題ないの」
なら大丈夫・・か。
「「あーー・・・・」」
タゥコさん・・。
クジャラさん・・。
「・・スゥー・・スゥー・・」
ディッポ団長・・。
「幹太、皆さんのシートベルトを絞めたか?」
「全員終えたよ、父さん」
「では出発します。
まずは安全運転を心掛けますが、敵に見つかるなどしたら飛ばしますので」
父さんがエンジンを掛けると、リラキアさんがキョドキョドしだす。
「じ・・ジキア!?
・・う、馬が居ないわ?
大丈夫なのかしら??」
「母さん、大丈夫ッスよ」
「でも───」
「大丈夫ですよ、リラキアさん」
「分かりました!」
「・・母さん?」
徐々にのスピードを上げる車にリラキアさんが恐怖と希望がこもった息をはく。
「コレから・・どうなるんでしょうか・・」
「まずは俺達の家に。
人が多いんで、息苦しいかと思われますけど───」
「そ、ソレは仕方ありません」
「その後ははぐれた仲間と合流して・・【空の口】を倒します」
「そ、【空の口】・・千年前と二千年に現れた魔王───御伽咄じゃなかったなんて・・」
仕切りの門に到着。
火球を壁の上空からヒトゥデさんが当てた辺りに持ってゆき、当てる。
ぐっ・・見えない位置だからちょいズレたか、音がデカすぎたか・・門番が二人とも反応した。
「ちょっとタイミングがシビアだな。
急発進します」
「うっ・・」
「───・・ふう、無事抜けたッスね。
母さん、大丈夫ッスか?」
「ええ、大丈夫よ」
俺達に心配かけさせないため・・無茶をしているなあ。
魔法使いに嘘は通用しない。
小さな気遣いすら、嘘と見えてしまうこの能力にチクリと罪悪感が突きささる。
燃料節約のためクーラーとかは出来るだけ使わないので、油を加熱して炎をつくる魔力運用を逆に使い、空気を冷やす。
「す・・済みません」
「あー・・コレはオレも覚えたい魔法ッスね」
リラキアさんの顔色が戻るころには【銀星王国首都】を脱出出来た。
「みんなの魔力パスもコッチに来ているな。
聞いてた通りの連れの存在を感じるぞ」
「そこまで分かるんスか」
「何となく、だけどな」
事前打合せしていた集合場所で車を止め、軽休憩。
「リラキアさんでしたか。
幹太の父で秋原 仁一郎と言います」
「あっ、ご挨拶が遅れまして・・。
ジキアの母でリラキアと申します」
父さんとリラキアさんが親同士の挨拶をする間、俺とジキアは車の外へ。
「ジキアだって軽い栄養失調で、安静が必要な身なんだ。
あまり無茶はすんなよ?」
「ええ、その辺は傭兵として心得てるッス」
「そうか・・」
ディッポ団長とタゥコさんとクジャラさんの様子は・・肉体的魔力的な異変はない。
タゥコさんとクジャラさんは魔力の流れが綺麗すぎる。
おそらくは【空の口】の洗脳魔法の効果だけど・・コレは俺一人だと手に負えない。
日本からの転移直前、【魔力体】が魔法になって見えなくなった『アレ』だ。
ヒトゥデさん達を治した時───父さんは
『【巫女化】した俺と颯太が魔法化した魔力を喰っていた?らしい?』
とか、言っていたけど・・。
その事をジキアに言うと、
「御二人が静かになったかと思うと、急速に周囲の魔力が無くなっていき・・ファミリーのみんなからパスのようなモノが───ズルズルっ・・と。
凄いッスね。
御伽咄にでる【巫女】スか」
「御伽咄か・・。
千年前の【空の口】と『三種族』戦いだよな」
「いえ、二千年前の『英雄ヨランギ』と『三者』ッス。
千年前はただ、人類が集結して【空の口】を倒した・・としか」
「・・んん?」
「『三種族』って言葉は聞いたこともないッス。」
「そういやあ・・【ファフニール】を倒して目覚めた後にリャター夫人が【人狼】の事を『人のフリをした魔物』って御伽咄扱いしていたなあ」
この魔物が【人狼】なのか確かめに行く前に日本へ転移したんで別の魔物の可能性もあるけど。
「【コカトリス】退治ん時、ヒトゥデさんから聞いた話───
【スライム】が『三者』の一人『賢者』と、魔王の粘土が混ざって出来た魔物って話は知っているよな?」
「はいッス」
「そこから───」
ジキアに、【人土】達のリーダー山柄さんから聞いた歴史を語る途中、
「ああ・・早く孫が見たいわあ・・♡
とても可愛らしい孫になるわねえ」
「良い相手が見つかるとイイですね」
というリラキアさんと父さんとの舌戦後、ヒトゥデさん達が妻子を救出してきたメンバーが合流するまでする。
よかった。
パスは気のせいじゃなく妻子の皆も無事だ。
・・自由意思がない以上、無事ってワケでもないか。
「取敢ずカンタとジンイチロウ殿は団長達を運んでくれ。
俺達はココで待ってる」
との事で、すべての人を我が家に運びころには次の日を向かえていた。




