178『御互い、バタバタしてからね?ほんとにそんなつもりは無かったのよ!?』
「ジキアぁぁ・・っ!
逃げても無駄だぞっっ!」
転移したその日の晩飯を終えた頃、彩佳のクワガタが魔物の森へと進入してきたディッポファミリー傭兵団を察知した。
◆◆◆
「自衛隊からパクっ・・返しそびれた、例の特殊カメラを搭載させたクワガタの映像よ」
ヒトゥデさん
シャッコさん
アナナゴさん
の、弓矢隊。
イェカさん
ウーニさん
の、クラッゲさんを除いた剣隊。
つまり、ディッポファミリー傭兵団の現・戦闘員が全員来たワケだ。
「凄い殺気だね・・」
颯太が脅えている。
今や、戦闘力なら俺達の方が上のハズ。
しかし・・。
なつき、尊敬した人々が・・自分達に殺意を剥きだしに襲ってくる様は、とてつもなく恐ろしい。
───だけど。
「颯太。
俺は『恐さ』より、こんな事をさせる【空の口】への怒りでハチ切れそうだ!」
「───うん・・そうだね!
よーし、絶対みんなを助けてやる!」
「ど、どうするッスか?」
「皆がオカシくなった原因が【魔力体】だとするなら・・魔力吸収だな」
自衛隊員にとり憑いた【魔力体】は、【人土村】にいた【人土】達が取囲み、根こそぎ吸いとったそうだ。
自衛隊員は魔力を一切持っていない。
彼の中あった魔力は全て【魔力体】以外あり得なかったワケだ。
じゃあ彼等は?
「御義───源太ちゃんさんのようにヒビいく事はないのでは?
魔力が幾らでも周りにある世界なんだろう」
「幹太に吸われた時のリャターさんは、アンタ等姉妹が目の前にいたし・・倦怠感が有っただけみたいよ」
父さんと彩佳と【人土】の皆にも言語チートが付いたんで、俺達が『元・男』と分かるワードは全部NGにしてもらった。
「アタシとザレとビタは、半魔法使いみたいなモンだからか、『ヒビいく』って程じゃないけど───なんとも言えない気持ち悪さがあったわ」
「ど、どんな状況スか・・?
この辺じゃ魔力吸収なんて、カンタさん以外使い手がいないッスから。
【スライム】に捕まっても、いずれ食糧にされるだけッスし」
仮に命掛けの戦闘の後、力を使い果たしても・・何処かで欠片が残っているモノ、らしい。
「彼等の魔力を吸い尽くすのには問題無さそうだな・・。
だけどもう一つ問題があるんだ。
・・手が足りない」
「【巫女】様!
我等、身命を賭して・・」
「ソレじゃ足りないんです。
彼等は一人で熊三頭とやりあう実力の持ち主ですから。
連携を生かせば100頭分以上を倒しきりました」
俺と颯太が転移した日。
犬ゴリラの群に襲われ・・ジキアに、ディッポファミリー傭兵団に初めて会った時。
あの時、一部颯太が手伝ったとはいえほぼほぼディッポファミリー傭兵団だけで全滅させた。
彼等は魔法使いではない。
しかし周囲の魔力を利用して身体強化魔法を使える。
地球人の運動能力の、比じゃあない。
仮に【人土】の皆が全員、金メダリストだとしても尚足りない。
「ソウタちゃんの最大出力は桁違いッスけど、戦闘経験は兄さん等の方が圧倒的に上ッスから」
「うーん・・颯太も、ディッポファミリー傭兵団と最後に模擬戦してから、色々戦闘経験は重ねたんだけどな。
デカイ奴だけで───
黒い川。
『村破級【ビッグボア】』。
『村破級【アルラウネ】』。
『村破級【ワーム】』。
『村破級【スライム】』。
『村破級【コカトリス】』。
リャター夫人と女生徒達。
『村破級【ケルピー】』。
高位貴族ザーロスさん。
その部下。
源太ちゃん。
【ファフニール・ベビー】。
『街破級【ファフニール】』。
『村破級【ナーガ】』数十匹。
『破級外【クワガタ】』一万匹。
『街破級【アジ・タハーカ】』。
【魔力体】───」
「あ・・改めて聞くと無茶苦茶ッスね・・。
ただ、対人戦が殆んど無いッス。
殺そうとしてくる相手を殺さずってのは・・」
「んぅ・・ちょっとキツいねぇ・・」
「という事は・・幹太の出番ね?
アンタ、威力をおとした非殺傷系の魔法をいくつか持ってるじゃない」
「非殺傷・・ッスか・・。
兄さん達に通用するんスかね?」
「そんな強いの?」
「そういや、修行当時の大小自動追尾型魔法は通用しなかったなあ」
「マジ?」
弾速も、今より遅かったとはいえ・・ただの『追尾』である以上、先読みされ同士討ちさせられたりたりした。
防御の厚い部分でワザとくらい、うち消されたりもした。
弾道を見切るのは容易いらしい。
「【ファフニール】の時のは見たッスけど・・アレに近いレベルじゃないと。
威力も、スピードも、火球量も・・」
「だが、そんな炎を森中で使えるかね?」
「あー・・全力に近いとなるとムリだなあ。
と、なると───」
◆◆◆
「こんな屈辱・・っ!
クッ、殺せえぇ!」
「幹太・・恩人をクッコロさせるなんて・・引くわぁ・・・」
「あ、彩佳のせいだろ!?」
ディッポファミリー傭兵団を大人しくさせるのに、土魔法を選んだ。
彼等をも捕らえきれるようかなり広範囲の土を持ち上げ、超圧縮。
押し潰さないよう、中は小部屋に成っている。
その最中、隣で彩佳が───
「そりゃ、こんなん出来るなら仮設トイレも一発ね」
───と、のたまったせいで無意識に完成図をトイレにしてしまった。
今、ディッポファミリー傭兵団はトイレの内側から扉 ( に、成る部分 ) を叩いている。
・・魔法の極意は想像力。
魔力という原子に、どういう運動させるかをイメージさえ出来れば『物理学』を飛び越え『魔法』という現象が発生される。
故に想像力を刺激されれば、こういった暴発も起こりうる。
・・だから俺は悪くない・・ハズ。
皆からの視線は痛いが。
ご免なさい。




